生存者
現実味を出すために試行錯誤しながら書いたのですが、合わないところがあるかもしれませんご了承ください
高速道路を諦めた俺は、下道へと車を走らせた。
人気のない道路を進みながら、周囲を警戒する。
信号は消え、道路には乗り捨てられた車があちこちに転がっていた。
街は静まり返っている。
聞こえるのはエンジン音だけだった。
しばらく走っていると、道路脇に人影が見えた。
女が二人、男が一人。
距離があるせいで顔までは分からない。
俺はアクセルを踏んだまま、そのまま通り過ぎようとした。
この世界で他人と関わるのは危険だ。
助けた相手に裏切られるかもしれない。
余計なリスクは背負いたくない。
そう自分に言い聞かせる。
だが、その三人は必死に両手を振りながら助けを求めていた。
その姿がバックミラーに映る。
「……くそっ」
思わず舌打ちした。
見捨てることができなかった。
俺は急ブレーキを踏み、路肩へ車を寄せる。
窓を開け、大声で叫んだ。
「早く乗れ!」
二人の女はすぐにこちらへ駆け出した。
だが男だけは動かない。
女たちは必死に説得しているようだったが、男は周囲を警戒しているのか、それとも俺を信用できないのか、なかなか車へ向かってこなかった。
「早くしろ!」
焦りが募る。
その瞬間だった。
物陰から三体のゾンビが飛び出した。
男は反応する間もなく喉元に噛みつかれる。
「ぐっ……!」
悲鳴すら上げられず、その場へ崩れ落ちた。
二人の女は悲鳴を上げながら車へ飛び込んでくる。
俺はドアが閉まるのを確認すると、アクセルを床まで踏み込んだ。
タイヤが悲鳴を上げ、車は一気に走り出す。
バックミラーには、倒れた男へ群がるゾンビたちの姿が映っていた。
助けられなかった。
だが、あれ以上はどうすることもできなかった。
俺はアクセルを踏み込み、その場を離れた。
バックミラーを見る。
さっきの男はもう動いていなかった。
助けられなかった。
だが、あの状況では仕方がない。
そう自分に言い聞かせながら、人気のない場所まで車を走らせた。
ようやく周囲が静かになったところで、俺は二人の顔を見た。
「……え?」
思わず声が漏れる。
見間違えるはずがない。
一週間前、東京で復刻ライブを見に行ったアイドルグループのメンバーだった。
「嘘だろ……」
こんな偶然があるのか。
俺の鼓動はさっきまでとは違う意味で速くなっていた。
だが、同時に疑問も浮かぶ。
グループは四人組だったはずだ。
ここにいるのは二人だけ。
残りの二人はどこへ行ったのだろうか。
聞きたいことは山ほどあった。
だが今は、まず安全を確保することが先だ。
俺は何も言わず、車を走らせ続けた。
しばらくして、人の気配がない建物を見つける。
周囲を確認し、車を止めた。
「ここなら少しは安全だろ」
俺は車を降り、大きく息を吐く。
張り詰めていた緊張が一気に押し寄せてきた。
深呼吸をしていると、二人も車から降りてきた。
「さっきは、本当にありがとうございました」
俺は黙ってうなずく。
なぜかうまく言葉が出てこない。
推しを目の前にして緊張しているなんて、自分でも情けなかった。
そのまま逃げるように建物の中へ入る。
中を一通り見回り、安全を確認する。
「よし……誰もいないな」
一息つこうとしたところで、一人が遠慮がちに口を開いた。
「あの……あなたのお名前は?」
「タツヒデ」
短く答える。
すると、二人も頭を下げた。
「私はカリンです」
長い黒髪が印象的な女性だった。
「私はエバです」
ショートボブがよく似合う、笑顔のかわいい女性だった。
俺は思わず笑ってしまう。
「知ってるよ」
「え?」
「ライブ、見に行ったから」
二人は顔を見合わせる。
「本当ですか?」
「ああ。」
その瞬間、二人の表情が少しだけ明るくなった。
終末なんて嘘だったかのように、しばらく三人で他愛もない話をした。
こんなに自然に女性と話したのは、自衛隊を辞めて以来かもしれない。
気づけば一時間ほど経っていた。
そこで俺は、ずっと気になっていたことを聞いた。
「そういえば、さっきの男の人は?」
カリンが静かに答える。
「私たちのSPです」
やはりそうか。
「じゃあ……ミナとリオは?」
二人は俯いた。
しばらく沈黙が続く。
やがてエバが震える声で話し始めた。
「避難所へ向かう途中で、事故があったんです」
「私たちは二人ずつ別々の車に乗せられていて……そこではぐれてしまって……」
言葉が詰まる。
カリンが続きを話した。
「私たちだけじゃ探せなくて……だからSPさんについてきたんです」
そして二人は俺を真っすぐ見つめた。
「お願いがあります」
「ミナとリオを、一緒に探してもらえませんか?」
俺は黙った。
正直、危険なことはしたくない。
余計なリスクを背負うのも好きじゃない。
それでも。
四人で笑っていたライブの光景が頭に浮かぶ。
「……分かった」
気づけばそう答えていた。
二人はほっとしたように笑う。
「ありがとうございます」
外を見ると、もう日が傾き始めていた。
「今日はもう遅い」
「探すのは明日にしよう」
「今日はここで休む」
二人も素直にうなずいた。
この時の俺たちは、まだ知らなかった。
この世界で本当に恐ろしいのは、ゾンビではない。
――人間だということを。
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