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魔の子たち  作者: ひら
第一章 力の目覚め

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26.妖帝の影

 頭の中に声が響く。重く、深く、心にのしかかるような。怒りと怨嗟が交じり合ったような、そんな声。

 連は、暗いところを彷徨っていた。周りに明かりはなく、立っているような浮かんでいるような、そんな朧げな状態だった。

 ふと、前を見るとそこには不気味な人型の影が立っていた。恐ろしい様な感じはあるが、何故か身近にも感じた。その瞬間、連の意識がはっきりする。


 (なんだ、ここは。俺は確か空条と…だめだ、思い出せない…)


 連は前を見る。変わらず黒い影は連の方を向いている。


 「…あんたはなんだ?一体ここはどこだ!?」


 連は、影に向かって叫ぶ。すると、影が連の首に向かって手を伸ばし、そのまま押し倒した。連の首がきつく締まる。


 「がはっ!………なん…で…」


 頭の中に声が響く。


『ゆ……ぬ…!ゆるさぬ………許さぬ!』


 凄まじい怒り。連の肌に刺さるような、棘のある声。連の首に更なる力がかかる。


 「やめ……ろ……やめろ……やめろ!!」


 連はベットの上で飛び起きた。激しく息切れし、汗をびっしょりかいていた。周りを見渡すと、近くに八戒と瑞稀が倒れるように寝ていた。

 連はベットからおりると、洗面所に向かって顔を洗った。鏡で自分の顔を見る。酷い顔だ。 


 八戒と瑞稀が起きる。


 「んぁ…おはよう、連っち。目、覚めたんだね」


 「お前、一晩中うなされていたが…大丈夫か?酷い顔だぞ?」


 瑞稀と八戒が連の顔を心配そうにのぞく。


 「ありがとう、二人とも。大丈夫だよ」


 夢のことは、話さないことにした。余計な心配をかける必要もない。


 「ところで…俺はどうなったんだ?」


 連は、八戒に尋ねる。

 

 「俺も、その場にいたわけじゃないんだが…天狐の説明曰く、空条さんがなかなか派手に連に腕試しを仕掛けたらしい。空条は連と同種の鬼の縁。だから連の力の覚醒を助ける可能性があったんだが…結果的に暴走しちまったってわけだ」


 「なるほど…」


 先ほど見た夢。根拠はないが、あれは恐らく…酒呑童子だろう。暴走と、何か関係があるのだろうか。

 

 部屋を出て、大広間に向かう。そこにはすでに、財前と天狐がいた。


 「連!目覚めたか。良かった」


 「やぁ、連くん。昨日はやりすぎちゃって、ごめんね」


 連たちは、天狐たちのそばへ向かう。

 

 「さて…私たちも帰るとしよう。ここにいる三人には、先に話しておきたいことがある。とりあえず、車に行こう」


 外に出ると、空条が車の前に立っていた。連たちは、外まで見送りに来た財前と他の組員に手を振り、車に乗り込む。


 「さて…昨日、財前から聞いた話がある。まずはそれから話そう―――」


 天狐は財前の部下から聞いた、一カ月後の修羅の侵攻の話を三人に話した。


 「まじか…まさかの全軍か…」


 普段元気な八戒でさえ、声が少し弱くなる。


 「百鬼組の方にも来るらしいが、連が狙いな以上、恐らく百鬼組には援軍を出させない様に足止めするだけで、団長格はすべてこちらに来るだろうな」


 天狐が深刻な顔をする。連も、この前現れた紫煙のことを思い出していた。


 (全軍…あいつがだした人形相手にあれだけ手こずって…それが五人!?しかも元帥って…)


 連も、もうそれなりに修行を積んできた。だからこそ、事の深刻さがわかる。


 「ここまでくると、もう幻天会全員で対抗するしかない。残りのメンバーも呼び戻す。会長が来るかは賭けになるが…」


 「わかった!一カ月後だな!俺等も本拠地にこのまま戻ったほうがいいか!?」


 八戒が天狐に尋ねる。


 「いや…私たちはこのまま、ある場所へ向かう。事が急な以上、連を覚醒させなければ戦力的にもかなりギリギリだ。そこで、とある物を取りに行かねばならない………場所は、宮城県」


 「今度は宮城か…何を取りに行くんだ?」


 「できれば使いたくなかった奥の手だ。連の降魔解放習得を早めるアイテム…『八咫鏡(やたのかがみ)』」


 八咫鏡……この単語は知っている。確か、三種の神器の一つだったはずだ。


 「実在するのか…?そんなもん」


 「あぁ。だが、まずそれを入手するハードルが既に高い。その上、手に入れた後もかなり危険だろう」


 天狐が連の顔を見直す。


 「連…正直、これはかなりの賭けだ。連の命をかなり危険にさらすことになる。だがもう、これしかない…やってくれるかい?」   


 連は、迷わず答える。


 「もちろんだ!今度は俺が……皆を守る!」


 天狐や、他の二人も嬉しそうにほほ笑む。


 「……ありがとう」


 天狐が連に頭を下げた。


 「っしゃぁ!そうと決まったらいくぞ!いざ、宮城!」


 八戒のテンションがもとに戻った。話を聞いていた空条も、面白そうに笑う。 

 

 「おし!とばしやすぜ!」

 

 空条が、アクセルを思いっきり踏む。


 「うわっ!わわわ…飛ばしすぎたって!空条さん!」

 

 明るい空気が、少しだけ戻った気がした。


―――――――――――――――――――――――

 薄暗い部屋。畳が引かれている、和室の様な部屋。紫煙は、部屋の襖を開くと中にいる人に対して一礼した。


 「幻天会の、天狐一向が百鬼組をでた模様です。しかし、本拠地には向かわずに違う方角に進んでおります。いかがなさいましょう」


 部屋の奥に座っているいる人影――大柄の男が、紫煙のほうを向く。


 「……奴らの向かう先など、予想がつく……八咫鏡の在処、『天の岩戸』だ。……なんとしてでも阻止せよ」


 「それでは、私が向かいましょう他には…」

 

 「僕も行くよォ」


 後ろから、男の声がした。振り向くと、そこにいたのは乱童だった。


 「あら…いいのかしら。忙しいんでしょう?」

 

 「いやァ、ちょうど今僕暇なんだよね。君こそいいのかィ?例のヒトバシラ。君に一任したじゃあないか」


 「今、私の部下が動向を見張っている…だから私は動けるが、部下は動けん」

 

 「なら、僕のとこから数人連れてくよォ。よろしいですかね?元帥」


 奥にいる人影が立ち上がる。


 「いいだろう…確実に、奪取せよ」


 「「御意!」」


 そう言うと、紫煙と乱童は襖を閉めて部屋を後にした。薄暗いなかで一人、元帥と呼ばれた男が自分の机に戻る。


 「…1000年か……長き戦いに、決着をつけようじゃないか……なぁ、天狐よ。そして…官兵衛よ」


 暗き部屋の中、男の独り言が響く。鳴り続ける時計の振子は、止まることのない時を示していた。

 

 

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