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終末世界で俺は  作者: やまてい


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2/8

生存戦略

現実味を出すために試行錯誤しながら書いたのですが、合わないところがあるかもしれませんご了承ください


二年前、俺は自衛隊を辞めた。


高校生の頃から憧れていた仕事だった。


人の役に立ちたい。


強くなりたい。


そんな思いだけで入隊した。


だが現実は、俺が思い描いていたものとは違った。


周りとの価値観の違い。


社会の厳しさ。


日に日に心はすり減っていき、気づけば何のために頑張っているのかも分からなくなっていた。


辞めることを両親に打ち明けた日のことは、今でも忘れられない。


父は机を叩き、怒鳴った。


「なぜだ! 高校生の頃からあれだけ頑張ってきたのに、今さら投げ出すなんて許さん!」


返す言葉が見つからなかった。


ただ黙って俯くことしかできなかった。


そんな中、母だけは静かに口を開いた。


「頑張れるだけ頑張ったんでしょ。無理なら辞めてもいいんだよ」


その言葉に、どれだけ救われたか分からない。


そして三か月後、俺は自衛隊を退職した。


辞めた直後は、とにかく自由だった。


バイクに乗った。


キャンプへ行った。


親父と狩りにも出掛けた。


今まで遊べなかった友人とも遊び、朝まで酒を飲み交わした。


あの頃は、本当に楽しかった。


だが、そんな生活は長く続かない。


貯金は少しずつ減り、やがて底をついた。


働かなければ、生きていけない。


俺は泣く泣くアルバイトを始めた。


しかし、どの職場へ行っても長続きしなかった。


人間関係。


仕事の内容。


何もかもが自分には合わなかった。


気づけば趣味以外に何もなくなっていた。


残り少ない金で、その日暮らしの生活を続ける毎日。


生きているというより、時間だけが過ぎていくような感覚だった。


――だが、今は違う。


ここは、生きるか死ぬかの世界だ。


動かなければ死ぬ。


食料がなければ死ぬ。


油断すれば死ぬ。


なのに不思議だった。


今まで感じたことのない高揚感が胸を満たしていた。


「……なんて皮肉なんだ」


こんな世界になって、ようやく俺は生きていると実感していた。


俺は深呼吸し、紙切れを取り出した。


生き残るために必要なことを書き出す。


・食料の確保


・水の確保


・武器


・移動手段


・故郷へ帰る


「……まずは物資だな」


俺は腹をくくり、一週間立てこもっていたホテルの部屋を出た。


廊下には数体のゾンビが徘徊している。


まだ武器はない。


俺はすぐに部屋へ戻り、椅子の脚を力任せにへし折った。


先端を削り、即席の杭を作る。


見栄えは悪いが、素手よりは何倍もましだ。


完成した杭を握りしめ、もう一度廊下へ出る。


息を潜め、一歩ずつ進む。


足音すら立てないよう慎重に歩き、ようやく非常口へたどり着いた。


「よし……」


そう呟き、ドアノブを回した瞬間。


キィィィィィ……


金属が軋むような甲高い音が静まり返った廊下に響き渡る。


しまった。


気づかれた。


ゾンビたちが一斉にこちらを向く。


「ちっ!」


俺は迷わず非常階段を駆け下りた。


足音が背後から迫る。


転げ落ちそうになりながらも一気に一階まで下り、そのまま外へ飛び出した。


冷たいビル風が頬を叩く。


「……はぁ、はぁ……」


少し走ったところで振り返る。


追ってくる気配はない。


思ったより楽勝だったな。


そう安心したのも束の間だった。


街を見渡していると、一台の車と、一人の死体が目に入った。

街を見渡していると、一人の自衛官と、一台の車が目に入った。


俺は警戒しながらゆっくり近づく。


死体はすでに冷たくなっていた。


制服は血に染まり、顔は判別できないほど傷ついている。


「……すまない」


小さく呟き、装備を確認した。


小銃はない。


だが、腰には拳銃が収まっていた。


「幹部か……」


階級章を見る。


「三尉……いや、今は少尉って呼び方だったか」


思わず苦笑いする。


こんな状況でも、自衛隊のことだけは体が覚えていた。


俺は拳銃とホルスターを受け取り、マガジンを確認する。


残弾は九発。


心細い。


だが、丸腰よりは何倍もましだった。


そして、その隣に止まっていた車を見た瞬間、思わず息をのんだ。


「……嘘だろ」


そこにあったのは、青いインプレッサ GDB STI。


昔から憧れていた車だった。


しかも鍵が刺さったままになっている。


「乗ってみたかったんだよな……」


俺は運転席へ飛び乗り、キーをひねった。


ボボボッ……


重低音のボクサーサウンドが静まり返った街に響き渡る。


自然と笑みがこぼれる。


「最高だ」


ゾンビが集まってくることなんて、この時の俺にはどうでもよかった。


アクセルを軽く踏む。


エンジンの鼓動が体に伝わる。


「これなら、故郷まで帰れる」


そう確信した。


だが、その時あることを思い出す。


「装備が足りない」


革ジャン。


丈夫な手袋。


そして、できればもう一丁武器が欲しい。


幸い、この近くに店の場所は覚えていた。


俺はアクセルを踏み込み、その場を後にした。


エンジン音につられ、ゾンビたちが道路へ集まってくる。


だが、インプレッサは軽々とその間を駆け抜けていく。


「さすがだ」


変な信頼を寄せながら、最初の目的地へ到着した。


バイク用品店だった。


店内を見渡し、できるだけ丈夫そうな装備を集める。


牛革のライダースジャケット。


噛まれても歯が通りにくそうな厚手のパンツ。


バイク用グローブ。


足元は安全性を考え、半長靴を選んだ。


鏡に映る自分を見る。


「悪くない」


これなら噛まれても歯は通さないだろう。


装備を整え終えた俺は、ふと考えた。


「……試してみるか」


近くを歩くゾンビへ向かう。


知っておきたかった。


どこを壊せば止まるのか。


どれほどの力が必要なのか。


一本目の鉄パイプを胸へ突き刺す。


だが、ゾンビは止まらない。


「やっぱり心臓じゃないか」


すぐにもう一本の鉄パイプを振り上げる。


ゴッ!


鈍い音が響き、頭蓋が砕けた。


その瞬間、ゾンビは糸が切れた人形のように崩れ落ちる。


「頭か」


答えはすぐに出た。


そこへさらに数体のゾンビが近づいてくる。


俺は落ち着いて一体ずつ頭を狙った。


振る。


砕く。


倒れる。


繰り返すうちに、恐怖は消えていた。


代わりに湧き上がってきたのは、不思議な高揚感だった。


「……俺、何笑ってるんだ」


自分でも気づかないうちに口元が緩んでいた。


人ならざるものを倒すことに、どこか快感を覚えている。


この世界は、人を変える。


いや。


変わったんじゃない。


俺の中に、最初からこういう一面があっただけなのかもしれない。


考えるのをやめた。


今は生き残ることだけを考えよう。


俺は車へ戻り、次の目的地へ向かった。


銃砲店だ。

店の前には数体のゾンビがうろついている。


俺は鉄パイプを握り直すと、一体ずつ確実に頭を叩き潰していった。


乾いた音だけが静かな街に響く。


弾は貴重だ。


こんな相手に使うのはもったいない。


店の周囲の安全を確認すると、ゆっくりとドアを開けた。


「動くな」


低い声と同時に、ショットガンの銃口が俺へ向けられた。


店の奥には五十代くらいの男が立っている。


鋭い目つきで、こちらの様子をうかがっていた。


「何しに来た」


「銃が欲しい。それだけだ」


俺は拳銃を抜くこともなく、その場に立ったまま答えた。


男はしばらく黙って俺を見つめる。


やがて、小さくため息をつくとショットガンを下ろした。


「他の連中は、入ってくるなり襲ってきた。お前は違うみたいだな」


俺は肩をすくめる。


「撃ち合っても、お互い損するだけだろ」


その言葉に男は苦笑した。


「違いねぇ」


男はガンラックの方を指さした。


「好きなのを持っていけ。ただし、生き延びるために使え」


「ありがとう」


俺はその生き延びるためという言葉に優しさを感じながら、店内を見回した。


ボルトアクションライフル。


セミオート散弾銃。


ポンプアクション。


その中で、一挺だけ目を引く銃があった。


ダブルバレルショットガン。


無骨で飾り気のない姿が妙に気に入った。


「これにする」


「渋い趣味してるな」


男は笑いながら対応する弾薬も持ってきてくれた。


俺は銃と弾を車へ積み込む。


積み終えたところで、男が煙草に火をつけながら声を掛けてきた。


「あんた、これからどうするつもりだ」


俺は少しだけ空を見上げた。


灰色の空。


静まり返った街。


答えはもう決まっていた。


「故郷に帰る」


自然と口から出た言葉だった。


男は何も言わず、店の奥へ引っ込む。


しばらくすると、一振りの狩猟用ナイフを手に戻ってきた。


革製のシースに収められた、使い込まれた一本だった。


「持っていけ」


「いいのか?」


「こんなご時世だ。一本あって困るもんじゃねぇ」


俺はナイフを受け取り、腰へ差した。


「恩に着る」


男は煙を吐きながら笑った。


「死ぬなよ」


俺も笑い返す。


「おっさんもな」


短い別れだった。


もう二度と会えない気がしたが、不思議とそんなことは口にしなかった。


俺は車へ乗り込み、静かにアクセルを踏んだ。


銃砲店を後にした俺は、故郷へ向けて車を走らせた。


地図を見れば、最短なのは高速道路だった。


多少危険でも、早く帰れるならその方がいい。


そう考え、俺は高速道路へ向かった。


料金所には誰もいない。


バーは上がったままになっていて、そのまま通り抜けることができた。


しばらく走る。


道路には乗り捨てられた車が何台かあるだけで、不気味なほど静かだった。


「案外いけるか……?」


そう思った矢先だった。


緩やかなカーブを曲がった瞬間、俺は息をのんだ。


「……なんだ、あれ」


道路いっぱいに広がる黒い影。


最初は事故かと思った。


だが違う。


すべて人だった。


いや、人だったものだ。


何千、いや一万はいるだろう。


高速道路を埋め尽くすほどのゾンビの群れが、うごめいていた。


思わずブレーキを踏む。


車内が静まり返る。


「突破なんて無理だ……」


一体や二体ならどうにでもなる。


だが、これは災害だった。


車で突っ込んでも途中で止まる。


止まった瞬間に囲まれて終わりだ。


俺は静かにギアをバックへ入れた。


エンジン音を立てすぎないよう慎重に後退する。


幸い、まだこちらには気づいていない。


バックミラーと前方を何度も確認しながら、ゆっくりと距離を取る。


ようやく料金所まで戻ると、高速道路を降りた。


「遠回りでも、生きて帰れればそれでいい」


俺はそう呟き、下道へハンドルを切った。


住宅街を抜け、人気のない道路を走る。


信号はすべて消え、街には風の音しか響いていない。


しばらく走っていると、道路脇で何かが動いた。


ゾンビじゃない。


人だ。


三人の人影が、必死にこちらへ向かって手を振っている。


「……生存者か」


俺は一瞬だけアクセルを緩めた。


助けるべきか。


いや、関わるべきじゃない。


この世界で他人を信用するのは、自殺行為だ。


俺はそのまま通り過ぎようとアクセルを踏み込む。


だが、バックミラーに映る三人の姿が頭から離れない。


必死に手を振る姿。


助けを求める叫び。


「……くそっ」


思わず舌打ちする。


結局、俺はブレーキを踏み、車を路肩へ寄せた。


「今日だけだぞ……」


そう呟きながら、窓を開けて三人へ向かって叫んだ。


「早く乗れ!」




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