第三十二器 敗北と成長
「さっさと片付け」
夜詩に近付こうとした時、冬白の目の前に小さな黒い玉が落ち、凄まじい閃光が周囲を覆う。
「くっ、目眩ましか!」
冬白達が目を塞いでいる隙に方明が夜詩を担いで森を抜けていく。
「神塚様しっかりしてください!」
「…」
夜詩は完全に意識を失い、目を覚ますと高嶺寺の客間にいた。
「ここは…確か吹き飛ばされて…いてててて」
「無理をしてはいけません」
体を起こした夜詩の側にいた崇戒が体を支える。
「俺はどうやって?」
「傷付いたあなたを方明が連れ帰ってきました」
「そうだったんですか…くそっ!
奴の攻撃に耐えられなかった!
実力は互角だと思ったのに…」
「少し能力者という者についてお教えいただけませんか?」
「え?別に構いませんが…」
夜詩に波や能力等の話を聞き、しばらく考え込み口を開く崇戒。
「恐らく密度の違いでしょう」
「密度?」
「例えば同じ水量が流れる川でも幅の広い川と狭い川では全然違います。
広い川は広い分、水嵩は浅くなり流れも緩やか。
狭い川は水嵩が深く流れも強くなります。
波も同じなのではないでしょうか?」
「能力に使う波を濃くすれば…(でもそんな事が可能なのか?)」
「素人考えですがね。
今は体を休ませるのが大事です」
「はい」
夜詩は再び横になり、翌日の早朝から特訓を開始する。
「波の大きさだけじゃダメなんだ…集中して…」
鎌を出し波を集中させていく夜詩。
「はっ!
…だめだ、攻撃する瞬間に集中させた波が散ってしまう。
今度は波に重点を置いて…」
鎌を振り上げ振り下ろすと地面に亀裂が入る。
「出来た!…けどこれじゃ動きが遅くなる。
高い威力のまま素早く…ってどうやればいいんだよ!」
「神塚様」
夜詩が振り向くと重海が立っていた。
「おはようございます。
どうしたんですか?」
「崇戒様から話は聞きました。
何か力になれるかと思いまして」
「ありがとうございます!
実はちょっと苦戦していて。
高い力を出すと動きが遅くなってしまって」
「なるほど。
少し組み手をしませんか?」
「いいですよ?」
二人は向き合い構えたまま静寂が訪れ、それを破り重海が仕掛ける。
「(速い!一撃一撃は大した威力じゃないけど、攻撃する隙がない)」
「ここからが本番です!」
すると今までガード出来ていた夜詩の腕が簡単に弾かれ、追い詰められていく。
「(今まで手を抜いてたのか!?くっ、一撃が重いのにスピードが衰えない…これって)」
夜詩の顔面すれすれで重海の拳が止まる。
「重海さん」
「あなたが求める戦い方です。
戦いの基礎なんですが、あまり戦い馴れてないんですね」
「す、すみません」
「謝る必要はないですよ。
むしろ基礎めなくここまで出来るとはすごいですから」
「ありがとうございます。
重海さん、今の戦い方は?」
「簡単な事です。
力を込めるのは標的に触れる瞬間のみ。
それまでは力を抜き素早く動かすだけです」
「なるほど!
やってみます!」
重海の教えの通りに夜詩は特訓を続けた。




