第二十九器 帰郷
アメリカから旅立った夜詩は中国の河南省に来ていた。
「確か調べてもらった場所はここら辺なんだけど…」
周囲には山しかなくメモを見ながらゆっくり歩く夜詩。
「何かお困りですか?」
「え?」
夜詩が振り向くと優しそうな僧侶が立っていた。
「ここら辺は滅多に人を見掛けないもので。
道に迷いましたか?」
「そうなんです!
この場所なんですけど」
「我が寺院のお客様でしたか。
私は高嶺寺の大僧正をしている崇戒と申します」
「私は神塚夜詩といいます」
「神塚様ですね。
今日はどういったご用件で?
あ、お客様に立ち話とは失礼いたしました。
寺院はすぐそこですのでどうぞ」
「はい」
崇戒に連れられ近くの山の麓から続く長い階段を上がっていく夜詩。
「(き、きつい!崇戒さん平然と登ってる…)」
階段を上りきると広大な敷地に大きな寺院と武術の修行をしている僧侶達がいた。
「こちらです」
「はい!(この人達の構え幻龍と同じだ)」
夜詩は寺院の奥にある一室へと案内される。
「本日はわざわざお越し下さりありがとうございます。
それでご用件は?」
「はい…お渡ししたい物が…」
持っていた荷物から箱を二つ取り出し差し出す夜詩。
「これは遺骨…一体どなたの?」
「幻龍と凛々です」
「まさか!?」
「実は…」
夜詩が全てを話すと体を震わせ声を殺しながら涙を流す崇戒。
「守れず申し訳ありません!」
「神塚様、頭を上げてください。
凛々だけでなく敵であった幻龍を連れて帰っていただきありがとうございます。
あの二人は兄妹のように育ち、死ぬ時も一緒に居れたことが唯一の救いだったでしょう」
「もう少し早く幻龍に出会えていたらと思います」
「そのお気持ちだけで十分です。
重海!方明!」
崇戒に呼ばれ二人の僧侶がやって来た。
「お呼びでしょうか?」
「こちらの神塚様が幻龍と凛々の遺骨を運んでくださった。
二人を手厚く埋葬してあげなさい」
「幻龍と凛々の!?
そんな…」
「幻龍の馬鹿野郎!凛々を死なすなんて!」
「お客様の前だぞお前達!」
「申し訳ございません」
「失礼いたしました」
二人は遺骨を持って去っていく。
「お見苦しい所をお見せして申し訳ありません。
あの二人は幻龍と凛々の兄のような存在だったのです。
幼い頃からあの二人より強くなると言って幻龍は修行に励んでおりました。
幻龍が寺院を出ていった後も何も出来なかった事をずっと後悔していたようです」
「本当に絆が強いんですね」
「はい。
しかし、我々は幻龍の力に怯え戸惑っていた幻龍の心を追い詰めてしまった…その罪は償っていかねばなりません。
神塚様、よろしければ今日は当寺院に一泊していかれませんか?」
「部外者なのにいいんですか?」
「あなたは幻龍と凛々…いや、我々の恩人です。
部外者などとんでもありません」
「ありがとうございます。
じゃあお言葉に甘えさせてもらいます」
こうして夜詩は手厚くもてなされ、その日の夜に幻龍と凛々の通夜が行われ僧侶達は別れを惜しんだ。
「神塚様」
「えっと方明さんでしたよね?」
「はい。
寝室へとご案内させていただきます」
「ありがとうございます」
方明に連れられ寝室に入る夜詩。
「神塚様、この度はありがとうございました。
恩人のあなた様にご忠告が」
「忠告?」
「この辺りで人を襲う者達がいるようなのでお気を付けください」
「人を襲う…」
「遺体からは複数の傷痕と素人とは思えぬ殺し方のようなのです。
我が寺院の手練れも何人も…幻龍に勝たれた神塚様なら心配無用だとは思いますが念のため。
それでは失礼いたします」
「ありがとうございました。
まさか能力者が関係してるんじゃ…明日少し調べてみるか」
こうして中国での夜詩の一日が終わっていった。




