20.新しい日常
朝起きると、机の上に紙が置いてあった。
『朝食を食べ終わったら、8時までに102号室に
来るように』
食堂に向かい朝食を食べる。朝食を食べ終わるとほぼ同時に千歌がやって来た。
「おはよ〜。あんた今日から戻るんだっけ」
千歌が眠そうに言う。
「あぁ。土日はここだけどな」
「そ、まぁがんばれよ!」
背中を思いっきり叩かれる。言葉こそ素っ気ないが、心配してくれているのが伝わって連は少しうれしくなった。
102号室の前まで転移する。以前行った右京の部屋とは違い、かなり和風な扉だった。木の扉なのはかわりがないが、川と彼岸花が彫られている。ノックをして扉を開くと、そこには天狐がいた。天狐は手招きをし、中に連を招き入れる。
「ここ…天狐の部屋なのか?」
「あぁ、そうだ。ところで連、今日から日常復帰なわけだが…これを」
天狐が連に何かを差し出す。渡されたのは、『千』と書かれたキーホルダーだった。
「これは千代子が作った、通信機のようなものだ。何か危険が迫ったとき、これを握って千代子を呼ぶと会話することができる。位置情報もわかるから、攫われても問題ない」
「すごいな…ありがとう!」
「礼なら千代子に言ってやってくれ」
連は、キーホルダーを受け取ってかばんにつける。天狐はそれを見届けると、ベットの上に座った。
「日常復帰とはいえ、修羅の方からの刺客はまだまだ送られてくるだろう。油断は、禁物だよ」
天狐が厳しい顔で言う。
「わかった…俺さ、あんたのこと最初に見たとき、不気味だなとか思ってたんだ。でも、実際ここにきてからあんたにはすごい世話になった…ありがとう!これからもよろしくお願いします!」
連は、天狐の方をまっすぐ見つめて感謝を伝えた後、しっかりお辞儀をした。天狐は少し驚きながらも、すぐに笑顔になった。
「…あぁ、もちろんだとも。さぁ!もう時間だ。あと十分ほどで、私が病院に置いてきた人形が消える。『100号室』に行け。病院の扉と繋がってる」
連はもう一度ありがとうございますというと、部屋を出ていった。
100号室の前に転移する。この扉は、普通の扉だった。少しドキドキしながらも、連はその扉を空けた。
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扉の先は、見覚えのある病室だった。よく見ると、ベットの上に誰かいる。
―俺だ
おそらく、天狐が言っていた人形だろう。今まさに消えようとしている。
(めっちゃそっくりだな…これじゃ抜け出したのがバレないわけだ)
天狐が言うには、この人形は連の生活パターンをコピーしてあるため、ある程度連のモノマネができるという。人形か完全に消えると、連はベットの上に横たわった。
数十分後、自分のスマホに電話がかかってきた。
親からだったので出ると、車で迎えに来ているらしい。ようやく、自分が元の生活に戻れたのだという実感が湧いてきた。
翌日、朝早く目が覚める。着替えて、一階のリビングに向かうと、母が目を丸めながら驚いていた。
「連、あんた!こんな早く起きたの初めてじゃない!?…病院生活が良かったのかしらねぇ?」
そういえば意識していなかったが、幻天会の部屋では毎朝七時起きが日常だった――というか、起きれないと千歌が殴りに来るため起きざるを得なかったのだが。自分でもここまで習慣化できていたことに驚いた。
早く起きたはいいものの、今日は陽日と行く約束をしているため、かなり待つ羽目になった。いつも通り、陽日が走ってくる。
「おはよ〜連!久しぶりだな!」
「よぉ陽日。相変わらず遅いな」
「どうせお前もだろ?」
他愛ない会話をしながら、走って学校に向かう。
教室の扉を開けると、教室内が少しざわついた。
「よぉ!連。通り魔に刺されたんだって?傷見せてくれよ」
「連くんだいじょうぶ〜?心配したんだよ?」
通り魔に刺されたことで、少し有名人になったようだ、他学年からも見物に来てる人がいた。
連が来てからも暫く教室がざわざわしていた。
「なぁ、いくらなんでも俺のことでこんな騒ぐか?」
隣の席にいた真田に聞く。
「あ~お前はいなかったから知らねぇのか。なんか今日、転校生が来るらしいぞ?」
まさかの転校生。学校に戻ったその日に転校生が来るというイベントがあるとは思わなかった。担任が出席簿を持って教室に入ってきた。
「は〜い。お前ら席につけ〜。えー、今日は皆さんに重大発表が二つあります!一つはもうわかると思うが、連が帰ってきました!」
教室内で拍手が巻き起こる。連は少し恥ずかしくなった。
「そして二つ目、うちのクラスに転校生が来ることになりました!」
教室内が再びざわつく。連も、どんな人かなと周りの席の人と話していた。
「ほらお前ら、静まれ〜。入りづらいだろ。じゃあそろそろ入ってきて〜」
入ってきた転校生の顔を見て、連は思わず声を上げそうになった。
(うっそぉ…)
「じゃあ、自己紹介お願いします」
転校生はチョークを持って黒板に名前を書く。
「黒織 明香です。よろしくお願いします」
明香は連の方を見て、にっこりと笑った。




