18.本拠地襲撃⑤
白い岩山が一面に広がる世界。
千代子と紫煙は修練所の中の、周りを岩に囲まれた開けた場所にワープした。
「ここなら奴らも巻き込まれん。おぬしと全力でやれるのう」
そう言うと千代子は紫煙を掴んでいた手を離し、思いっきり蹴り飛ばす。紫煙の体がブワッと揺らめいたが、すぐにもとの姿へ戻った。
「貴方とやるのは初めてね。三百年前の襲撃のときは、貴方とは会わなかったし。つくづく、縁がなかったのねぇ」
「そうじゃの…それでどうじゃ?わしには勝てそうかの?」
紫煙がにやりと笑いながら答える
「そんなのわからないわよぉ。ただ、油断はしないわ。なにしろ貴方、千年前…うちの総帥と同じぐらいの年代から生きてるらしいじゃない」
「総帥…竜胆のことか。懐かしい名じゃのう。………さて、そろそろ話はおしまいでいいかの?」
紫煙が煙で刀を作り、構える。千代子も自身の妖気を拳に集中させた。
「「『因子解放80%』!」」
二人の体から膨大な妖気が溢れ出る。周りの岩にヒビが入り、地面は砕ける。
轟音と共に、強大な二つの妖気が衝突した。
―――――――――――――――――――――
「それじゃあいっちょ…やるか!」
千代子が紫煙を分断した直後、連たちは紫煙が残した煙の人形を相手にしていた。連は金棒を生成し、明香は影から黒い鳥を展開する。
「先に言っておくわ。紫煙は《煙羅煙羅の縁》、煙を操る能力を持っている。基本、物理攻撃は効かないから注意して!」
心笑が説明する。
連は、試しに金棒で殴りかかってみる。頭の部分を吹き飛ばしたがすぐに再生し、人形は攻撃を仕掛けてきた。
(個々の戦闘能力はそこまで高くはない…ただし、無限に復活するって感じか…)
明香も同様に〔黒鳥舞踏〕を発動させ人形を粉砕したが、結果は変わらなかった。
「ちょっ…心笑さぁん!これどうしたらいいんすかぁ!」
「私の能力、相手に意思がないと使えないの!だからここは君らがどうにかしないと…」
「そんなぁ!」
どうやら、心笑の能力は使用相手に制限があるようだ、連は人形の猛攻を何とかさばきながら修行を振り返り、冷静に自分の能力を分析する。
(落ち着いて考えろ…俺の能力は攻撃を念じると金棒、防御を念じると盾になる…ということは、違うことを望めば違う形になるのではないのだろうか。煙を封じるには…)
連は何かを思いついたように、明香に向かって叫ぶ。
「明香!この人形、一箇所に集められるか!」
「分かった!やってみる!」
明香はそう言うと、煙の人形の周りに向かって円状に黒い鳥を乱射し始める。煙の人形は徐々に円の中心に集まっていきた。
(この人形は、どんなに破壊しても再生しちまう。なら、破壊せずに閉じ込める!)
連は足に妖気を集中させると、上に向かって跳躍し、人形の真上の位置に飛んだ。
「喰らえ!即席妖術……〔鬼箱〕!」
人形の周りに長方形のオレンジ色の箱ができ、煙の人形をきれいに閉じ込める。連はそのまま箱の上に着地した。
「すごいよ!連。こんなのいつの間にできるようになったの!?」
明香が驚いたように、走って連の方に向かって来る。
「…おそらく俺の能力は、自分の念じた形に沿ったものを作り出す能力ってとこだろう。原理はわからんが、今回は『拘束する』と念じたら箱みたいのができた」
「へぇ~。修行のときはできてなかったのに。実戦で伸びるタイプなのかな」
二人がわちゃわちゃと話している中、心笑だけが真面目な様子でじっと連を眺めていた。
(…今までの修行ではせいぜい20%そこらだったのに、能力発動の一瞬、60%ほどに跳ね上がった…やはり右京さんの言うとおり…)
心笑は顔を笑顔に戻すと、連の方に向かっていった。
「ほら、連くん。勝ったとはいえ、少しケガしていますよ。今、治療しますからね〜」
―――――――――――――――――――――
岩山が一つ、また一つと砕け散る。凄まじい妖気を放ちながら、千代子と紫煙は激しい攻防を繰り広げていた。
不意に、何かを感じたように紫煙の手が止まると、ニヤッと笑った。
「ふぅん…これが…」
千代子も動きを止める。
「なんじゃ…もうやめか?」
紫煙はくるりと千代子の方を向くと、にっこりと笑った。
「そうね、今日はここまでにしときましょうか。本当なら今日攫えたらベストだったけれど…本物だって確認できただけで十分ね。私たちは引き揚げるわ」
「…逃がすと思うかの?」
千代子が不敵に笑う。紫煙も笑みを崩さずに答える。
「ええ、帰らせてもらうわ。…天狐には本体と言っておいたけれど、今ここにいるのも私の分身に過ぎない。次会うことがあったなら、そのときは全力でやりましょ…」
そう言うと紫煙は、空気に溶けるように消えていった。
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