新たな影
現実味を出すために試行錯誤しながら書いたのですが、合わないところがあるかもしれませんご了承ください
俺は煙草を吸い終えると、車に乗り込み、学校へ戻った。
学校へ戻る途中、せっかくだからこの車の走行性能を試してみることにした。
「ほぼ段差のないジムカーナーみたいなもんだが……やってやるか」
俺は、さっきの恥ずかしさを忘れるようにアクセルを踏み込んだ。
コーナーに差しかかる。
ハンドルを切ると、タイヤがキュルキュルと悲鳴を上げた。
「うおっ……!」
後部座席に積んでいた荷物が、曲がった方向へ一斉に跳ね飛ばされる。
「これは犯罪ものだな」
自分で言っておきながら、俺はさらにアクセルを踏み込んだ。
「やっぱ、こういう車はいいな!」
そのまま勢いよく走り続けると、ほどなくして学校が見えてきた。
「さすがインプだな」
俺は感心しながら車を止めた。
すると――
エンジン音を聞きつけたのか、エバが学校の玄関前に立っていた。
俺が車から降りると、エバは険しい顔で近づいてくる。
「何してるの?!」
「え?」
「こんな大きな音を出して! ゾンビだけじゃなくて、生きてる人間に見つかったらどうするの?」
「……ああ」
確かに、その通りだった。
「ごめん」
俺は少し弱腰になりながら頭を下げる。
「……もう。気をつけてよね」
「はい……」
俺はそそくさと車から荷物を降ろし、学校の中へ入っていこうとすると、エバが後ろから声をかけてきた。
「……ねえ」
「ん?」
エバは少し迷ったような顔をしてから、俺の煙草を指差した。
「それ……一本もらえない?」
「ばれてたか」
「うん」
俺は少し意外に思った。
「吸うのか?」
「今まで吸ったことない。でも……なんか、ちょっと落ち着きたくて」
「俺もやめてたんだが、こんな世界になって振り切ったんだが、あんまりおすすめしないけどな」
「じゃあ、やめとく」
エバはあっさり引き下がった。
「……いや、待て」
俺は煙草を一本取り出して差し出した。
「一本だけな」
「いいの?」
「ああ。ただし、これでハマっても知らんぞ」
「大丈夫よ」
エバは煙草を受け取る。
だが、火をつけようとして――
「……どうやって吸うの?」
「お前、吸ったことないんじゃん」
「だから聞いてるの」
俺は思わず苦笑した。
「……まあいい。今日は教えてやるよ」と少し先輩風を吹かせて吸い方を教えた。
「まず、吸い込みながら火をつけて、煙をむせない程度に少しずつ吸うんだ」
俺がそう言った瞬間、エバは煙草に火をつけた。
そして――
「げほっ、げほっ!」
いきなり激しくむせ始めた。
「だから、少しずつだって」
俺は苦笑しながらエバを見る。
「……げほっ。こんなの……吸ってたの?」
ようやく落ち着いたエバが、煙草を見つめながら言った。
「まあな」
「よくこんなの平気で吸えるわね……」
「慣れだよ、慣れ」
「慣れたくない……」
エバはそう言いながら、煙草を少し遠ざけた。
俺は思わず笑った。
「だから最初からおすすめしてないだろ」
「……もういい」
エバは煙草を消しながら、少し呆れた顔をした。
俺とエバはそうこう雑談しているうちに用務室に戻った。
「戻ったぞ」
俺は一声かけると、用務員室の中へ入り、腰を掛けた。
すると、ミナが鼻を動かす。
「……なんか煙くない?」
エバもすこしギクッと動揺した。
俺は何食わぬ顔で答えた。
「気のせいだろ」
二人は納得していないようだったが、これ以上追及することはなかった。
俺は二人の顔を見ながら口を開く。
「じゃあ、明日の計画をするぞ」
二人がこちらを見る。
「まずはリオを見つける。それは変わらない」
俺は少し間を置いてから続けた。
「それと、まだ言ってなかったが……俺は故郷に帰るつもりだ」
「故郷?」
ミナが聞き返す。
「ああ。安全かどうかは分からない。だが、ここよりは田舎だし、ゾンビもそれほど多くないだろう」
俺はそう言って、三人を見る。
「だから、リオを見つけたら俺は故郷へ向かう」
そして、少しだけ間を置いて聞いた。
「……君たちは、どうする?」
三人は顔を見合わせた。
すぐには答えが返ってこない。
リオを探したい。
彼女たちも故郷へ帰りたい
だが、その先に何が待っているのかは、誰にも分からない。
「……」
三人は黙ったまま、悩んでいた。
「じゃあ、私たちもついていく」
カリンが、迷うことなく断言した。
「えっ……」
ミナがギョッとした顔でカリンを見る。
一方、エバは意外なほど冷静だった。
ミナは少し考えてから、弱々しい声で言った。
「……私たちも、リオを見つけたら故郷に帰ろうよ」
「でも……」
カリンはミナを見る。
「私たちの故郷だって、安全とは限らないじゃない」
「……」
「それなら、少しでも信用できる人と一緒にいたほうがいいと思う」
カリンはそう言って、俺のほうを見る。
「それに、タツヒデさんは私たちを助けてくれた。少なくとも、今のところは信用できる」
「……なるほどな」
俺がそう呟くと、エバもカリンに小さく頷いた。
「私もカリンと同じ考え」
「エバまで……」
ミナは困ったような顔をする。
「じゃあ、決まりだな」
俺はそう言って立ち上がった。
「リオを見つける。そして、見つけたらみんなで俺の故郷へ向かう」
三人は、それぞれ小さく頷いた。
「じゃあ、もう日が落ちるし、飯食って寝るか」
何か言いたげなミナを遮るように、俺は飯の支度を始めた。
ガスコンロに火をつけ、鍋を置く。
しばらくして、俺たちはコンロを囲みながら食事を始めた。
静かな時間が流れていたが、ふとエバが口を開いた。
「もっとあなたのこと聞かせて」
「何をだ?」
俺は淡々と答える。
「仕事はしてなかったって言ってたけど……ずっと?」
「いいや。そういうわけじゃない」
「じゃあ、何してたの?」
俺は少し黙ってから答えた。
「自衛隊で二年」
その言葉を聞いた瞬間、カリンとミナもこちらに耳を傾けた。
「へえ……でも、なんで辞めたの?」
「……自由を取り上げられることに、うんざりしてたのかもな」
「じゃあ、あの技術は自衛隊で身につけたの?」
「いや。あれは親父から受け継いだものだ」
「お父さんから?」
「ああ。親父は昔から――」
俺は一瞬言葉を止めた。
「……兄貴が……」
そこまで言って、俺は口を閉じる。
「いや、この話はよそう」
「えー」
エバが不満そうな声を上げる。
「まだ何も聞いてないじゃん」
「なんでそんなこと聞きたがるんだ?」
俺は呆れたように三人を見る。
「まあコミュニケーション?」
俺はいつしか、あまり込み入った話を人にしなくなっていた。
そのせいか、人付き合いというものが分からなくなるときがある。
うわべだけの付き合いなんて、くそくらえ。
そう思っていたからだ。
「……そうか。善処するよ」
俺は自分に言い聞かせるように呟き、そのまま床に就いた。
――翌朝。
日の光で目を覚ました俺たちは、早速身支度を整えた。
荷物を車に積み込み、全員で乗り込む。
エンジンをかける。
俺は一度だけ、後ろを振り返った。
「……さよなら、学校」
案外、居心地は悪くなかったぞ。
そんなことを心の中で呟き、俺はアクセルを踏み込んだ。
車はゆっくりと学校を離れていった。
結構離れたところで、まずはミナの服装を整えに寄った。
そうしているところに新たな影が迫まる。
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