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私をゴミ扱いしたあなたへ  作者: ミカン♬


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5 大切な人

 環境大臣の講義の日が来た。


 この日、レジーナとシャロンも復学した。


 さすがは高位貴族令嬢。

 レジーナは何事もなかったかのように、堂々としている。

 そして、やっぱりセイルと腕を組んでいた。


 ただ今回は、セイルのほうが私を気にしているのか、レジーナから離れようとしている。

 けれど、レジーナがそれを許さない。


 そんな姿を見ても、嫉妬なんてしない。

 むしろ、このままセイルが私を忘れてくれればいい。

 そう思った。



 やがて、生徒たちが大講堂に集まった。

 静かな空気の中、環境大臣が従者たちを引き連れて入ってくる。


 大きな拍手が起こった。


 その中に見つけた。


(リオ先生!)


 先生の姿を見ただけで、胸が弾んだ。

 だって、この一月、先生には全然会えなかったんだもの。


 他にも仕事を掛け持ちしているとは聞いていたけれど……。


(そっか。先生は大臣の従者も務めているんだ)


 それなら忙しいのも当然だ。


 私は先生の姿を目で追い続ける。

 先生は壇上へ上がり、演説台の前に立った。

 そして、ゆっくりと大講堂を見渡す。


 その視線が、私に止まった。


 目が合った。


 私は小さく手を振る。

 すると先生も、小さく手を振り返してくれた。


 ザワ……。


 大講堂が一気にざわめいた。


「冷徹殿下が手を振ったわ……」


 隣のダイアナが、口元を押さえて呟く。


「あれはリオ先生よ?」


 私がそう答えた直後、


「私が新たに環境大臣に就任したリオ・カステルである」


 講義が始まった。


(え……?)


 ……カステル?


 リオ先生が……カステル国の王子様?

 そんなの聞いてない!


 私は、ゴミ処理の大切さを熱く語る先生の姿を見つめ続けた。


 話している内容は私もよく知っていることばかり。

 ゴミ処理事業が近いうちに国営になることも両親から聞いている。


 生徒達も静かに耳を傾けていた。


 やがて、


「これで講義は終了する」


 大きな拍手が起こる。


 けれど、先生は壇上を下りなかった。


「最後に!」


 先生の声が、大講堂に響く。


「ゴミ処理を軽んじて、私の大切な人を傷つけた者達!」


 シ──ン……。


 大講堂が静まり返る。


「お前たちはゴミだ!」


 誰も声を出さない。


「もし、また同じ過ちを繰り返した場合――ゴミクズども! スライムの餌にしてやる!」


 それだけ言うと、先生は壇上を下りた。

 そして、そのまま大講堂を出て行った。


(私の大切な人……)

 それって、私のこと?

 先生、私のことを大切に思ってくれていたの?


 嬉しい。


 私にとっても、先生はかけがえのない人。


 でも……。


 先生が王子様だと知ってしまった。

 もう前みたいに、気軽に話しかけることはできない。


 大講堂が生徒たちの騒ぎでいっぱいになる中、私は一人で考えていた。


(私だけの先生のままで、いてくれたらよかったのに……)


 そして、そう考えた自分に少し驚いた。



 大講堂を出て、教室へ向かっている途中だった。


 突然、後ろからセイルに腕を掴まれた。


「カナン。ちょっといいか。話がある」


 隣にはレジーナがいる。 

 阻止しようと、彼女はセイルの腕を掴んだ。


 けど。


「もう、放っておいてくれないか!」


 セイルはレジーナの手を跳ねのけた。


 そして私に顔を近づける。


「カナン、殿下の『大切な人』って君だよね? どういうこと?」


「セイルには関係ないでしょう?」

「あるに決まってるだろう!」


 セイルは私の腕を掴んだまま、強引に歩き出す。


「どこに行くの!」


「静かに話せる場所だ」


「腕を離して!」


「いいから!」


 抗う私を、セイルは無理やり抱きかかえた。


「いやっ!」


 ──その時。


 どこからか数人の男たちが現れた。


 警備係の人達ではない。

 でも、その服装には見覚えがあった。


(王宮の人……?)


 大講堂にいた王家の従者たちと同じ。



「……ソルト子爵令息だな」


「そ、そうだ」


 セイルが答えると男の一人が、彼の肩を掴んだ。


「ご令嬢を離せ」


「な、なんだ!?」


 言われるまま、セイルは私を下ろした。


「僕は婚約者と話をしているだけだ!」


「婚約は破棄したわ」


「カナン、もう意地を張らないで」


 すると男は、セイルの腕を捻り上げる。


「痛っ、たたた」


「婚約破棄は承知している。大人しく付いて来るんだ」


「ま、ま、待って! いったい誰の命令だ!」


 男は答えない。

 ただ、私を一度だけ確認するように見た。


 そして――


「ご令嬢に付きまとうんじゃない!」


 セイルを叱責して、男たちはセイルを連れて歩き出す。


「僕は何もしていない!」


「カナン、何とか言ってくれ!」


「……カナン」


 遠ざかっていく声。


「セイル!」

 レジーナだけがセイルを追いかけていく。



 私は呆然と立っていた。


(いったい……何だったの?)


 あの人たちは、私を助けてくれた。


 頭に浮かんだのはリオ先生だった。


(私を守ってくれたんだ)


 そう思ったら胸が温かくなって、同時にズキッと痛んだ。



「カナン、大丈夫?」


 声をかけてくれたのは、ダイアナだった。


「うん……大丈夫」


 ──いいえ、大丈夫じゃない。


 先生と私、住む世界が違う。


 もう「リオ先生」って呼べない。


 そのことが、

 私には、大切なものをひとつ失ったように思えた。



読んでいただいて、ありがとうございました。


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― 新着の感想 ―
そんなに早くスライムの餌になりたがるなんて、セイルの性癖は理解できん
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