第五十五器 全てを捨てる時
「ほう、呪装を使いながら自我を保つか。
なかなか楽しませてくれる」
「(気を抜くと意識が飛びそうだ…)楽しむ余裕はないぞ」
鎌を投げキングリーが槍で弾いた瞬間、地面に触れ馬の脚をトラバサミで挟む夜詩。
「こんな物で…」
キングリーが手綱を引くと同時に上空からギロチンの刃が落下し馬の首を跳ねる。
「まだ終わらない!」
駆け出した夜詩の手元に鎌が戻り、飛び上がると同時に鎌をクロスさせハサミの様にキングリーの首を狙う。
「この槍を切れると思ったか?」
槍で鎌を防ぐキングリー。
「思わない…だから」
次の瞬間、キングリーの両手足と首に地面から伸びた鎖が巻き付き、馬ごと地面に引き付ける。
「槍を使わせない為か」
「そのまま潰れろ」
棘の付いた巨大な岩がキングリーへと落下し、轟音と共に土煙を上げた。
「これで終わりだ!」
鎌を回転させながら投げ、炎を作り出し巨大な火柱をあげる夜詩。
「呪装を完全にコントロールしている」
「すごい」
「夜詩お兄ちゃんやっちゃえー!」
徐々に火柱が小さくなり、キングリーがいた場所はマグマ溜まりへと姿を変えていた。
「これで…!?」
夜詩が安堵した時、マグマ溜まりの中からゆっくりとキングリーが姿を現す。
「なかなかの攻撃だ。
我が愛馬を破壊するとはな。
だが、それが貴様の限界」
「あの攻撃が効いてない」
「いや、悲観する必要はない。
やはり奴の半身と言った所か。
貴様には敬意を持って全力…いや、限界を越えた力で相手をしよう」
「限界を越えた力?」
「我が愛馬はただの馬ではない。
我の大きすぎる力の枷だった。
今、その枷は解かれた…」
キングリーから凄まじい波が溢れだし、地面や大気すらも揺れ出す。
「こんな…」
「やはり上手く制御出来ぬか」
そう言ってキングリーが槍を軽く突き出すと数十キロ先まで光りが伸び、地面をえぐりとっていく。
「なんて威力だ…」
「さあ、かかって来るがいい」
「これだけの力があってどうしてあんな兵器を作る必要がある!」
「これでは足りぬ…奴を完全に消すには足らぬのかだ!」
「…くそぉぉぉぉ!」
手にした鎌でキングリーを連続で攻撃する夜詩。
「この力では槍に触れる事すら出来ぬか」
夜詩の攻撃は槍を覆う波に阻まれ続けていた。
「(届かない…どうして…くそっ!くそっ!)」
「もういい」
素早く槍を振り鎌を破壊するキングリー。
「あ…」
「その力ももう使えぬ」
目に見えない速さでキングリーは突きを放ち、吹き飛ばされ元の姿に戻った夜詩は地面に転がる。
「(力が…入らない…)」
キングリーが手を軽く上げると、鎧の兵士が現れ夜詩を起こす。
「夜詩!」
「夜詩お兄ちゃん!」
「慈悲だ」
地面を強く蹴り、夜詩の胸を目掛け波を消した槍を突くキングリー。
「慈悲は無用だったか」
血が顔に掛かり夜詩は目を見開く。
「な…なんで…何してんだ…刀磨!!」
夜詩の前に立ち塞がった刀磨の腹を槍が貫いていた。
「はぁ…勝手に…動いて…」
槍を引き抜かれ地面に倒れる刀磨。
「俺よりお前の方がまだ勝機はあったのに…どうして…」
「少し邪魔が入ったが続けよう」
「邪魔…」
槍を構えるキングリー。
「(そうか…俺が弱いからか…だから刀磨は死にかけてるのか。
游もアリスも殺される…嫌だ…。
そんなのは嫌だ…仲間を失う位なら…俺は…俺は…)」
槍が触れようとした瞬間、夜詩から雄叫びと共に黒い光りが溢れキングリーは吹き飛ばされる。
「なんだ!?」
「アァァァァァァ…」
羽と長い尾が生え頭から二本の角が伸び、手足には鋭い爪と吐く息が蒸気の様に見え、全身真っ黒の夜詩がいた。
「(仲間を失う位なら…俺は…)」
「もはや人ではない。
これは…悪魔」




