9話 結末
1章完結です。
よろしくお願いします。
商業都市メーリオル 駅 ホームにて。
人が行き交う駅のホームの端の方、人が少ない場所に白髪の少女が立っていた。
黒色のコートに身を包んでいる背の高い少女、魔術監察官のユロだ。
彼女は仕事を終えて、次の仕事に行くために列車を待っていた。
『全ク。もう次の事件の調査かヨ。お前の上司も人使いが荒いナ』
彼女のコートのポケットから1匹の黒色のトカゲが飛び出る。
精霊ドラ。ユロの相棒。
ドラがぼやくと、ユロは笑った。
「普段はもう少し休めるんだけどねー。ま、みんな忙しいんだから、私も頑張らないと」
『お前は重傷だったんだからムリはすんなヨ』
「大丈夫だよ。ドラがきちんと治してくれたから」
とユロはドラに向かってウィンクする。
ドラはユロと契約した『精霊』と呼ばれる生物だった。
魔力を持ち、人間と契約し、特殊な魔術を扱うことができる。
ドラは契約者の傷を治すことができた。
「ドラのお陰だよ。ありがと」
『ハン。礼を言うくらいなら、無茶は止めて欲しいもんダ』
「分かっているよ。うん、反省している」
ユロは駅のホームの景色を眺めてから、今回の事件を振り返っていた。
――ウィッツ・アルベンと、彼の中にいる別人格イメイが引き起こした事件は、ウィッツを逮捕することで事件は収束した。
ウィッツはある意味、命を狙われていた被害者の立場でもあるが、一般市民に対して自分の魔術を行使した罪もある。
国からの認可がなければ魔術師は魔術を扱うことはできず、ウィッツは無認可の魔術師だった。魔術を行使して、結果的に7人の死者を出した罪は重い。死罪か、一生牢屋の中のどちらかだろう。
彼に協力していた者達も次々と検挙されていった。
そしてユロにかかっていた複写魔術は、ウィッツの手によって解除された。
これで全て解決。
だがユロの表情は晴れなかった。
『ユロ。悩み事カ?』
とドラの言葉にユロは頷く。
周りに人がいないのを確認した後、ユロは口を開く。
「今回の事件はまだ解決していないこともあるからね」
『アア。ウィッツ達に複写魔術を授けた、魔術師の行方は分からずじまいだからカ』
ウィッツに複写魔術を授けた魔術師。
彼曰く男らしいのだが、彼も正体を知らないらしい。
その魔術師の行方は他の魔術監察官が捜査中だった。
『心配しなくてモ、いずれ見つかるだろうサ。他の監察官達が今も捜査しているんダ。お前は自分の仕事をしていれば良イ。あんまり気にするナ』
「そうだねー」
ドラはユロの顔を見上げる。
『気になることは他にもあル、って面だナ』
「……そう見える?」
『まぁナ。言ってみロ。聞いてやるかラ』
「あんがと」
ユロはホームの景色を見ながら、自分の心配事を口にする
「私さ……」
『オウ』
「私、ちゃんとやれていたのかなって」
『……フム』
「もっと良い方法が取れたんじゃないかなー、って気にしている」
『あの少年のことカ?』
ユロは頷く。
ユロが助けた、複写魔術がかけられていた少年ことだ。
彼は王国軍に保護されたあと、都市の孤児院に預けられることになった。
出発する前に孤児院に寄り、少年に会った。
少年は「ありがとう」とお礼を言ってくれた。
孤児院の先生にも会ったが、優しそうな女性だった。
だがユロは自分が無力だと感じていた。
『ユロ。それこそ気にしすぎダ。お前にできることなんて大してねぇヨ』
「……だよね」
とユロは笑う。
自分の心配事が随分と身勝手なものだという認識は持っている。
『お前はお前にできることを充分にやったヨ』
「……うん」
ユロは頷く。
ドラもケケケと笑った。
ユロは改めて駅のホームを見回す。
駅のホームは人で溢れていた。
そんな光景を見ていると、ふと自分が随分と遠くまで来たと思ってしまう。
ユロは少年を助けに来たとき、自分の過去を思い返していた。
彼女も少年と同じように、独りで自分の育て親の帰りを待っていたことがある。
魔術監察官の任務で出かけた師匠の帰りを待っていた。
彼の許可がないと、食事も取れない環境だったから、ユロは待っていた。
彼女は人として尊重されない場所にいたのだ。
魔術の修行で痛めつけられ、許可がなければ食事にありつけることもできない場所に。
――今では、もう、遠い過去だ。
ある日、師匠は任務の途中で命を落とし、帰ってこなかった。ユロは別の魔術監察官の女性に保護され、そのまま彼女の家の養子になった。
今は新しい家族がいる。自分を1人の人間として尊重してくれる家族が。
今ではお金を自分で稼いでいる。好きな服も、食べたいご飯も、自分のお金で手に入る。
それなのに、まだ。
簡単に自分の子供の頃を思い返す。
同時に憎悪がとどめなく溢れてくる。
なんで自分が、という憎悪が。
しかし憎悪を向ける相手はもういない。
代わりに憎悪は別のものに向けている。
ユロは師匠と同じように魔術監察官になった。
彼が誇りに思っていた職業を、自分でも簡単にこなせるものだと証明したくなった。
そして「こんなものか」と笑うことができれば、少しは師匠を傷つけてやることができるんじゃないかと期待している。
もう彼はいないのに。
ただただ醜い動機を胸に、彼女は魔術監察官を続けている。
「……なんか、私。ダメだなぁ」
とユロは思わずぼやく。
ドラはユロをじぃっと見つめてくる。
『それは何ダ? 『そんなことないヨ』と俺に否定して欲しいやつカ?』
「……気持ち的にはね。でもカッコ悪いから良いよ。聞かなかった振りをしてよ」
『そう言われるとナァ、励ましたくなっちまうナ。逆にナ』
ドラはにやにやと笑う。
『とはいえ、俺が何を言ってモ、どうせグダグタと悩むんだろウ? 好きなだけ悩んでおケ』
「そーする」
『俺から言えることハ、マァ、一つだけダ』
ピィィという汽笛の音が聞こえた。
ユロは近づいてくる列車へと目を向ける。
『ユロ。お前は頑張っているヨ。よくやっていル』
ドラの言葉を聞いたユロは、おかしそうに笑った。
黒色の列車がホームに到着した。
――確かに。
自分が魔術監察官になった理由は師匠を否定するためだ。
でも、それが全てじゃない。
自分の力で、誰かの助けになりたいという思いだって嘘じゃないのだ。
本当にそう思っているのだ。
いつか、魔術監察官を続ける理由が、誰かの助けになりたいという気持ちだけになれば良い、と少女は思う。
また汽笛が鳴る。
ユロは軽い足取りで列車の中に乗り込んでいった。
ありがとうございました。
次の話から2章となります。




