先行投資
その頃、俺たちはプールへ移動していた。
幸いにもプールにはまだ水が張っていた。水の臭いを嗅いでみると、塩素の臭いはほとんどしない。どうやら、水を張ってそこまで経ってないみたいだ。
周囲に危険がないことを確認すると、俺は真っ先に水へ飛び込んだ。
風呂に入っていなかったのは、一週間近くになる。
汗と返り血が染みついた身体を水に沈める。
「……生き返るな」
思わず声が漏れた。
一通り身体を洗い終えると、服を脱いでプールの金網に掛けた。
革ジャンに付いた血は完全には落ちなかったが、できる限り水でこすって落としておく。
半裸になった俺を見て、二人は気まずそうな顔をしていた。
まあ、今さらそんなことを気にしている余裕もない。
「とりあえず、服が乾くまでここにいようか。俺は見張ってるから、君たちも入ってきなよ」
半ば強引に提案すると、二人は顔を見合わせた。
「……分かった」
二人が水へ向かうのを確認して、俺は更衣室へ向かった。
せっかくなら、シャンプーくらい残っていないか探してみることにした。
ロッカーを一つずつ開けていく。
ほとんどは空だったが、しばらく探していると未開封のシャンプーが見つかった。
「お、あった」
さらにその近くには、缶ジュースまで置かれていた。
しかも、まだ開けられていない。
俺はそれを手に取ってしばらく眺めた。
「ジュースなんて、この世界じゃもう貴重な嗜好品かもな……」
そんなことを呟きながら、迷わずプルタブを開ける。
プシュッ。
その音が妙に心地よかった。
俺は缶を口に当て、そのまま一気に飲み干した。
「……うまい」
たった一本のジュースが、こんなにありがたく感じる日が来るとは思わなかった。
そうして更衣室を後にした俺は、プールに浸かっている二人に気づいた。
「ほら」
俺は見つけたシャンプーを二人のほうへ投げた。
「それ使えよ」
「ありがとう」
それだけ言い残し、俺は更衣室の屋根へと上がった。
煙草に火をつけ、周囲を見渡す。
今のところ、ゾンビがこちらへ寄ってくる気配はない。
しばらくすると、日差しがどんどん強くなってきた。
時計を見ると、あれから三時間ほど経っていた。
服もすっかり乾いている。
「そろそろ行くか」
俺は屋根から降り、二人のもとへ向かった。
「とりあえず、学校の中で見落としているものがないか確認してくる。ここで待っててくれ」
そう提案すると、エバが首を横に振った。
「私たちにも役に立てることがあるんだから、もっと頼ってよ」
カリンも頷く。
「そうだよ。ずっと守られてるだけっていうのも嫌だし」
「んー……」
俺は腕を組んで考えた。
二人を連れて行けば、もし何かあったときに守りながら戦わなければならない。
「こういう状況で、二人を守りながら動けるかどうか……」
俺が迷っていると、エバが少し笑った。
「私たちが役に立てるようにするための先行投資よ」
「先行投資?」
「そう。やってみないと分からないでしょ?」
カリンも続ける。
「私たちだって、何もできないわけじゃないよ」
二人の顔を見る。
確かに、いつまでも俺一人で全部を背負うわけにもいかない。
「……分かったよ」
俺は渋々頷いた。
「ただし、危なくなったら俺の指示に従え。無茶はするな」
「分かった」
「うん」
こうして俺たちは、三人で再び学校内の探索を始めることになった。




