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魔術監察官ユロ  作者: 脱出
2章 幽霊と人形
11/39

11話 尾行

 

 魔術監察官ユロ。

 彼女の今回の仕事は連絡がつかない魔術師カリーナの捜索だった。

 

 まずユロはカリーナの住まいを調べることから始めた。

 報告書には『カリーナは町外れの森の中の一軒家に住んでいる』という、曖昧な情報しかなかったせいだ。


 ユロは町の住民に聞き込みを開始した。


「……カリーナの婆さんのことは俺もよく知らないんだよなぁ」


 夜。町にある酒場。

 ユロの隣に座る若い男は酒を煽りながら言う。

 男は以前、カリーナの旦那と交友があったという。


「爺さん……婆さんの旦那には俺もお世話になったんだよ。優秀な技術屋だったからな。でも婆さんとは殆ど会ったことがない。最後に会ったのは……爺さんの葬儀の時だった気がする。あんときはメイドも一緒だったな」

「メイドというのは、メイドの姿をした女性の魔術人形のことですか? あの人形はいつからいるのでしょうか?」


 とユロが質問すると、男は答える。


「あー。もうずっと前から婆さん達と一緒にいると思うぜ。俺は魔術のことよく分からんけど……本当に人間と見た目変わらないんだよな」

「町の皆さんはカリーナさんの人形のことをどう思っているんですか?」


 ユロは昼ごとに見た景色を思い出す。

 メイド人形は町の通りを普通に歩いていた。住民も人形のことを特に気にするそぶりも見せていなかった。


「ずっといるからな。不気味ではあるんだけど慣れちまったよ。子供とかはふざけてちょっかいかけたりするくらいだ。人形の方は話しかけられても無視するけどな」


 男は酒を美味しそうに飲み干した後、言う。


「で、ユロさん。あんた、婆さんの家の場所を知りたいんだっけ? 悪いけど俺も知らないんだよな。つーか誰も知らないと思うぜ」

「えぇ? そんなことあります?」

「あるんだって。婆さんの家は町外れの森の奥地にあるらしいんだが、誰もたどり着けないんだよな。婆さんの家に行こうとしても、道に迷って気がついたら森の入り口に戻っちまうんだ」

「ふむ。何か魔術による仕掛けがあるのかもしれませんね」


 ユロは両手を組みながら思案する。

 青年はユロをちらちらと眺めながら、話を続ける。


「あー。でも、俺は婆さんの家に行く方法を一つだけ知っているぜ」

「本当ですか?」


 ユロは身を乗り出して男に近づく。

 男は気を良くしたのか、ふふんと笑う。


「婆さんの家の場所を唯一知っているのは、あの人形だ。婆さんの家に住んでいるからな」

「なるほど」

「人形は毎日、昼時と深夜に町にやってくる。亡くなった爺さんの代わりに時計塔の点検をするためにな。夜、俺は人形をつけたことがあってだな……」


 男はそこでもったいぶるように、声を低くした。

 ユロは男の顔を覗き込む。


「そ・れ・で。どうなったんです? 早く続き聞きたいな~☆」


 ユロの足下で静かに黙っているトカゲのドラは『こいつはさらっとこういうことするんだよナ……』と彼女を眺めていた。


 ――そして深夜。

 メイドの人形は人気のない通りを歩いている。

 その姿をユロ達は尾行していた。

 酒場で男と別れた後、ユロ達は時計塔付近で張り込みをしていた。

 男の情報通りに人形は時計塔の点検に現れた。


 そして点検が終わり帰ろうとする人形の後を尾行している。

 ……人形が点検に来たときに、ユロは試しに話しかけてみたが、酒場の男が言っていた通り無視された。

 ならば尾行するしかない、とユロは考えたのだ。


 人形が町を外れて森の中へと入っていく。


「行こう。尾行開始だ」

『オウ』


 人形は森の中をどんどん歩く。

 人形の歩く速度は速く、なおかつ道は曲がりくねっていて、容易く見失いそうになる。これも男の情報通り。男が人形を尾行した時は、すぐ人形を見失ってしまったそうだ。


「ふふん。しかし私には通じない」


 干渉魔術。

 物体に干渉するユロの魔術。物体に干渉し強化する魔術。

 例外的にユロは自分自身の肉体にも干渉魔術を使うことができた。

自分の肉体を強化しているので、体は疲れないし、夜目もきく。


「本当はあの人形さんに干渉して、拘束したいけど。それじゃカリーナさんのお家が分からなくなるしね」

『あの人形がカリーナの家に着くまで尾行するしかないナ……オット。歩く速度が上がったゾ』


 ユロのコートのポケットに収まったドラが言う。

 ドラの言う通り、人形の歩く速度が速くなった。


「私の尾行に気づいたのかな? でも無駄ですっ」

 

 ユロも歩く速度を速める。

 そして何かを踏んだ。


 カチリと音がすると、ユロの足下の地面が消え去っていた。


「――うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

『オォォォォ!!』


 ユロとドラは仲良く落とし穴に落ちる。


 落とし穴は深く、ユロは思いっきり叩きつけられた。

 更に追い打ちとして、頭上から大きい石が降ってくる。

 

「ぐえぇ」


 ユロの頭上に石がクリーンヒットする。

 潰れたカエルみたいな声を出して、ユロはそのまま地面に仰向けに倒れ込んだ。

 

『……大丈夫カッ! ユロ!!』

「な、なんとかね……」


 ドラの無事を確かめた後、ユロは落とし穴から這い出る。

 落とし穴から出ると、人形は遙か先を歩いていた。

 

 ユロはすぐさま立ち上がり、体の泥を払い落とす。


「ふっふっふっふ」


 とユロは不気味に笑い始める。


『ユ、ユロ……?』

「――上等ッ! 私から逃げ切れると思わないことですね!!」


 ユロは叫んで走り出す。


 それからの尾行は熾烈を極めた。

 殺意すら覚えるトラップの数々。

 永遠にも思える道のり。

 ユロはトラップに引っかかりながらも、めげずに――いや、少しだけ涙目になりながらも――メイドを追いかけた。

 そして尾行は終わりを迎えた。

 

 開けた場所に出ると、小さなレンガ造りの家があった。

 窓からは明かりが漏れている。

 人形は家の中へと入っていた。


 ユロはよろよろになりながら、扉の前に立つ。

 体中が泥と草木で汚れていた。

 呼吸を整えた後。扉をノックする。


「――開いているよ」


 としゃがれた老婆の声が中から聞こえた。

 ユロは勢いよく扉を開けた。


「どうも! こんばんは! 夜分に失礼します!! 魔術捜査官のユロ・イリアスと申します!!」


 ユロは家の中を見回し、ゆっくりと中へと入る。

 扉を開けるとすぐにリビングに続いていた。


「カリーナさん! 今回はあなたの定期連絡が途絶えていたので、様子を見に来たのですが……一言! 一言よろしいでしょうか!? なんですかっ!? あのトラップの数々。普通の人なら死んでますよ!」

「……ふん。普通の人間なら、森の手前で迷って引き返す。あのトラップは森の奥地までやってこられる、普通じゃない人間用のものだよ」


 声の主はリビングにいた。

 灰色の髪をした老婆が、人形の側にいる。


 老婆の姿は微かに透けていて、なおかつフワフワと浮いていた。


「連絡が途絶えていたのは悪かったと思っているよ。なにしろ、あたしは死んじまったもんでね」


 とカリーナはひゃひゃひゃと笑う。


 魔術師カリーナは幽霊(ゴースト)になっていた。


本日の投稿はここまでです。

以降の話は毎日7:00に投稿します。

よろしくお願いします。

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