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魔の子たち  作者: ひら


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17/31

17.本拠地襲撃④

 「「ズズン…」」

 至る所から壁が崩れる音が聞こえる。


 「…どうやら、皆派手にやっているようだね」


 右京、千歌、うらら、一心が敵と邂逅している間、天狐は71地区で敵をさがしていた。


 (おかしい…入ってきた他の四人の妖気は感じるのに、ここに来たはずの一人の妖気は一切感じ取れない…まさか、奴が来ているのか?)


 妖気の探知を広げても、一切引っかからない。天狐は前にも、似たような経験があった。自分の得物である長槍を手に持ち、落ち着いてあたりを見渡す。


 「…これほど探知しても引っかからないような奴は、修羅の中では私の知る限り一人しかいない…出てこい!『煙羅煙羅 (えんらえんら)』!」


 天狐が叫ぶと同時に、天狐の前に白い煙の渦が現れる。その煙は徐々に形を成していき、やがて人のかたちになった。そこには、白い和服を纏い、白い長髪の女が立っていた。


 「流石、よく私だと分かったねぇ。それと、煙羅煙羅って呼ぶのやめておくれよ。私には相葉 紫煙(あいば しえん)っていう名前があんだからさ。お前さんも知ってるだろ?」


 「…まさか本当にいるとはな、修羅の第四師団団長様がわざわざお出ましとは。一体何の用だ」


 紫煙はクスリと笑うと、天狐をじっと見つめる。


 「わかってて言っているだろう…?鬼山 連だよ。あの子…君と同じ、『ヒトバシラ』なんだろう?君は既に覚醒済みだが、あの子はおそらくまだだ。こんなチャンスはないだろう?」


 天狐が紫煙を鋭く睨みつける。


 「なるほど、予想通りだな。であれば…私たちがそれをさせないことぐらい、分かるだろ?」


 天狐は槍を構え、紫煙に向かって力強く突いた。

紫煙の体が、煙のように揺らめく。


 「そんな攻撃が無駄なことぐらい、分かるだろう?それにそもそも……もう遅いんだよ」


 「…貴様っ」


 紫煙の体がゆらゆらと揺らめいて消えてゆく。天狐は歯ぎしりをしながら煙のほうをにらめつけた。揺らめく煙から、不気味な笑い声が聞こえる

 

 「…ここに来ているのが私だと気づいたところまでは見事だったよ…だが私とて馬鹿じゃない。君と一対一なんてしたら、確実に消耗するだろう?…これは分身、私の本体は既に…鬼山 連のところにある。じゃあ、またねぇ」


 そう言うと、紫煙だった煙は姿を消した。


 「千代子!今すぐ私をそっちへ飛ばせ!」

 

 不覚っ…天狐はそう感じながらも、冷静に千代子へと指令を出す。だが、千代子からの返答はない。


 (どういうことだ?千代子に届いていないとなると…分断されたな)


 天狐はため息をつくと、ポケットから無線機を取り出した。


 「…右京。どうだ、そっちは」


 無線機から右京が応答する。


 「…あ~もしもし。こっちは大丈夫。因子解放するハメにはなったけど倒せたよ。ところで、さっきから千代子サンにつながらないんだけど…大丈夫だよね?」


 天狐は、事の顛末をすべて右京に話した。

 

 「…なるほどね〜。まぁ向こうにもそこそこ人員割いたし大丈夫でしょ。あっちには明香チャンも心笑チャンも…何より千代子サンがいるじゃない。心配いらないと思うけど」

 

 「だといいが…」


 天狐の表情が曇る。


 「……まぁ心配なのもわかるけど、想定はしていたじゃない。連クンは、失うわけにはいかない。向こうのことは向こうに任せて、僕はたちは信じて待とうじゃない」


 右京が暗い天狐の声を聞いて、励ますように言う。


 「…そうだな。お前の言うとおりだよ。私も、待つことにしよう。」


 天狐はそう言うと、無線を切った。


 

 ―――――――――――――――――――――

 連は、あちこちから響く地鳴りの音を聞きながら、心笑、明香とともに、会議室の椅子にすわっていた。

千代子は、ずっと目を閉じたまま床に座り、あたりの戦況を見守っている。


 「なぁ、明香…ここに一体何が来たんだ?何で俺が狙いなんだ?」


 明香が、深刻そうな顔をしながら答える。


 「連を狙ってる理由は不明だけど、来てる連中はわかる…多分だけど国家秘密防衛特殊部隊『修羅』。ずっと昔から私たちと敵対し続けている組織だよ」


 天狐が言っていた国からの刺客というのはおそらく修羅のことなのだろうと連は理解した。すると、その話を聞いていたのか千代子が目を空けて椅子に座り、連にむかってはなしはじめた。


 「修羅というのは、昔からある組織での。幻天会発足当時から存在しているんじゃ。五つの師団があり、それぞれに師団長がおる。その上に総帥という形じゃ。わしも昔から戦っておるが、古くからいるやつほど強い。団長ともなれば、200歳は優に超えておる」


 200歳……縁の人間は条件が揃えば年をとらなくなると、明香がこの前言っていた。


 「あの…千代子さん。縁の人間って条件満たすと体の成長が止まるんすよね。その条件ってなんなんすか?」


 「私も…具体的な話は聞いたことがないので、教えてほしいです」


 明香も、知りたそうな様子で会話に入ってきた。


 「おや?知らんかったんか。まぁ連はその条件を早いとこ満たしてもらわないと困るからのぉ…おぬしら、というか連。『因子解放』ってわかるかの?」


 「いえ…全く」


 聞いたことがない言葉だ…と思いながら、連は明香のほうをちらりと見た。


 「それって、体内にある因子の力の解放のことですよね。解放できる割合が高いほど強いっていう…」


 千代子が頷く。


 「うむ、千歌とおぬしはまだ発展途上。それ故に60%ほどしか解放できないじゃろ?連に至ってはまだ20%ってところじゃな」


 あんなに修行したのに、まだそんなに低いのか…と、連は心のなかでぼやいた。

 

 「話を戻すぞ。それでその因子解放じゃが、100%まで解放すると因子の素となっておる妖怪の力のほぼ全てを使うことができる…と同時に、体の組成も妖怪のそれに近くなる。つまり、[100%の因子解放を行うこと]これこそが、『条件』というわけじゃ」


 なるほど。というように、連と明香は頷く。


 「100%の状態の因子解放のことを『降魔解放(ごうまかいほう)』とゆってな。うちだと、わし含めて殆どのやつができる。修羅の方にもできるやつはおる。団長だっから確実じゃな」


 連たちが千代子の話に聞き入っていると、連が足元の違和感に気づいた。地面が、いつの間にか煙まみれになっている。

 

 「あの~千代子さん。この部屋ってこんな煙まみれでしたっけ」


 どれどれ…と千代子が床をみる、途端に、千代子の表情が変わった。


 「これは…まさかっ!」


 フフフ…と、笑い声が聞こえる。咄嗟に、心笑と明香は立ち上がり連の前にならぶ。連たちの前に煙の渦ができ、煙は徐々に女の形になっていった。


 「久しぶりねぇ、蔵内 千代子。三百年ぶりくらいかしら」


 「そうじゃの…ところで、なぜおぬしがここにおる。わしの能力で、侵入者は各所に飛ばしたはずだが?」


 「私ならこの広大なアジトも薄い煙で覆って至る所まで探知することができる…天狐には、分身を押し付けといたよ」


 千代子は連たちの前に移動すると、羽織っていた上着を椅子に掛けた。


 「連、千歌、心笑、さがっとれ。こいつは…わしが止める」


 「ちょっと待ってくれ千代子さん!俺も―」


 連が前に出ようとしたのを心笑が制止する。 


 「連くん!やめなさい!…あの顔、見たことがある。あの女、以前このアジトに侵入してきた…団長よ。貴方じゃ勝ち目はないし、私でも厳しい。そもそも、おそらく奴らの狙いは連くん。連くんは戦うべきじゃない」


 心笑が止めるのを見て、紫煙が不気味に笑う。


 「あらぁ、別にいいじゃない。だってどうせ、捕まえるのには変わりないし…捕らえろ〔白煙憲兵団(はくえんけんぺいだん)〕」


 紫煙の周りから煙が噴き出し、渦を巻いて人の形になってゆく。一瞬で連たちの前に、30体ほどの煙の人形が並んだ。千代子が叫ぶ。


 「千歌、心笑、連!その人形はおぬしらがやれ!わしはこいつを片付ける!」


 千代子はそう言うと人形を飛び越え紫煙の下へ向かい、紫煙の体を掴む。


 「…まぁそうするわよね。私を抑えられるの貴方くらいだし。でもだいじょうぶかしら?あの子たちに任せて」

 

 「問題ない、あの子たちは強いよ…お前はわしが始末する。『移動(ムーブ):修練所:』!」


 紫煙と千代子の姿が消える。連は千代子たちが移動したのを見届けると、煙の人形に向かい合った。


 「それじゃあいっちょ…やるか!」

 


 


 

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