10話 魔術師を探して
今回の話から2章開始です。
よろしくお願いします。
インテグラ王国では、魔術の使用には全て王国からの認可が必要とされている。
魔術師もまた国の管理下に置かれている。定期的に自身の行動記録を報告する義務を負っており、報告を怠れば国からの監査が入る
その監査は魔術監察官と呼ばれる者達の手によって行われる。
「良い風だねー」
インテグラ王国にある小さな田舎町。
町の北方の奥まった場所にそびえたつ時計塔。町のシンボルであり、他のどの建物よりも高い。時計塔の内部には町を見下ろせる展望台があり、その展望台には1人の少女がいた。少女は手すりにもれかかり、風を感じている。
耳元まで伸した白い髪。
長身で、薄い黒色のロングコートを着ている。
彼女の名前はユロ・イリアス。
性別は女性。年齢は17歳。
職業は魔術監察官だった。
空は快晴。風も心地良い。ユロはうーんと延びをした。
「良い天気だし、見晴らしも最高~。あー、ずっと、こういう景色だけ見て生活したい。ドラもそう思うでしょ?」
『同感だガ……なんダ。お前、結構疲れてたんだナ』
とユロを心配する声があがる。
声の主は手すりに座っている一匹の緑色のトカゲだった。
彼の名前はドラ。精霊と呼ばれる特殊な力を持つ生き物でもあり、ユロの相棒でもある。
ユロはドラの頭を軽く撫でる。
「なーに。心配してくれたの?」
『アァ? 別に心配なんかしてねぇヨ』
「照れないでよー。うりうり」
とユロはドラの頭を何度も撫でる。
ドラはユロの撫でられるのは悪い気がしないのか、満足そうに舌を出した。
ユロはドラを撫でながら時計塔の展望台から町の景色を見下ろす。
穏やかな日差しの下、町の住民が行き交う様子が見える。
露店では客を呼び込む活気の良い声が響く。
通りでは荷台を引く馬車を子供達が元気に追いかけている。
昼休憩を終えた大工達が談笑しながら職場へと戻っていく。
仕事に来たことを忘れそうになるほど、穏やかな景色が広がっていた。
「――とはいえ、ちゃんと仕事をしないとね」
ユロは気を引き締める。
ドラも『そうだナー』と同意する。彼はユロの手のひらに乗せられて、顎を撫でられていた。
「今回の捜査対象は、カリーナ・ミシェラさん。年齢は73歳。女性。国の認可を受けた魔術師。この町の住民」
『だが、半年以上連絡がつかなイ。定期報告もなしダ』
「うん。カリーナさんは人間嫌いで有名で、町の人とは殆ど交流がない。時計職人だった旦那さんが亡くなってからは、町外れの一軒家に引きこもっているみたい」
『引きこもりでも町に買い物に出る時くらいありそうだガ、カリーナの場合は本当にひきこもっていル。じゃあ、買い物とかどうするのかって話ダガ……』
「カリーナさんの代わりに買い物に出かけてくれる存在がいる、と彼女についての報告書に書かれていたね」
と話している中、その存在は今まさに時計塔にやってきた。
時計塔の展望台へと上ってくる足音が聞こえてくる。
「………………………」
クラシックなメイド服に身を包んだ女性がやってきた。
長い茶色の髪。水晶のような青い瞳。とても整った顔立ちをしている。
「………………」
女性はユロ達には目もくれず、時計塔を見て回る。
時折、しゃがんだり、手すりを揺らしたりしている。
どうやら時計塔の点検を行っているようだった。
彼女が動く度に、彼女の体から僅かにミシリと軋む音がした。
数分後。
メイドの女性は何事もなかったように時計塔を降りていった。
「……緊張したね」
『ダナ』
ユロの言葉にドラはこくんと頷いた。
『――あれが、カリーナが所有している魔術人形カ』
カリーナについての報告書には、彼女が一体の魔術人形を所有していることが記されていた。
魔術人形。
魔術師の魔力を動力源に動く存在。
「報告書によると、あの人形がカリーナさんの代わりに買い物などの家事をやっているらしいね」
『他にも時計職人だったカリーナの旦那さんの代わりニ、時計塔の点検もやっているって話ダ。報告書通り、随分と高性能な人形のようだナ』
ユロは前に関わった事件を思い出す。
前の事件で関わった人形より、メイドの人形は遙かにできが良かった。造詣は同じくらいだが、動きが人形とは思えないほどに滑らかだった。
間接部が擦れる音がなければ、人間と見間違うだろうと思った。
「でも無表情で少し怖いかな。夜中に出会いたくないなー」
とユロは笑った。
この後。ユロは件の魔術人形と夜に出くわし、更には酷い目にもあうことになるのだが。
まだ知るよしもなかった。




