31.蒼炎の鬼
八戒が乱童と戦い始める少し前。一番下の階層に連れてこられた連は投げ捨てられて床に転がった。
「いって……なんだよ!お前!」
瑞稀の姿をした何かの見た目が、ボロボロと崩れていく。中から現れたのは、美しい顔をした少女だった。
「うるさいなぁ……少し静かにしなよ」
声変わり前の少年の様な声。ゆっくりと、刀を抜きながらこちらに近づいて来る。
「礼儀として、一応自己紹介しとくよ…修羅の第三師団所属、酒内 湊 《《茨木童子の縁》》だ。よろしく……なっ!」
湊は一気に近づくと、刀をありとあらゆる方向に振り回す。連は盾を前に出現させると、盾の横から槍で思いっきり突く。
さっきの試練のおかげか、あまり出したことのない武器でもスムーズに出せるようになっていた。
「へぇ!やるじゃないか!君は覚醒したてで戦闘はド素人って聞いたけど…そんなことないのかな?」
湊は一度後ろに下がると、足に妖気を集中させて連の盾を蹴って粉々にする。連は素早くもう一枚の盾を出すと、鬼箱で湊を閉じ込める。
「こっちは、さんざん地獄の修行してんだよ!」
連は鬼箱から距離をとると、鬼箱を解除する。と同時に、一気に突進して湊の体に金棒を当てる。
「女子の体に暴力はふるいたくないけど…鬼の体ならこんぐらいでいってもだいじょうぶだろ?」
湊の顔が引きつる。
「……僕、男なんだけどぉ!?」
「……え?」
湊は金棒が体に当たったのにも関わらず、踏ん張って吹っ飛ぶのをこらえた。
「えっと…なんか、すまん」
湊はわなわなと震えると、連に向かって刀を向ける。
「ぶっ殺す!…『因子開放70%』!!」
湊の体が妖気に包まれる。と同時に、湊の体に青色の文様が浮き出る。
「知ってるよ…!君、まだ因子開放できないんだろ?安心しなよ、一瞬で終わらしてやる…〔蒼炎廻怨〕!」
湊の刀に青色の炎が渦巻く。湊がその刀を振るうと、青い炎の斬撃が連に向かって放たれた。咄嗟に盾で防ぐ。しかし、斬撃は防げたものの盾は燃えて消えてしまった。
「無駄だ!この青い炎は妖気を燃やす、お前の盾も武器もこの炎は防げない!」
湊は斬撃を次々と放つ。連は鬼箱を大量生産しながら、廊下を逃げ回るしかない。
(くっそ…せめて、あの時の暴走がもう一度できれば……)
連は、百鬼組での暴走の感覚を思い浮かべる。
(あの時の記憶は、ほぼない。けど…あの夢に出てきた存在の感覚だけ、何故か感じる…)
「逃げてばっか!情けないな!」
斬撃の量が増える。連は角を曲がると、近くにあった扉に入る。
幸いにも、三階層くらいのところにある扉にワープした。連は以前妖気を知覚したときのように、目を閉じて自分の体の中に意識を向ける。すると、何故か夢のなかで感じた感覚が、徐々に湧き上がって来る感じがした。
(これだ…これがきっと、因子。酒呑童子の因子…なんて力強い鼓動なんだろう)
自分の中で感じた酒呑童子の力。あふれんばかりのその力を解放すれば、とてつもない力が出せることは連も感じていた。連は、暴走しないよう自我が保てる様に調節をしながら、因子から力を出してゆく。ゆっくりと蛇口を開けるような、そんな感覚で。
突如、連の体から妖気が噴き出る。体には、赤みがかった文様が浮きでていた。連は心を落ち着かせながら、妖気を体に保てるようにした。
下で茨木童子は、連のことを探し回っていた。
「どこいった…?あいつ…おい!出てこい!」
すると、上の方からとてつもない妖気が吹き上がった。とてつもない鳴動。湊の体が自然と震える。
「なんだ…なんだこれは!」
ひやり、と背筋に悪寒が走る。咄嗟に飛び退いて後ろを見ると、そこには連が立っていた。
「よぉ、久しぶりだな。出てきてやったぞ」
連は、港の方を見ながらにやりと笑う。
「こんなの…聞いてないぞ……!」
湊は、冷や汗をかきながら連の方を見つめる。連が金棒を振るうと、凄まじい風圧で湊は吹っ飛んでいった。壁にぶつかる直前で、足で地面に着地して驚いた様子で連の方を向き直す。しかし、すぐに冷静さを取り戻した。
「舐めるなよ…予想外の力だが、僕だって奥の手くらいあるさ…見せてやるよ。『降魔解放:麗陰峰源闘王鬼』!」
さっきとは、比べ物にならないほどの妖気が湊の周りに渦を作る。粉塵が晴れ、中から出てきた湊はさっきとは別物の姿をしていた。青い二本の角に新たに目の周りに浮き出た青く輝く文様。角には、真っ青な炎が燃え盛っている。
「初めて見るか…?これが、降魔解放だ!」
先程まで持っていた刀が、青い炎に包まれて灰になる。湊の手から新たに、青い炎の刀が形づくられた。湊が刀を振るう。すると連の周りに八本の巨大な火柱が現れる。
「麗陰峰源闘王鬼の能力は火力強化…さっきまでとは操れる炎の量も出力も桁違いだ!消し炭になれ…〔八柱燼滅陣〕!」
連の周りにあった柱が、連の周りを渦状に回転し始めたかと思うと一気に連の方まで日が押し寄せて巨大な一本の火柱となった。湊が勝利の高笑いをする。
「アハハハハ!少し力が出せたからって調子にのって油断したな!酒呑童子、敗れたり!」
湊は、火柱の方を見つめる。すると、違和感に気づいた。火柱のなかに、何かある。湊が気づいた瞬間、すぐ横で轟音が鳴り響くとともに地面が割れる。
同時に、湊の左腕に激痛が走る。湊が慌てて見ると、湊の左腕は既に切り落とされていた。
「うっ…!これ…は…」
割れ目をよく見ると、そこには刃があった。火柱の方から伸びている、とてつもなく長い刃。湊の力が弱まったからか、火柱が消える。なかにあったのは、連の鬼箱だった。
「ハハ…ウソだろ?あれで…あれで無傷かよ」
湊が掠れた声でぼやく。連は鬼箱を解除すると、湊の方にゆっくりとよる。
「まさか…あんな長い刃を作ってあんな速度で振れるなんてね…予想外だったよ」
湊の降魔解放が崩れ始める。湊は諦めたように壁にもたれかかった。
「…正直俺も、予想外だったよ。まさかここまで威力があるなんてな。腕、すまねぇ」
「……敵に謝るなよ。俺の負けだ。殺すなら殺すがいいさ」
湊が覚悟を決めたように目を閉じる。連は刃を消すと、ズボンからベルトをとって湊に渡す。
「殺さねぇよ。お前はきっちり捕まえさせてもらう。そのベルトで腕結んで止血しろ」
湊が、連に向かって戸惑うように叫ぶ。
「なんで殺さない!僕は負けた、殺されて当然だ!どのみち負けた僕は遅かれ早かれ殺される。なんで君は、自分を殺しに来た相手を殺そうとしない!」
連は、湊に向かって叫ぶ。
「うるせぇ!俺は同い年くらいの見た目のやつを、それも無抵抗で瀕死のやつを殺すなんてできねぇ!お前はしっかり捕まえて、今後の計画のこととか洗いざらい吐かせてやる!それで終わりだ!殺す側の気持ちも考えろ、バカ野郎!」
湊は、予想外に、連に叱られてキョトンとした顔になった。そして、思わず吹き出してしまった。
「…本物のバカだよ、君は」
湊はベルトで止血すると、そのまま大人しく連の前に座った。
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