6 【完結】夢で逢えたら
男たちに連れ去られてから、セイルとレジーナは私に近づかなくなった。
二人は以前ほど仲良くはないみたい。
特にセイルはあからさまに、レジーナを遠ざけている。
あの後、何かあったに違いない。
──セイル。
後悔はない。
お互いが選んだことだもの。
殿下の『大切な人』騒ぎも収まった。
私がスライム牧場の娘だから、殿下に贔屓されただけ。
──そう周知された。
◇
今日は週末の帰省の日。
家に戻ると、リオ先生が待っていてくれた。
「先生」
嬉しくて、いつものように呼びかける。
でも、すぐに口を噤んだ。
「殿下にご挨拶申し上げます」
頭を下げると、
「やめてくれ。今まで通り『先生』でいいよ」と、いつもの笑顔。
「先生……私、何も知らなくて。ご無礼いたしました」
「そんなふうに水臭くなると思ったから、言わなかったんだ。……今のカナンは、私を悲しくさせるよ」
「私も悲しいです。先生、今日は……お別れに来られたんでしょう?」
「えっ?」
……違ったのかしら?
だって、両親が話してた。
『事業が国営になったら、リオ殿下はさらに忙しくなる』
『殿下とは、もうお別れした方がカナンの為ですね』
だから、覚悟していた。
「カナンは、私と会いたくないのか?」
「違います! だって……先生は、これからもっと多忙になるんでしょう?」
「それでも、カナンに会いに来る時間くらいあるよ」
「両親が、先生とはもうお別れした方が私の為だって」
リオ先生は、寂しそうな顔をした。
「もうカナンには、私が必要ないのかな?」
「そんなことありません! 先生は私の大切な人です」
言ってから、ちょっと恥ずかしくなった。
でも、本当のことだ。
「先生……」
「うん」
「あの……授業で分からないところがあるんです」
私は話題を変えた。
「教えてくれる?」
「もちろん。いくらでも教えるよ」
誰が『冷徹殿下』なんて言い出したんだろう?
リオ殿下は、こんなに優しいのに。
「ご両親には、私からちゃんと話しておくよ」
「お別れしなくてもいいの?」
「ずっと一緒だよ」
そう言って先生は私の頭をポンと撫でてくれた。
──いつものように。
その後、先生はセイルのことを尋ねてきた。
「彼はカナンに迷惑をかけていない?」
「ええ。先生が注意してくれたんでしょう? ありがとうございます」
「いや……これから、私が君にはもっと迷惑をかけると思う」
「どうしてですか?」
「私がカナンを贔屓していると、知られてしまったからだ。君のご両親もそれを恐れておられる」
そう言って、先生は懐から何かを取り出した。
「申し訳ない。だから……これを」
差し出されたのは、細い金の指輪だった。
「これは、お守りだ。カナンに危険が迫れば、私が駆け付ける」
「そんな貴重なもの、受け取れません」
「いや、ありふれたものだよ」
先生は自分の指を見せた。
「ほら、私も付けている」
「……同じですね」
「遠慮はいらないよ」
先生は私の手を取ると、指輪をそっとはめてくれた。
「これは魔法が掛かっているから、私じゃないと外せないからね」
「本当ですか?」
指輪を眺める。
細い金色の輪が、きらきら光っている。
「綺麗……ありがとうございます、先生!」
これからも、先生は私の先生。
そう思うだけで、胸の奥がぽかぽかした。
◇
その夜。
ベッドに入った私は、試しに指輪を外そうとした。
――外れない。
「本当に魔法が掛かっているのね」
私は指輪をくるくる回した。
先生とお揃い。
そう思うと、また嬉しくなる。
指輪をはめてくれた時の先生の顔を思い浮かべた。
まるで結婚式みたいだった。
私は指輪にそっとキスを落とす。
──胸がドキドキした。
「リオ先生、大好き」
「夢に出てきてね」
毎晩、夢で会えたらいいな。
そんなことを考えながら、私は幸せな気持ちで眠りについた。
★リオ視点★
「リオ先生、大好き」
「夢に出てきてね」
カナンの声が、私の指輪から聞こえてきた。
……なんて可愛いことを言うんだ。
「殿下、プライバシーの侵害ですよ?」
「うるさい。分かっている」
そう言いながら、指輪を見つめる。
「彼女の心拍数が上がったから、気になっただけだ」
これは私が苦心して創った、世界に一つのペアリングだ。
カナンの心拍数が上がると、私の指輪が熱を帯びる仕掛けになっている。
さらに、彼女の声を受信することもできる。
離れていても守ることが出来る。
私の大切な人を……。
3年前、婚約の話が浮上した。
妃など誰でもいい。
そう思っていた。
──カナンと出逢うまでは。
明るくて、元気で。
婚約者のセイルが大好きな、一途な女の子。
毎日、一生懸命に家畜の世話をして両親を手伝っている。
私を恐れることもない。
むしろ、人懐っこい笑顔で話しかけてくる。
いつしか私は、彼女に会える日を楽しみにするようになっていた。
1年前。
いつも笑っている彼女が、沈んだ顔をしていた。
理由を尋ねると、
『来年、学園に入るのが不安なの』
そう言った。
だから、勉強を教えた。
だが、本当の理由はセイルにあった。
調べてみて驚いた。
私の婚約者候補であるレジーナとセイルが恋人のように振る舞っていた。
ならば、私がカナンに想いを寄せても罪ではないだろう。
婚約破棄の後も、セイルはカナンに付きまとった。
だから警告し、二度とカナンに近づかないよう誓約書を書かせた。
レジーナ嬢にも、きつく釘を刺してある。
もう、誰にもカナンを傷つけさせない。
「予定を変更する。明日は魔塔へ行く」
「なぜですか?」
……いちいち煩い従者だ。
「魔法の研究に決まっている!」
「何の研究ですか?」
「夢に入る魔法だ」
いつか、カナンに婚約指輪を贈りたい。
焦りは禁物だ。
強引だとセイルのように嫌われてしまう。
だから。
今はまだ「リオ先生」でいい。
最後まで読んでいただいて、本当にありがとうございました。




