番外編 家
現実味を出すために試行錯誤しながら書いたのですが、合わないところがあるかもしれませんご了承ください
世界が終わる十五日前。
その日、俺は珍しく朝早く起きて、両親と朝食を囲んでいた。
何気なくテレビを眺めていると、ニュースキャスターが深刻そうな表情で原稿を読み上げていた。
「昨夜未明、成田空港で入国した男が突然乗客に噛みつき、傷害を負わせました。男はその後、取り押さえようとした警察官にも噛みつき、公務執行妨害および傷害の疑いで現行犯逮捕されています。噛まれた警察官は病院へ搬送されました。警察は、容疑者が何らかの薬物を使用していた可能性も含め、詳しく調べています。」
俺は「変な事件もあるもんだ」くらいにしか思わず、ニュースを聞き流していた。
だが、親父は箸を止めてテレビを見つめながら言った。
「日本も物騒になったもんだな。」
母さんも心配そうに俺を見る。
「あんた、東京へ行ってもこういう事件に巻き込まれそうになったら、すぐ逃げるのよ。」
俺は黙ってうなずいた。
すると親父が笑いながら言う。
「こいつにそんな度胸あるわけないだろ。」
「……ひどいな。」
思わず口を尖らせたが、反論できなかった。
自分でも、たぶんその通りだと思っていたからだ。
あの時は、誰も知らなかった。
それが世界の終わりの始まりだったことを。
そして終末世界一日目、タツヒデの実家にて
## 番外編 終末世界一日目 タツヒデの実家にて
私は仕事を終え、家へ帰ってきた。
その日は仕事が早く終わり、まだ十四時ごろだったと思う。
暇だったのでラジオをつけ、煙草をふかしながら仕事道具の手入れをしたり、次の仕事で使う材木を整理したりしていた。
するとラジオから臨時ニュースが流れてきた。
「先日、成田空港で傷害事件を起こした男に噛まれ入院していた警察官が、病院内で暴れ、複数の患者に噛みつきました。噛まれた患者も同様の症状を示しており、現在病院は封鎖されています。」
最初は何かの冗談かと思った。
だが、アナウンサーの震えた声だけが妙に耳へ残った。
少し嫌な予感はしたが、その時はまだ他人事だった。
その日の夜。
妻と床に就こうとしていた時、一本の電話が鳴った。
タツヒデだった。
「親父、東京がやばい。すぐニュースを見てくれ。」
それだけ言うと、電話の向こうから慌ただしい物音が聞こえた。
私は急いでテレビをつけた。
そこに映っていたのは、東京上空からの映像だった。
街中を埋め尽くす暴徒。
それを食い止めようとする自衛隊。
炎上する車。
響き渡る銃声。
思わず窓の外を見る。
いつもなら静かな夜道なのに、車が何台も列を作っていた。
「親父。」
電話の向こうでタツヒデが言った。
「やばくなったら道路を大型車で塞いで立てこもれ。それと食料と水をできるだけ買っておいてくれ。」
そう言い残し、電話は切れた。
私たちはその後もしばらくニュースに見入っていた。
気づけば、そのまま眠ってしまっていた。
翌朝。
仕事どころではないと思い、妻と近所のスーパーへ向かった。
店内は人であふれ返っていた。
食料、水、乾電池。
棚はみるみる空になっていく。
中には商品を奪い合い、怒鳴り合っている者までいた。
私たちは必要最低限の物資だけを確保し、急いで家へ戻った。
妻も会社から「しばらく休業する」と連絡があったらしい。
もう元の生活には戻れない。
そう悟った。
私はすぐ友人や仕事仲間へ連絡を入れ、人を集めた。
集まった者たちと協力し、道路には放置されていた大型トラックを横倒しにして封鎖する。
細い抜け道には、仕事で使う木材を利用して何重にも柵を組んだ。
猫一匹通れないほど頑丈なバリケードだった。
作業を続けていると、タツヒデの友人たちがやって来た。
どうやら息子が「親父のところへ行け」と連絡していたらしい。
彼らも作業を手伝ってくれたおかげで、夕方には集落を囲む防衛線が完成した。
人数を数える。
ざっと50人。
私の友人。
仕事仲間。
近所の住民。
そしてタツヒデの友人たち。
守るには十分な人数だった。
だが、安心はできない。
食料はいずれ尽きる。
その不安は誰もが抱えていた。
それでも、その日は完成した集落を祝い、ささやかな乾杯をした。
「これでしばらくは大丈夫だ。」
誰かがそう言うと、皆が笑った。
その笑顔が、本心からのものだったのか、自分を安心させるためだったのかは分からない。
四日後。
町から電気が消えた。
夜は完全な闇に包まれた。
そして、私たちの町にも奴らが現れ始めた。
窓から様子をうかがう。
ゆっくりと歩く人影。
だが、その姿は人間ではなかった。
顔は血だらけで、皮膚は腐り落ち、獣のような声を上げている。
私は確信した。
もう、この世界は終わったのだと。
それでも私は決めた。
タツヒデと、もう一人の息子が帰ってくるその日まで。
何があっても、この集落を守り抜くと。
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