23.百鬼組の宴
連は今、愛媛県松山市にいる。四国の北西部に位置し、愛媛県の県庁所在地。市中心部にある道後温泉本館で知られているここに、なぜいるのか。
先日、天狐から他のヒトバシラが会いたいと言っている、という話しを聞き、連たち一行は百鬼組のアジトに向かっていた。それがここ、松山市なのである。
「……いくらなんでも遠くね?」
てっきり、東京内にあるか、無くても千代子が送ってくれるものだと連は思っていた。だが、千代子の能力の範囲は東京都内か一度触れたことのある扉に限定されているらしく使えなかった。
そのため、連は朝早くに叩き起こされ、七時間ほどかけてここに来たのである。
「まぁ、いいじゃないか!道中も結構楽しかったぞ!」
「そうだな!電車移動だったから酒も飲めたし、最高じゃないか!」
八戒と瑞稀は楽しそうにしている、確かに楽しいは楽しかったのだが、二人のバカ騒ぎをとめることに労力を使いすぎて連は疲れ切っていた。平気そうな顔をしているが、恐らく天狐もかなりの労力を使ったに違いない。
「それで…相手はどこにいるんだ?」
連が天狐に尋ねる
「迎えに来てくれるといっていたが…」
すると、連たちの目の前に一台の車が止まった、黒塗りの、見るからに高級車な感じの車だ。
中から、見た目が完全にヤ◯ザなスキンヘッドで顔に大きな傷のある男が出てきた。
「お久しぶりです。天狐の姉さん。皆様もどうぞ」
天狐に深々とお辞儀をしたあと、連たちは車に案内された。運転席に座った男が後ろを向いていてあいさつをする。
「改めまして。自分は百鬼組の若頭、空条 伸之と申しやす!」
「久しぶりだな!空条さん!元気してたか!」
八戒がいつも通りの大声で聞く。
「八戒さんも瑞稀さんもお元気そうで何より。組長も、きっと喜ぶと思われやす」
ドスの効いた声で男が喋る。男は連の方を向いて連に話しかける。
「あんたが、新しいヒトバシラですかい。何卒、よろしく頼みやす!」
「あ…よろしくお願いします…」
連は、すっかり萎縮してしまった。
車で移動している間、連は気になっていることを空条に聞いてみることにした。
「あの…空条さん。なんで百鬼組のアジトってここにあるんですか?修羅と戦うなら、近いほうがいいんじゃ?」
「…天狐さん、話してないんで?」
空条が天狐に聞く。
「昨日はちょっとバタバタしててね、話す暇がなかったんだよ。説明してやってもらえるかい?」
「わかりやした…うちの組長は《犬神刑部の縁》!犬神刑部は十大妖帝の中でも封印場所までわかっている珍しい妖帝でして。それがここなんでやす。だから組長は、封印の管理をするためにここを総本山にしてるってわけです」
空条が喋り終えると、八戒が眠そうに言う。
「なぁ…空条さん。もうそろそろか?」
「えぇ…もうそろそろ。つきやしたぜ」
車のドアが開く、周りにはいつの間にか霧が立ちこめていた。
「こんな霧、出てたか?」
連がぼやくと、空条が反応する。
「これは組長が張ってる結界でやす。流石に無防備ってわけにはいかんですので」
連たちが車から荷物をおろしていると、門から金髪で派手なスーツを着た男が現れた。
「やぁやぁ、よく来てくださいました。私、百鬼組の組長を務めています財前 玉成と申します。早速、部屋に案内しましょ」
見るからに、金持ちのような服装だ。いかにも組長というような格好である。
「久しぶりだな、財前」
「久しぶりですね、天狐。こないだ襲撃にあったとか。大変だったようじゃないか」
天狐が財前に軽く挨拶をする。連たち四人は、財前と空条に部屋に案内された。とても広い、旅館のような部屋だった。
「この後、組長主催の宴をご用意させていただいていやす」
「温泉もあるから、先に浸かってくるといいよ。ゆっくりしていってね」
二人はそう言うと、部屋から出ていった。
「おし!連、一緒に入るか!」
「えっ…おわっ!」
連が返事をするより先に、八戒に担がれて連れて行かれる。
「じゃ!あーしらもいきますか!」
天狐と瑞稀も、続いて温泉に向かおうとした時だった。さっき部屋から出ていった財前が、連が居なくなったのを見越したように戻ってきた。
「天狐、少し話したいんだけど…いいかな?」
―――――――――――――――――――――――
温泉は、予想よりもかなり広かった。体を洗い、お湯につかる。体に溜まっていた疲れが、抜けていくようだった。
「ガッハッハ!いい湯だな!」
八戒が、連の隣に座る。
「しかし連よ!お前が来てくれて嬉しいぞ!うちの組織は女の割合が高いから、こうやって一緒に風呂にはいれる奴が少なくてな!」
確かに、考えてみると幻天会は女の割合が高い気がする。連も、男には八戒を除くと右京と一心しか見たことがない。
「言われてみればそうですね…男って右京先生と一心さんの他に、誰かいるんですか?」
「ボスともう一人、男のような奴はいるが…というか連、敬語はやめてくれ。俺ら縁は年齢などあってない様なものだ。はっきり言ってむず痒い!」
「そ、そうか…わかった」
八戒はそう言うと、ガハハハ!と大笑いをした。幻天会に来てから一カ月と少し。まだそこまで長い間いるわけではないが、初めてフランクに話せる同性と出会って、連は少しうれしくなった。
「そういえば…幻天会のボスって誰なんだ?今まであったことがないが。八戒はあるのか?」
連は、幻天会のことを八戒に色々聞いてみることにした。
「あぁ、ボスか。俺もあの人のことはあまり知らん。俺と瑞稀はボスに拾われた、幻天会でもかなり古株なほうなんだが…基本ボスは居ないからな」
「そうなんだ…というか、八戒と瑞稀さんって同期だったんだな。確かに仲は良さそうだったもんな。ひょっとして、付き合ってるとか?」
連が、冗談交じりに尋ねる。八戒が難しそうな顔をした。
「そういうのではないんだが…まぁなんだ。色々と、すごいぞ、あいつは」
「?」
八戒が、苦笑いをしながら答えた。
―――――――――――――――――――――――
「向こうは楽しそうだね〜」
男湯から少し離れた女湯で、天狐と瑞稀は温泉にゆったりと浸かっていた。
「そうだな…たまにはこういうのも、いいものだね」
天狐が頭にタオルを乗せながら、気持ちよさそうにふぅ、とため息をつく。
「ていうか、天狐っちは働きすぎだよ!少しは休んだほうがいいよ!」
瑞稀が、天狐の側に寄る。
「仕方ないさ…あの会長が仕事とか言って行方不明なんだから。帰ってきたら、私も少しは休ませて貰うつもりだよ」
「いやでも、ボスが居なくなったのって…150年くらい前じゃなかったっけ?」
「奴のことだ、まぁ何か考えがあってのことだとは思うが…遊んでもいるだろうな」
天狐が、頭が痛そうにため息をつく。瑞稀が、天狐を抱きしめる。
「大丈夫だよ、天狐っち…私たちが居るんだから。たまにはしっかり休まなきゃ…」
「……言っとくが瑞稀、今回は何もしないからな?」
瑞稀がニヤニヤしながら頭を上げる。
「え~なんでよ天狐っち〜!この前みたいに楽しもうよ!…こんなけしからん乳しといて〜!」
瑞稀が、天狐の乳を揉む。
「ちょっ、瑞稀!揉むな!というか、お前のほうがけしからんだろ!」
天狐と瑞稀は暫くわちゃわちゃしていたが、天狐に流される形で温泉を出ることになった。
「まぁ…本番は夜だもんね!天狐っち!」
「だから、何もしないと言っているだろう…」
天狐は、呆れたように言いながら浴衣を羽織った。
―――――――――――――――――――――――
天狐たちと合流した連は、宴会場に向かうことにした。宴会場に向かうと、そこには財前、空条の二人と、組員であろう人たち数名がいた。
「やぁやぁ、温泉は楽しんでくれたかな?早速、始めようじゃないか!」
財前が笑顔で話しかけに来る。四人はそれぞれ席に案内される。机の上には、連が見たことも無いような、色とりどりの料理が並んでいた。
「うっま!」
長時間の移動と温泉で極限まで腹の減っていた連は、運ばれくる料理を次々たいらげた。隣を見ると、八戒と瑞稀が他の組員と酒盛りを始めていた。
「いい食べっぷりだね!」
酒盛りを眺めている連の前に、財前がやってきた。
「いやぁ、ここまで喜んでくれるとうれしいよ。八戒くんも瑞稀ちゃんも相変わらずだねぇ。料理は美味しいかい?」
財前が酒を片手に笑いながら話す。
「めっちゃ美味しいです!」
「そりゃあ良かった!ところで連くん、少し話したいんだけど、ちょっといいかな?」
連が頷くと、財前が連を宴会場の外に連れ出した。
「君の話は、天狐から少し聞いたよ。酒呑童子か…大変だったね」
財前は、歩きながら連に話しかける。
「僕も君と同じヒトバシラ…ってのは、もう聞いたかな。僕も最初、君と似たような状況でね。いきなり力が覚醒して、修羅の連中に殺されかけてたところを一度天狐に助けて貰ったことがあるんだ」
「そうなんですか…ん?じゃあなんで百鬼組に?」
「僕の祖父も縁でね…覚醒するまでは知らなかったが、百鬼組の先代組長だったんだ。その祖父が死んで、僕が引き継ぐ形となったんだ」
財前が懐かしむように話す。
「連、君に一つ聞きたいことがあるんだ。君はこれから修行をし、遠くない未来に絶大な力を手にするだろう。そのとき、君は何をする?」
今まで普通に喋っていた財前の目が、急に厳しくなる。連は少し考えた後、財前の質問に答えた。
「自分では、まだヒトバシラがどうとか修羅がどうとかあまりわかっていないんですけれど…でも、今の自分があるのは、仲間たちのおかげなんです」
連は、立ち止まってまっすぐ財前の目を見据える。
「この力が何の役に立つかは正直分からないけれど、俺は俺の大切な仲間を守れるようになりたい」
厳しい顔をしていた財前の顔が、少し緩んだ。
「そうか……いいね!すごくいい願いだ、僕は応援するよ。…まだ一つ、つれて行きたいところがあるんだ。来てくれるかい?」
財前は再び歩き始める。いつの間にか連たちは、大きな木の門がある部屋の前に来ていた。扉がゆっくりと開く。
「…入りなよ」
財前が中に入る。連も、財前の後を追った。そこは、木でできた武道場のようなところだった。広い部屋の真ん中に赤い円がある。
「あの…ここは?」
連が財前に尋ねる。
「ここは武道場。ここでよく、皆で戦闘訓練をするんだよ」
財前はそう言うと、連の方に向き直る。
「連くん、君の理想は本当に素晴らしい。ただね…まだ甘いんだよ」
財前が指をパチンと鳴らす。すると、財前の側に空条が現れた。空条は連の腕を持つと、赤い円のなかにぶん投げた。連が派手に転がる、と同時に、空条も円の中に入る。
「御免!」
空条が手で印を結ぶ。次の瞬間、円の周りに結界が生成される。
「財前さん!これは…なんで!!」
連が起き上がって叫ぶ。
「力なき者の理想は戯言にしかならない。悲しい話だが、これが君の踏み入れた世界の絶対的真理。君の力、少しだけ見せてもらうよ」
財前は結界の前に座ると、連をじっと見つめた。
最後までお読みいただき、誠にありがとうございます!感想やご意見があれば、ぜひとも書いて頂けると嬉しいです!
星の評価、ブックマーク、リアクション等、作者のモチベーションに繋がりますのでやっていただけると嬉しいです!
今後とも応援、よろしくお願いします!




