26.妖帝の影
頭の中に声が響く。重く、深く、心にのしかかるような。怒りと怨嗟が交じり合ったような、そんな声。
連は、暗いところを彷徨っていた。周りに明かりはなく、立っているような浮かんでいるような、そんな朧げな状態だった。
ふと、前を見るとそこには不気味な人型の影が立っていた。恐ろしい様な感じはあるが、何故か身近にも感じた。その瞬間、連の意識がはっきりする。
(なんだ、ここは。俺は確か空条と…だめだ、思い出せない…)
連は前を見る。変わらず黒い影は連の方を向いている。
「…あんたはなんだ?一体ここはどこだ!?」
連は、影に向かって叫ぶ。すると、影が連の首に向かって手を伸ばし、そのまま押し倒した。連の首がきつく締まる。
「がはっ!………なん…で…」
頭の中に声が響く。
『ゆ……ぬ…!ゆるさぬ………許さぬ!』
凄まじい怒り。連の肌に刺さるような、棘のある声。連の首に更なる力がかかる。
「やめ……ろ……やめろ……やめろ!!」
連はベットの上で飛び起きた。激しく息切れし、汗をびっしょりかいていた。周りを見渡すと、近くに八戒と瑞稀が倒れるように寝ていた。
連はベットからおりると、洗面所に向かって顔を洗った。鏡で自分の顔を見る。酷い顔だ。
八戒と瑞稀が起きる。
「んぁ…おはよう、連っち。目、覚めたんだね」
「お前、一晩中うなされていたが…大丈夫か?酷い顔だぞ?」
瑞稀と八戒が連の顔を心配そうにのぞく。
「ありがとう、二人とも。大丈夫だよ」
夢のことは、話さないことにした。余計な心配をかける必要もない。
「ところで…俺はどうなったんだ?」
連は、八戒に尋ねる。
「俺も、その場にいたわけじゃないんだが…天狐の説明曰く、空条さんがなかなか派手に連に腕試しを仕掛けたらしい。空条は連と同種の鬼の縁。だから連の力の覚醒を助ける可能性があったんだが…結果的に暴走しちまったってわけだ」
「なるほど…」
先ほど見た夢。根拠はないが、あれは恐らく…酒呑童子だろう。暴走と、何か関係があるのだろうか。
部屋を出て、大広間に向かう。そこにはすでに、財前と天狐がいた。
「連!目覚めたか。良かった」
「やぁ、連くん。昨日はやりすぎちゃって、ごめんね」
連たちは、天狐たちのそばへ向かう。
「さて…私たちも帰るとしよう。ここにいる三人には、先に話しておきたいことがある。とりあえず、車に行こう」
外に出ると、空条が車の前に立っていた。連たちは、外まで見送りに来た財前と他の組員に手を振り、車に乗り込む。
「さて…昨日、財前から聞いた話がある。まずはそれから話そう―――」
天狐は財前の部下から聞いた、一カ月後の修羅の侵攻の話を三人に話した。
「まじか…まさかの全軍か…」
普段元気な八戒でさえ、声が少し弱くなる。
「百鬼組の方にも来るらしいが、連が狙いな以上、恐らく百鬼組には援軍を出させない様に足止めするだけで、団長格はすべてこちらに来るだろうな」
天狐が深刻な顔をする。連も、この前現れた紫煙のことを思い出していた。
(全軍…あいつがだした人形相手にあれだけ手こずって…それが五人!?しかも元帥って…)
連も、もうそれなりに修行を積んできた。だからこそ、事の深刻さがわかる。
「ここまでくると、もう幻天会全員で対抗するしかない。残りのメンバーも呼び戻す。会長が来るかは賭けになるが…」
「わかった!一カ月後だな!俺等も本拠地にこのまま戻ったほうがいいか!?」
八戒が天狐に尋ねる。
「いや…私たちはこのまま、ある場所へ向かう。事が急な以上、連を覚醒させなければ戦力的にもかなりギリギリだ。そこで、とある物を取りに行かねばならない………場所は、宮城県」
「今度は宮城か…何を取りに行くんだ?」
「できれば使いたくなかった奥の手だ。連の降魔解放習得を早めるアイテム…『八咫鏡』」
八咫鏡……この単語は知っている。確か、三種の神器の一つだったはずだ。
「実在するのか…?そんなもん」
「あぁ。だが、まずそれを入手するハードルが既に高い。その上、手に入れた後もかなり危険だろう」
天狐が連の顔を見直す。
「連…正直、これはかなりの賭けだ。連の命をかなり危険にさらすことになる。だがもう、これしかない…やってくれるかい?」
連は、迷わず答える。
「もちろんだ!今度は俺が……皆を守る!」
天狐や、他の二人も嬉しそうにほほ笑む。
「……ありがとう」
天狐が連に頭を下げた。
「っしゃぁ!そうと決まったらいくぞ!いざ、宮城!」
八戒のテンションがもとに戻った。話を聞いていた空条も、面白そうに笑う。
「おし!とばしやすぜ!」
空条が、アクセルを思いっきり踏む。
「うわっ!わわわ…飛ばしすぎたって!空条さん!」
明るい空気が、少しだけ戻った気がした。
―――――――――――――――――――――――
薄暗い部屋。畳が引かれている、和室の様な部屋。紫煙は、部屋の襖を開くと中にいる人に対して一礼した。
「幻天会の、天狐一向が百鬼組をでた模様です。しかし、本拠地には向かわずに違う方角に進んでおります。いかがなさいましょう」
部屋の奥に座っているいる人影――大柄の男が、紫煙のほうを向く。
「……奴らの向かう先など、予想がつく……八咫鏡の在処、『天の岩戸』だ。……なんとしてでも阻止せよ」
「それでは、私が向かいましょう他には…」
「僕も行くよォ」
後ろから、男の声がした。振り向くと、そこにいたのは乱童だった。
「あら…いいのかしら。忙しいんでしょう?」
「いやァ、ちょうど今僕暇なんだよね。君こそいいのかィ?例のヒトバシラ。君に一任したじゃあないか」
「今、私の部下が動向を見張っている…だから私は動けるが、部下は動けん」
「なら、僕のとこから数人連れてくよォ。よろしいですかね?元帥」
奥にいる人影が立ち上がる。
「いいだろう…確実に、奪取せよ」
「「御意!」」
そう言うと、紫煙と乱童は襖を閉めて部屋を後にした。薄暗いなかで一人、元帥と呼ばれた男が自分の机に戻る。
「…1000年か……長き戦いに、決着をつけようじゃないか……なぁ、天狐よ。そして…官兵衛よ」
暗き部屋の中、男の独り言が響く。鳴り続ける時計の振子は、止まることのない時を示していた。
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