4 セイルの謝罪
夕刻。
学園の寮に戻って来た。
もう俯かない。
胸を張って生きよう。
──「ゴミ令嬢」の何が悪いの?
私はこれからも、実家の事業を応援する。
そして、誇りに思う。
家畜牧場だって、大切な食料を作っている。
みんなが毎日食べている卵だって、うちの牧場のもの。
高級なコートに使われている羊毛だって、うちが届けている。
それなのに、何が恥ずかしいの?
セイルの家だって、ブタを飼っているじゃない。
しかも、私はその牧場に結界まで張ってあげている。
それなのに、私のことをゴミ扱い?
──本当に、ひどい。
でも、私は一人ぼっちじゃない。
両親がいる。
リオ先生もいる。
だから──もう、へっちゃらよ。
◇
翌日。
朝から学園は大騒ぎだった。
学園長と担任はクビ。
シャロンとレジーナは、1か月の停学になった。
理由は、一部生徒(私)に対する嫌がらせ。
さらに、学園と寮のゴミ収集が止まった。
ゴミ処理場のメンテナンスで1週間お休みらしい。
──メンテナンス?
そんなこと、今まで一度もやったことがないのに。
これは、リオ先生が私を助けてくれたの?
◇
ゴミはどんどん溜まっていく。
学園では仕方なく燃やしたり、収集日まで放置したり。
そのせいで、あちこちから嫌な臭いが漂い始めた。
街も同じだった。
ゴミ処理が止まった途端──。
清潔だった街に、悪臭が戻ってきた。
人々は、ようやく気づく。
ゴミを処理することが、どれほど大切なのか。
そして──。
学園でも、私を見る目が変わり始めた。
ドロバーナ侯爵が、環境大臣を解任された。
その噂は、あっという間に広がった。
──侯爵家を、男爵家が追い込んだ。
そんなふうに、思われているらしい。
相変わらず私を避ける人は多い。
でも、今度は意地悪ではない。
──私を怖がっている?
そんな中、ダイアナがやって来た。
「ごめんね。許してくれる?」
「怒ってないよ。また仲良くしてくれると嬉しいわ」
他の人たちが距離を置く中、ちゃんと謝ってくれた。
それだけで、彼女は十分マシだと思う。
しばらくして──。
今度はセイルが飛んで来た。
「カナン、婚約破棄ってどういうこと?」
「話しかけないで。恥ずかしいのでしょう?」
「ごめんよ。レジーナに逆らえなかったんだ」
「人のせいにして……あなたって最低ね」
「本当なんだって。僕は君が好きだ。婚約者だって公表する。誓う。これからはカナンを大事にする!」
「やめて。もう遅すぎるわ」
「カナン! 結婚するって約束したじゃないか!」
「もう、あなたを信頼できない。好きじゃないの」
そう言うと、
セイルの顔が不機嫌に歪んだ。
「カナンの気持ちなんて、その程度だったんだ。ちょっとした過ちで婚約破棄なんて」
「1年前から、あなたは私と距離を置いたでしょう?」
「それが、どうしたんだ?」
「こうなるって、思わなかったの?」
「思わなかったさ。離れていても、僕たちは愛し合っていただろう?」
「……もういいわ。さようなら」
私は背を向けた。
それでもセイルは、追いかけてくる。
「カナン、待って!」
「婚約破棄しても、牧場の結界は張ってあげるわ。心配しないで」
「そんな事を言ってない! カナン、許してよ!」
必死な声。
今にも泣きそうな顔。
気持ちが、少しだけ揺れる。
ずっと大好きだった人だから。
でも──。
ちょっとした過ちですって?
傷つけられた私の心は、まだ痛い。
私をゴミ扱いした貴方を、決して許さない!
セイルの必死な姿に、周囲も驚いている。
ダイアナも目を丸くしていた。
「彼、カナンの婚約者だったの?」
「ええ。……もしダイアナなら、彼を許す?」
「無理よ。私が言えることじゃないけど……彼、冷たすぎるもの」
ダイアナの言葉に、私は間違って無いって思えた。
私の学園生活は徐々に落ち着いた。
リオ先生が陛下に報告してくれたからだ。
ドロバーナ侯爵家とシャロンの伯爵家からは正式な謝罪があった。
レジーナとシャロンからも謝罪の手紙が届いた。
レジーナの手紙には、
〈婚約は白紙になったから、これからはセイルは私のもの〉
そう書かれていた。
「関係ないわ」
私は手紙を破り捨てた。
◇
あれから1か月が過ぎた。
環境大臣には、王家の末の王子様が就任することになったらしい。
その名も──「冷徹殿下」。
怖いことで有名な王子様。
今回の騒動が原因で、その冷徹殿下とレジーナとの婚約話も白紙になったとか。
レジーナは本当にセイルが好きなんだから。
白紙になって、喜んでいるんじゃないかしら。
そして、その王子様が新しい環境大臣として、学園に講義に来られることになった。
テーマは、ゴミ処理について。
生徒たちが、これで少しでもゴミ処理の大切さを分かってくれると嬉しい。
そして、セイルなんだけど。
「カナンは怒って拗ねてるだけだ。賭けてもいい、すぐに気持ちを取り戻してくれるさ」
そんなことを周囲に言いふらしている。
……呆れてしまう。
もう、セイルを好きじゃない。
復縁なんて、絶対にあり得ないんだから!
読んでいただいて、ありがとうございました。




