8話 決着
ユロは犯人――ウィッツ・アルベンに潜む別人格のイメイと対峙する。
彼女はウィッツへと変わる最中、彼の記憶が脳に流れ込んできたので真相を知った。
彼女はウィッツを捕まえた路地裏のことを思い返す。
彼は複写魔術をかけた少年の居場所を告げた。
(あのとき、既にイメイさんに交代していた筈……。あの子にかけられた複写魔術を私が代わりに請け負うことを狙ったのかもしれない。私を弱体化させるために)
しかし、例え弱体化していても問題はなかった。
イメイが操る魔術人形は倒れ、雇った傭兵も戦闘不能。
対してユロは傷一つついていない。
「――終わりにしましょう」
ユロはイメイを追い詰め、直ぐに行動に移る。
干渉魔術で強化した石をイメイに目がけて飛ばそうと狙いを絞った。
イメイは這いずり回りながら、ユロをにらみつけた。
「……聞こえているんだろうッ! ウィッツ!!」
イメイは叫ぶ。
ユロの中にいるウィッツの意識に呼びかけた。
「お前は殺せるのかッ!? 私を!!」
――彼にはもう抵抗する手段はなかった。
ゆえに賭けに出た。
ユロの中にあるウィッツの意識に呼びかけ彼の感情に訴えようとした。
「…………ッ!」
そしてイメイは賭けにかった。
相手の感情に訴えるという、策も何もない作戦は成功した。
ユロはその場に倒れそうになる。
宙に浮いていた石もパラパラと地面に落ちた。
「なに……これ。頭が……」
ユロは突如襲ってきた頭痛に耐えきれず頭を抑える。
自分の中にウィッツの意識が急に暴れ出したような感覚があった。
吐き気に頭痛。視界もおぼつかない。
イメイはその隙を逃がさない。
近くにいて、まだ動ける人形に指示を飛ばす。
人形は銃を持ち、銃弾をユロに目がけて放つ。
銃弾は急所を外したが、ユロの右足を貫いた。
「~~~ッ!!」
続いて銃声が鳴り響く。
右腕、左足。
ユロはその場に倒れこんだ。
イメイは立ち上がってユロを見下ろす。
「く……くくく。無様だな。ユロ・イリアス。私の勝ちだ」
イメイは大声で笑う。
「手こずらせてくれたな。だが、これで終わりだ……ん?」
彼は目を見開く。
目の前の光景が信じられなかった。
両足を撃たれた少女はゆっくりと立ち上がっていた。
いや、立ち上がるというのには妙な動きだった。
まるで上から糸で操られる人形みたいな動きだった。
「……まさか、お前……干渉魔術で自分を操っているのか?」
イメイの言う通り。
ユロは自分の体は干渉魔術で操ることができた。
自分の肉体を強化することもできるし、無理やり動かせることもできる。
「干渉魔術では人間を操れないはず……」
なぜ彼女だけ例外なのか?
理由は単純。
ユロが自分の肉体も人格も、最初からものだと認識しているからに過ぎない。
簡単に変えることができて、人として尊重されることはない、ものだと。
ユロは再び干渉魔術で、足下の石を浮かす。
そして石を真っ直ぐに飛ばす。
「……がっ」
石はイメイに直撃し、イメイはそのまま気絶した。
ユロは縄を取り出し、その縄を操ってイメイ達を拘束する。
………。
こうして決着がついた。
ユロは溜息をついて、その場に座り込む。
なんだか空しかった。
『お疲れ様ダ。ユロ』
ユロのポケットの中から一匹のトカゲが這い出てくる。
精霊のドラ。
彼はユロの手の上にちょこんと座る。
「ん。ありがと。治療お願い」
『了解ダ』
精霊ドラはユロと契約している。
ドラは契約者の傷を癒す能力を持っていた。
しかし治療中は契約者も身動きが取れなくなる。
静かにしていると徐々にユロの傷も癒えてくる。
ウィッツへの変化はまだ進行中のため、未だ気分は重かったが。
『軍に戻ったら、ウィッツにお前の複写魔術を解除してもらわないとナ』
「そうだね……」
『お前がお前じゃなくなったラ、俺は寂しいゾ』
とドラは言う。
彼の言葉にユロはきょとんとしたあと、少しだけ笑った。
「……ありがと」
ふと、明るい光が差し込んできてユロは目を細めた。
海岸線を見ると、空が明るくなっていた。
いつの間にか夜は明けていた。
次の話で1章は完結です。
よろしくお願いします。




