抑制
現実味を出すために試行錯誤しながら書いたのですが、合わないところがあるかもしれませんご了承ください
親父から叩き込まれたのは、建築だけじゃなかった。
格闘術。
武器の扱い方。
そして、何もない場所で生き残るためのサバイバル術。
「遅い。もう一度だ」
親父が冷徹に言う。
「またかよ……」
愚痴をこぼしながらも、俺は言われた通りに同じ動きを繰り返す。
「実際に何かあったとき、動けなきゃ意味がねぇだろ」
「分かってるって」
「分かってねぇから言ってんだ」
親父はそう言って、また俺の動きを見る。
建築現場では、木材の扱い方や道具の使い方。
壊れたものを直す方法。
簡単な小屋や足場を組む方法。
山や野外では、水の確保や火の扱い。
食料がないときの動き方。
危険な場所を避ける判断。
そして、身を守るための格闘術や武器の扱い。
「これぐらい身につけるの、働くより簡単だろ」
親父はいつものように皮肉を言う。
「はいはい……」
俺は適当に返しながら、また動きを繰り返した。
当時は、こんなことを覚えて何になるんだと思っていた。
親父は相変わらず厳しかった。
けれど――
その冷徹そうな顔の奥には、少しだけ嬉しそうなものがあった。
俺が一つずつ覚えていくことを、誰よりも喜んでいたのだと思う。
ーーー現在ーーー
「その服装でいいのか?」
「うん、このほうが動きやすいし」
ミナがそう答える。
そのままカリンやエバも交え、少しばかし談笑していた。
そのときだった。
――ガタン。
ふと、誰かが入ってくる音がした。
タツヒデはすぐに表情を変える。
「隠れろ」
三人に小声で諭す。
カリン、エバ、ミナは慌てて物陰へ身を隠した。
タツヒデも身を潜めながら、入ってきた者たちの様子を窺う。
見えたのは、男四人組だった。
武器は鉄パイプやバットなど、近接武器だけ。
男たちは周囲を見回しながら、棚や荷物を漁っている。
「……物をあさってるだけか」
今のところ、こちらを探しているようには見えない。
だが、タツヒデは警戒を解かなかった。
四人もいる以上、見つかれば厄介なことになる。
男たちの動きをじっと観察しながら、タツヒデは息を潜めていた。
「ねえ」
エバが小声で言う。
「なんだ?」
俺も小声で返す。
「あの人たちに、ついていこうよ」
「なんでだ?」
「もしかしたらだけど……ついていったら、あの人たちと敵対せずにリオを見つけられるかも」
「確かに。だが……」
俺は、物陰から男たちの様子を窺う。
四人とも、まだこちらには気づいていない。
「信用できるか分からないぞ」
「でも、私たちだけで探すよりは手がかりが見つかるかもしれない」
エバの言葉に、俺は少し考え込んだ。
確かに、この場所で待っていてもリオが見つかる保証はない。
あの四人がどこから来て、どこへ向かうのか。
それを追えば、何か手がかりが得られる可能性はある。
「……分かった。ただし、距離は取る」
「うん」
エバが小さく頷く。
「絶対に見つからないようにするぞ」
俺はそう言って、再び男たちの動きを追った。
「今日も収穫なしだな」
「ほんとだよ」
「まあ、いいじゃねえか」
男たちがそんな会話をしながら歩いている。
俺たちは物陰に身を潜め、話を盗み聞きしながら、少しずつ距離を詰めていく。
だが、そのときだった。
「ん? なんだ、あの車」
男の一人が、俺たちの車に気づいた。
「おい、キーがついてるぜ」
「なんだよ。もらうのか?」
男たちが車へ近づいていく。
まずい。
あの車を失えば、今まで集めてきた食料も武器も、全部失うことになる。
「……計画変更だ」
俺は小声で呟いた。
だが、すぐに迷いが生まれる。
「いや……だめだ」
「どうしたの?」
エバが小声で聞いてくる。
俺は男たちと車を交互に見た。
仕方ない。
「……車を取られるわけにはいかない」
男たちはそんなことも知らず、車の周りでふざけ合っている。
「エンジンかかるかな?」
その瞬間、俺は物陰から飛び出した。
一人の男の頭へ、手にしたバールを振り下ろす。
「――がっ!」
男がその場に倒れる。
「なんだ、お前!?」
別の男が金属バットを振り回してくる。
俺はバールで受け止めた。
金属同士が激しくぶつかり、甲高い音が響く。
つばぜり合ったバットに滑らせて、叩き落とす。
腰に差していた手斧を抜く。
そして――一気に振り下ろした。
残った男たちは、突然の出来事に動きを止めている。
そのうちの一人は、恐怖で腰を抜かした。
「来るな……」
男は地面に尻をついたまま、震えている。
「来るな、来るな……!」
俺は手にした武器を下ろさず、男を睨みつけた。
「なんなんだ、てめえ」
最後の一人は、見たところ俺よりも体格がよく、太っている。手には斧を握っていた。
男が斧を振り上げ、そのまま俺に向かって振り下ろしてくる。
俺は横へ飛んで、それをかわした。
斧が地面に食い込む。
俺はすぐに斧の柄を踏みつけた。
「ぐっ……!」
男が斧を引き抜こうとするが、俺が踏みつけているせいで抜けない。
そのまま男は斧を手放し、拳を握った。
逃げる気はないらしい。
「来いよ……!」
格闘戦に持ち込むつもりか。
俺は手にしていたバールと斧をしまった。
男が一瞬、動きを止める。
その隙に、腰の拳銃へ手を伸ばした。
「な――」
拳銃を抜き、男の胸元へ向ける。
「……!」
男の顔が引きつった。
――パンッ。
至近距離から放った弾丸が、男の胸を撃ち抜いた。
男はその場に崩れ落ちた。
なぜか高揚感がある。
興奮しているのか多幸感が全身を駆け巡る。
俺は少しばかり、その場に立ち尽くしていた。
「ねえ! ねえ!」
カリンが俺の体を揺さぶる。
俺はふと我に返った。
俺は倒れ込んでいる男に近づいた。
「やめろ、やめろ!」
わめいている男のこめかみに、俺は蹴りを入れた。
「ガッ!」
男はその場で気を失った。
「ここまでしなくても……」
ミナが言った。
「ここまでだと? 俺たちの物資を奪われそうになったんだぞ!」
俺は強く怒鳴った。
だが、そのとき、後から来たエバとカリンが心配そうな顔でこちらを見ていることに気づいた。
「……悪かった。言い過ぎた」
そう言ってから、俺は二人から視線を逸らす。
「だが、こういうことも今後はある。躊躇してはいけない」
そう口にしたものの、俺は自分自身を悔いていた。
本当に、ここまでしなくてもよかったのではないか。
自分を信じてついてきてくれているのに、ましてや自分が推してたアイドルに、あんな言葉をぶつけてしまった。
胸の奥に、嫌な感覚が残っていた。
「ミナが言いたいことも分かる。でも、タツヒデさんが正しいわ。私たちも殺されかけたから……分かる」
カリンがそう言って、ミナを諭してくれた。
「……まあいい」
俺は気持ちを切り替えるように立ち上がった。
「さっきの音で、感染者が集まってくるかもしれない。死体は燃やす」
倒れている男へ視線を向ける。
「こいつは……置いていくか」
そう言いながら、俺は気持ちを押し殺すように、次の行動へ移った。
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