19.ヒトバシラ
紫煙が撤退してから数分後、各区域にいた千歌たちを含む全員が、千代子に呼び戻されて会議室に戻っていた。
「すまない…今回私はほとんど役に立てなかった」
天狐が申し訳なさそうに頭を下げた。
「それは仕方ないのと思うがのぉ。紫煙…やつの煙人形は通常状態で見抜くのは不可能じゃ。わしも騙されとったしの」
「ウチとうららが捕縛した捕虜も、捕縛が完了したのとほとんど同時に煙みたいなのに回収されてしまいましたし…」
千代子と千歌が天狐を慰めるように言う。
「でもこれではっきりしたね。こっちの予想通り、奴らの狙いは連クンだ…天狐、そろそろ連クンに話してもいい頃合いじゃないかい?」
右京が天狐の顔を見ながら尋ねる。天狐は若干迷う素振りを見せたが、すぐに連の方に向き直った。
「連、今から君が狙われている理由を話そうと思う。一つ誤解しないでほしいのは、私はこれを悪意があって隠してたわけではない…ただ君が、もう少し力をつけるまで、待っていたかったんだ」
なんとなく、重苦しい空気を悟ったのだろう。千歌と明香、うららが気まずそうに顔を合わせた。
「えっと…深刻そうな話ならウチらでたほうがいい…?」
千歌が言いづらそうに尋ねた。
「いや、君らも知っておいたほうがいいだろう。この話は、君たちみたいな新参組だけじゃなく、割と前からいるメンバーにも伏せていたことだ。現に一心、君も知らないだろう?」
天狐が、黙って座っていた一心の顔を見る。
「…心当たりはねぇな」
一心が、少し考えてから答えた。
「ここにいないメンバーには、後で私が話しておくとして…話を戻す。連、君は『ヒトバシラ』という特殊な縁なんだ」
ヒトバシラ…ここでは聞いたことがない単語だ。漢字的に人柱、とかだろうか。連がそんなことを考えていると、右京が話し始める。
「ヒトバシラってのは要するに鍵なんだよ。封印のね」
天狐が続ける。
「前に説明したように、縁の中にある因子はかつて滅んだ妖怪のものだ…だが、一部例外がある。妖怪の中には、強すぎて封印するしかなかった者たちがいる。それらが封印される際にばら撒かれた因子を宿し、覚醒した器…『ヒトバシラ』だ」
明香が連の隣で手を挙げる。
「あの…それじゃ鍵って言うのは、連がのその封印の鍵ってことなんですか?」
「正確には、因子を覚醒させた上で、100%の因子解放、即ち、降魔解放を会得した者が死ぬことで封印が解けるというわけだ。要するに、降魔解放会得前の奴を殺せば封印を解かずに因子だけ手に入れることができる。ヒトバシラの縁の力はほかのものと比べると強大だからな…これがおそらく、連が狙われる理由だろう」
「じゃあ俺は…どうすればいいんだ!日常へはもう、戻れないのか!?」
連は、激しく動揺した。殺せば因子が得られるのであれば、これから連は狙われ続けるということになる。そうなれば、日常への復帰はもう望めないと考えたからだ。だが、天狐の口からでた答えは、連の想像していたものとは全く逆のものだった。
「いや…君には逆に日常に戻ってもらうことにする」
連の周りにいた千歌や明香がざわつく。
「でもそれじゃあ…連は殺されちゃうじゃない!」
天狐が再び話し始める。
「ここに長く居すぎれば、今度は奴らは本隊を率いて来るだろう。居場所はどのみち時間が経てばばれる。逆に外に出せば、奴らはコソコソとしか手が出せない。外で派手に暴れるとこはできないからね。」
連は冷静を取り戻し、天狐に尋ねる。
「じゃあ俺は、もう復帰できるのか?」
「あぁ。ただし、護衛はつけるし、修行は継続してもらう。君には早いところ、降魔解放を習得してもらわないといけない。それに、降魔解放を習得したとしても安心はできない。奴らは封印を完全なものにするために、習得した奴は封印しようとしてくるからね」
「っっしゃぁぁぁぁ!」
連は喜びのあまり、その場で飛び跳ねた。
「それじゃあ、今日はもう皆部屋で休むとするかの。わしが転送しよう」
千代子が、にこにこしながら一人ずつ部屋に転移させていった。
部屋に戻った連は、右京からもらったお茶を飲みながら、学校の友人や家族の顔を思い浮かべる。
(久しぶりに会う気がするな…)
時間にすると一カ月未満だが、連にはとても懐かしく思えた。お茶お飲み終わり、眠りにつく。明日からの生活に、連は期待を膨らませた。
―――――――――――――――――――――
「いやぁ、してやられたねぇ」
薄暗い会議室。その中で、四人の男女が話していた。
「すいません紫煙さん…紫煙さんが助けてくれなかったら今頃私…」
長髪の少女―優樹菜がうなだれながら謝る。
「まぁ、しかたないね。君等はまだ、戦闘経験浅いから。今回のは単なる誘拐だったから、君等が敵の気を引いてるうちにぱっと攫って逃げる予定だったんだけど…簡単には行かないかぁ」
他の二人―透と凛も口々に話し始める。
「しかし、私たちがもう少し強ければ!うまくいっていたばずたった!」
「本当に、申し訳ございません…」
紫煙がふっと笑う。
「まぁ、次は無いから頑張っておくれよ。出もいなくなっちゃったし、また戦力足さないとねぇ」
「「「了解!」」」
三人は深く頭を下げると、素早く部屋を出ていった。
紫煙は椅子に座ると、煙管を取り出し火をつけて加えると、煙を吐き出した。
(千代子…元帥から話は聞いていたが、想像以上だ。三百年前の時点では、はっきりとした実力は不明だったが…ありゃやばいねぇ)
空を見あげながらため息をつく。
「ヒヒヒ…悩み事かィ?」
後ろから、笑い声が聞こえた。振り向くと、そこには長髪の男が立っていた。目は半開き、ニタニタ笑いながらギザギザな歯を剥き出しにしている。
「あら…久しぶりねぇ、乱童。どう?調子は」
「ヒヒ…最高さァ。昨日もオイシイ縁をいただいたからネェ」
「…悪食ねぇ」
男はニタニタ笑いながら、紫煙に顔を近づける。
「悪食とは失礼ナァ!僕は美食家で通っていると言うのにィ」
紫煙は男の顔に煙を吹きかける。
「それは悪かったわねぇ…それで?何の用事かしら?」
男は顔を上げるとニヤニヤ笑いながら答える。
「いやァ…あんた、相変わらず甘いなと思ってねェ。任務に失敗したボンクラを残しておくなんてさァ」
「そうかしら…貴方が厳しいだけなんじゃないの?」
「違うなァ…僕がいれば代わりなんざいくらでも作れる…残しておく意味なんてあるかァ?あんな役に立たない奴ら」
紫煙はため息をつきながら男に問いかける。
「ハイハイ、わかったから…それで?本当の要件は?さっさと言いなさい」
男はつまらなそうに舌打ちをすると、一枚の写真を取り出した。
「君が追っかけてたヒトバシラとはまた別の反応が出たんだが…僕の部下が見つけたときは痕跡がほとんどのこってなくてねェ、かなりの手練れだ。しかもこいつ、単体で動いてる。正体不明、未登録のヒトバシラだ…興味、無いかねェ?」
紫煙がにやりと笑う
「フフッ、最近は本当面白いことばかり起こるねぇ」
「ヒヒ…全くだ、笑えるネェ…」
二人は笑いながら、会議室を出ていった。
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