3 陛下の休息
★陛下視点★
王宮の庭園。
多忙な日々の中で、余にとって何よりの癒やしは、1歳になった孫との時間だ。
「お~よしよし。余に似て、凛々しい顔つきじゃ!」
「誠に、陛下のお言葉通りでございます」
「うむうむ」
可愛い。
実に可愛い。
このまま一日中、抱いていたいくらいだ。
そんな幸福な時間を、孫と過ごしていると――。
「陛下!」
珍しく、末の息子がやって来た。
「リオか。どうした?」
息子だというのに……。
なぜか、顔を見ただけで緊張して血圧が上がる。
余は、可愛い孫を従者に預けた。
「今、少しばかり宜しいでしょうか」
「申してみよ」
「ドロバーナ侯爵の大臣解任を」
「環境大臣をか? なぜだ?」
「報告書をお読みください」
ドロバーナ侯爵を容赦なく切り捨てる。
実に冷徹なリオらしい。
「うむ。分かった」
「それと、ドロバーナ侯爵家の次女との婚約の話は白紙に」
ドロバーナ侯爵家の次女は、確かレジーナという名だったな。
婚約の話は王妃の推薦なのだが……。
「何があったのだ?」
「報告書を」
「……うむ」
後で読めばいいのだな。
うむ。
「結婚相手は自分で決めます」
「そうか……」
今は、余計なことを聞く必要はない。
「それと」
「な、なんだ?」
まだあるのか。
「ゴミ処理事業ですが、ハリソン男爵家には負担が大きすぎます。国の事業に切り替えるべきかと」
「ふむ、その件は議会で……」
「議会?」
その瞬間だった。
ブワァァァ──ッ!
リオから、とんでもないオーラが膨れ上がった。
「落ち着け! 分かった! 全てお前の采配で進めよ!」
「環境大臣は私が就任します!
──私を『ゴミ大臣』と呼べるものなら、呼んでみるがいい!!」
「わ、分かったと申しておる!」
危ない。
大魔法使いのリオを怒らせてはならぬ。
国が滅ぶ。
いや、本当に滅ぶ。
リオは最年少の魔塔主でもある。
彼の結界が、この国を守っているのだから。
しかし……『ゴミ大臣』とは?
ドロバーナ侯爵。
いったい何をやった?
余の愛する息子が、ここまで怒っておるではないか。
そもそも、ごみ処理事業はリオが推進して立ち上げたものだ。
潔癖症なリオは、国内が汚れているのが許せない。
だからこそ、ゴミを減らすためにスライムを利用した画期的な事業を進めているのだ。
今や、川や道端にゴミを捨ると罰金が科せられる。
ゴミ捨て場があちこちに設置され、そこに捨てるよう義務付けられている。
ゴミはゴミ収集係がスライム牧場に運んで、処理される。
街は美しくなってゆく。
実に素晴らしい事業である。
うむ。
「それと」
「まだあるのか?」
「婚約ですが……いや、これは、まだ……後でいいです」
「そうか」
歯切れが悪い。
リオらしくない。
だが、余は尋ねない。
余計なことを言って、リオの機嫌を損ねたくないからな。
「では、失礼いたします」
「うむ」
リオはそのまま去っていった。
誰からも、疎遠な親子と思われがちである。
だが、これでいいのだ。
リオは子どもの頃から、ベタベタされるのを嫌った。
賢すぎるのも考えものだ。
大人びていて、我儘を言わない。
泣いたことも、甘えたことも、余の記憶にはない。
今では家臣たちからは密かに「冷徹殿下」と恐れられている。
『結婚相手は自分で決めます』だと?
あの性格で、見つけられるのか?
見つかったとしても、
……あれの妃は、さぞ苦労することだろう。
ちゃんと夫の務めを果たし、将来、余に孫を抱かせてくれるだろうか。
孫を、せめて一人だけでも。
いや、二人くらい……。
さて。
いつまでも庭園にいるわけにはいかぬ。
執務に戻るとするか。
まずはリオの報告書だ。
いったいドロバーナ侯爵が何をやらかしたのか。
しっかり目を通してやろう。
読んでいただいて、ありがとうございました。




