第三十五器 敵陣
「游!」
モスクワの空港に着いた游を見つけ声をかける夜詩。
「夜詩!こんな事になってごめんなさい…」
「游に責任はないよ。
アリスもきっと巻き込まないように一人で行ったんだろうし。
刀磨はいつ?」
「分からない。
でも場所は伝えたし大丈夫だと思う」
「そうだな。
じゃあ、アリスを追おう!」
二人は空港を離れ郊外の人気のない場所に向かう。
「こんな所にメドヴェーゼの本拠地があるのか?」
「ハートネスの資料に書いてあったし間違いないわ」
「この先に古い洋館がある」
そう言って二人の前に刀磨が姿を現す。
「刀磨!いつ来たんだよ!」
「ついさっきだ。
それより、ここからは敵の懐だから気を引き締めろ」
「わかってるよ。
行くぞ!」
三人は木々が生い茂る小道を進んでいく。
「しかし警備はいないみたいだけど、アリスが倒したのか?」
「それはなさそうだ。
争った跡もない所を見ると余程の人員不足か、罠かのどちらだろう」
「ごめんなさい…」
「気にするな」
「刀磨…ありが」
「失敗は行動で取り返せ」
「うっ、分かってるわよ!」
「止まれ」
刀磨が指差した先に洋館が見えた。
「あれか」
その時、茂みから二人の男が現れる。
「餌に釣られて来たか」
「お前達には死んでもらう」
「アリスはあの洋館にいるのか?」
「さあな。
俺達はここで迎え撃てと言われてるだけだ」
「なら用はないな。
二人共行くぞ」
三人が進もうとした時、二人が襲い掛かった。
「行かすかよ!」
「俺は右をやる」
「了解」
二人の一撃を同時にかわす夜詩と刀磨。
「どけっ!」
夜詩と刀磨が声を揃えて叫ぶと同時に、二人の男達は拳を顔面に受け森の奥へと吹き飛ばされ気を失う。
「すごい…(素手で敵を一撃…しかも波の感じからいってなかなかの強さを持っていたのに)」
「腕を上げたな」
「お前もな!
急ごう!」
三人が洋館にたどり着くとドアが勝手に開く。
「来いって事か」
中に入るといくつものドアがあるも、どれにも鍵が掛かっていた。
「ダメだ。
後は二階って事だな」
階段を上がり廊下を進むと大きなドアが見え、刀磨が勢いよくドアを開ける。
「騒がしいね。
ノック位したらどうかな?」
部屋の中は本棚に囲まれ、窓際に大きな机とイスに腰を下ろし本を読んでいる男がいた。
「お前がメドヴェーゼのボスか?」
「初めまして、私はグローム。
このメドヴェーゼを任されている者だよ」
「アリスはどうした!?」
「アリス?ああ、あのゴミか。
それならそこだよ」
グロームが部屋の隅を指差した先には本棚にもたれ掛かっている傷だらけのアリスがいた。
「アリス!?」
「ひどい怪我…」
刀を抜き構える刀磨。
「ん?私とやる気か?
やめた方がいい。
君では勝負にならない」
「なら試すか」
素早い動きでグロームの背後を取り、刀を振り下ろす刀磨。
「遅いな」
グロームの体から雷撃が放たれ、刀磨はギリギリかわし距離を置く。
「雷か」
「俺も加勢する」
「いや、アリスを連れて逃げろ」
「何言ってんだよ!」
「分からないのか?」
「何が…!?」
刀磨の言葉で何かに気付き、驚きの表情を浮かべる夜詩。
「二人共どうしたの?」
「急に強い波が複数現れた。
いや、最初から居たのか!」
「だからお前達は先に逃げろ。
俺はこいつを殺ってから合流する。
行けっ!」
夜詩はアリスを抱え、游と部屋を出ていく。
「噂以上にやるようだね。
部下達に君らの実力を計らせたが、単体では足元にも及ばないようだ。
全戦力を使う事になるとは予想外だ」
「周囲の森にも居たのか」
「じゃあ、特別に君の相手をしてあげよう」
グロームは全身から激しい稲光を発し始めた。




