5.協力者
ふかふかとした感触が、肌から伝わる。
なんだか、心地よい。
このままもう一度眠ってしまおう―と思った矢先、自分が穴に落ちたことを思い出し飛び起きる。
どうやら、自分はベットの上に横たわっていたようだ。起き上がって自分の周りを見渡すと、少し広めな部屋にベット、テレビ、ソファーなどがある。
しばらく部屋の中をみていると、コンコンッとノックする音が聞こえ、扉が開いた。
そこに立っていたのは、ふんわりとしたピンク色の髪に、メイド服を着ている、可愛らしい女性だった。見た目は天狐より、大人のお姉さんのような雰囲気だった。
「あ!お目覚めになられたんですね。」
嬉しそうに、はしゃいでいる。連は警戒しながらも、女に話しかけた。
「あの…あなたはどちらさまで…」
女は少しキョトンとしながらも、恥ずかしそうに話始めた。
「あ、すいません。一人ではしゃいでしまって…私は、夢宮 心笑、《獏の縁》です。私たちのことは、天狐さんから聞きましたか?」
危険な人物ではなさそうだ。連が続けて話しかける。
「ここは一体どこなんですか?」
「ここは、私たちの住処――幻天会の本拠地です。あなたは天狐さんと一緒にここに来たのですが、ショックからか気絶してしまっていたので、私がここに運びました。というか、天狐さん何も言わずに連れてきてたんですね…」
(幻天会、天狐が言っていた組織の名前だ。ということは、あの穴は本拠地へのワープホール的なやつだったのか…)
少し考えたあと
「俺は穴に落ちて気づいたらここだったんですが…その、天狐…さん?は今どちらに?」
と尋ねた
女―心笑は、近くにあったソファーに腰を下ろした。
「穴…あぁ、明香ちゃんの〔黒穴〕のことですね。ほんとにあの人なんも説明してないんですね…天狐さんなら今、少し出かけているそうです。しばらくしたら、戻ってくると思いますよ。」
心笑はそこまで話すと立ち上がって
「では、もう少しお待ちになっていてください。天狐さんが戻ってきたら目を覚ましたと伝えておくので。」
と言って部屋を出ていった。
連は一人になったあと、どさっとベットに倒れ込んだ。
(俺は、この先どうなるんだろう。)
という考えが頭に浮かぶ。
(病院も勝手に抜け出してきちゃったし…今頃皆に迷惑かかってるだろうな…)
心に、ずしりと重い何かがのしかかったような気がした。
そんなことを考えていると、ガチャ、と扉が開いた。
「やぁ、目が覚めたんだね。少しは落ち着いたかい?」
聞きおぼえのある声、天狐だ。
「天狐…?でいいのか?何で急に俺を連れてきたんだ?」
「天狐でいいよ。皆好きに呼んでいる。…君の了承を取らずに連れてきて申し訳ない。ただ、君の気配に感づいたものが、刺客を送ってきたものでね。正直、今の君と病院の他の人全員をかばいながら交戦するのは厳しかったんだ。許してほしい」
「刺客…?」
なぜそんなものが、自分に差し向けられているのだろうか。そんな自分の疑問を察するように、天狐が話はじめる
「さっきも言った通り、組織に入らなければ死ぬというのはこういうことなんだ。」
天狐が続けて説明する。
「我々魔の因子を持つものの力は強大で、人知を超えた力を操ることができる。君のその力は、まだ片鱗のようなものなんだよ。強大な力は人を恐れさせる。だから昔から国は、因子を持つものを力をつける前に始末しようとしているんだ。」
「始末…俺をか?」
天狐が頷く。
「無論、力をつけた我々とて命を狙われているのは変わりない。そのために作ったのがここ―幻天会だ。」
連は納得しながらも、一つ疑問が浮かんだ。
「その…国は昔から俺たちを殺そうとしているんだろ?でも力をつけた因子を持つものをどうやって殺すんだ?」
天狐は、表情を曇らせながら答えた。
「…因子とは、太古に存在したとされる妖怪が死んだときにばらまかれたものだ。それ故に、因子を宿したものを殺してもまた違う資格者に因子が宿るだけ…因子は消えることはない。だから国は、自らが育てた資格者に因子を宿らせて縁の一団を作り上げたんだ」
「そんな…じゃあ俺は、二度と普通の生活には戻れないのか!」
連は思わず叫んだ。
天狐は少し悲しそうな顔をしながらも、淡々と話を続けた。
「…君のいた病院に、私の力で作った人形を置いてきた。しばらくばれることはないだろう。君が退院するまでの残り2週間で、ここで自分の力を覚醒させることができれば、一応仮にだが日常に復帰できる。傷は、心笑が直してくれただろう?修行をし、力をつけた縁のものには、いくらやつらとはいえ簡単には手を出せないから。」
そういえば、体についていた傷が消えている。天狐が立ち上がり、連の肩に手を乗せながら優しく続けた
「私たちもできる限り協力しよう。だから、力をつけ、戦うんだ。そうしなければ、日常を取り戻すことはできない」
天狐の言葉を聞きながら、連の頭には様々な情景が浮かんでいた。
両親…友人…様々な人の顔が頭を巡る。
「連、私たちとともに、戦ってくれるかい?」
天狐が手を伸ばした。
連は大きく息を吸い。手をがっしりとつかむ。
「あぁ!よろしく頼む!」
(俺は…絶対に日常を取り戻してやる!そしてまた、皆で笑って過ごせる日々を送るんだ!)
「…ありがとう」
天狐の顔が、少し緩んだ気がした。
もう、最初の不気味さは感じなくなっていた。
「それじゃあ、こっちにおいで。他の仲間を呼んでおいたから、紹介するよ。」
天狐に連れられて外に出た。
心の重みは、消えてなくなっていた。




