番外編 不和
現実味を出すために試行錯誤しながら書いたのですが、合わないところがあるかもしれませんご了承ください
三人は、日が昇ってから数時間ほど経った頃に目を覚ました。
俺は返り血の臭いすら気にならないほど疲れていたらしい。
だが、目を覚まして少しすると、さすがに自分の身体から漂う臭いが気になってきた。
二人も目を覚ます。
「おはよう」
「おはよう……」
互いに声を掛け合う。
すると、カリンが昨夜から気になっていたことを口にした。
「ねえ、夜にすごい音がしてたけど……何があったの?」
「ゾンビがいたから、ぶち殺しただけだ」
「……だけって」
カリンは少し引いた顔をした。
「それで、手がかりは見つかったの?」
「何も。ミナとリオに繋がりそうなものはなかったな」
すると、エバも会話に加わってきた。
「私たちじゃないと分からないものもあると思う。もう一度、私たちも一緒に探さない?」
「まあ、それでもいいけど……」
俺は少し考え、首を傾げた。
だが、それより先に別の問題が頭に浮かんだ。
「……それより、プールに行かないか?」
「プール?」
「洗濯もしたいし、シャワーも浴びたい。俺、このままだと自分でも臭くてたまらん」
二人は顔を見合わせた。
そして、俺の血まみれの服や身体を見る。
「……それは、そうだね」
「うん……行こう」
二人も納得したようだった。
そのとき、カリンがふと思い出したように尋ねてきた。
「そういえば、あなたの家は?」
「俺の家?」
「うん。家族とか……大丈夫なの?」
俺は少し黙った。
「俺の家はな――」
――その頃。
タツヒデの故郷では――。
「もう食料がなくなるぞ。どうするんだ?」
山本が苛立った様子で私を問い詰めてきた。
「そんなことは分かってる。だから自給自足を考えてるんだろうが」
恭介がそう返すと、今度は山本がまた口を挟んできた。
「考えてるだけだろ。まだ何もやってないじゃないか」
「黙れ。配給を待ってるだけで、家にこもってるお前に言われたくないわ」
「二人とも、いい加減にしろ!」
私が声を荒らげると、二人は黙り込んだ。
私は一度息を吐き、考えていた案を口にした。
「手はある」
二人がこちらを見る。
「山の中に、牧場と養鶏場が一緒になった場所があっただろう。そこへ行って、残っている牛や馬、それに鶏を確保する」
「そんな無茶な……」
山本が顔をしかめる。
「もし、あいつらに食われてたらどうするんだ?」
「もちろん、その可能性もある」
私はそう言って、窓の外へ目を向けた。
「だが、他に手がない。ここで何もしなければ、いずれ本当に食料が尽きる」
誰も口を開かなかった。
「それに、希望がないわけじゃない」
私は続けた。
「一緒についてきてくれる奴が必要だ。みんな、あの群れを見てから尻込みしてるからな」
しばらく沈黙が続いた。
すると恭介が立ち上がった。
「俺は行く」
「恭介……」
「ここで何もせず餓死するよりマシだ」
その言葉に、山本も渋々といった様子で息を吐いた。
「……仕方ない。俺も行く」
そして私を見て、
「だが、これじゃ人数が足りないぞ」
「分かってる」
私は頷いた。
「集落の中から、協力してくれる奴を募るしかない」
私は二人に向き直った。
「じゃあ二人は、出口の前にみんなを集めてくれ」
「分かった」
「了解」
二人が外へ向かっていく。
その背中を見送った私の横で、妻が不安そうな顔をしていた。
「……あなた」
私は振り返る。
妻は何か言いたそうにしていたが、しばらく口を閉ざしたままだった。
その表情を見て、私にも分かっていた。
今回の探索は、今までとは違う。
帰ってこられない者が出るかもしれない。
それでも、行くしかなかった。
十五分後。
恭介と山本の呼びかけによって、集落の人間が出口前に集まった。
ざわつく人々を前に、私は一歩前へ出る。
「皆、分かっていると思うが、我々は今、食料が不足している」
集まった者たちの顔を見渡す。
「このままでは、いずれ食料は尽きる。だからこれから、外へ捜索隊を出す」
私は続けた。
「参加してくれる者は、ここに残ってくれ」
すると、後ろの方から声が飛んできた。
「てか、なんであんたが仕切ってるんだ?」
近所の若者だった。
それを皮切りに、何人かが続けて不満を口にする。
「勝手に決めるなよ」
「危険すぎるだろ」
「誰か死んだらどうするんだ?」
好き勝手に飛び交う声に、私は思わず声を張り上げた。
「黙れ!!」
一喝すると、辺りが静まり返った。
私は荒くなった息を整え、ゆっくりと言葉を続けた。
「……私には二人の息子がいる」
誰も口を挟まない。
「その二人が帰ってくるまでに、この集落を少しでも万全な状態にしておきたい。私はそう思っている」
私は集まった人々を見渡した。
「それに、私はこの土地を持っている。この集落を最初に作ろうと言い出したのも私だ」
一度言葉を切る。
「だから、この場所を背負う責任が私にはある」
誰も何も言わない。
「ここにいる限り、私は誰も犠牲にしたくない」
拳を握る。
「だからこそ、何もしないわけにはいかないんだ」
しばらく沈黙が続いた。
先ほどまで不満を口にしていた者たちも、今度は反論することなく黙っている。
やがて、一人の男が手を上げた。
「……じゃあ、俺も行く」
続いて別の男も手を上げる。
「俺も」
「私も行きます」
一人、また一人と手が上がっていく。
最終的に、捜索隊に参加するために残ったのは十五人ほどだった。
私はその人数を見渡し、小さく頷いた。
「……ありがとう」
その言葉の裏には、誰一人として欠けずに帰ってきてほしいという願いがあった。
だが、このときの私はまだ知らなかった。
この十五人の中から、誰かが戻ってこられなくなることを。
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