4話 干渉魔術
魔術師が使える魔術は1種類だけ。
ゆえに魔術師は自身の魔術を極めることに一生を捧げる。
だが同時に魔術師は他の可能性も研究していた。
魔術を使うためには体内の魔力を使用する。魔力というのは魔術師にしか存在しないエネルギーだった。
このエネルギーを他に有効活用できないか……その探求の過程で生まれたのが魔術人形だった。
魔力を動力源として遠くから操作できる人形。
人と同じような体躯で、人間離れした動きができる戦闘兵器。
――路地裏。その魔術人形達に魔術監察官ユロは囲まれていた。
ウィッツを狙う『犯人』が操る人形たちに。
ユロはウィッツを守るために、人形達の前に立つ。
数は5体。その内、ユロの前に立つ一体が突如として飛びかかる。小さな女の子の人形で、手には鋭利なナイフが握られていた。
ユロは自分の手を人形に向ける。
――ぐしゃりと鈍い音がした。
女の子の人形の足が見事に砕けていた。破損した足がちぎれて、女の子の人形は地面に落ちる。
ユロの背後からも他の人形が襲いかかってくる。
美しい顔をした男性の人形。軍服を身につけ銃を手にする軍人の人形……。
ユロはそれら全ての人形の攻撃をかいくぐりながら、手を人形達にかざす。その度に人形の足がひしゃげ、腕が破壊されていった。
あっという間に人形は残り一体になる。
最後の一体は、かなり大きい男の人形だった。
大男の人形はユロを掴もうと、その腕を伸す。
その腕はユロに到達する前に、ぎゅるんと捻られ、そのまま回転し、ねじ切られる。
ユロは大男の人形の頭部を見据える。
大男の人形の頭部がぱぁんという音と共に弾け飛んだ。
魔術人形、計5体は全て破壊された。
『――なるほど。それが干渉魔術か』
ユロの足下から声が聞こえた。
最初に破壊した女の子の人形からだった。
口が動いて、そこから音が漏れ出ている。
発声機能が搭載されている魔術人形だろう。
ユロは女の子の人形に視線を移す。
『魔術監察官ユロ・イリアス、干渉魔術の使い手。噂に聞いていたが、なかなかにすさまじいな。命を持たない物体に干渉することができる魔術か……』
「それはどうもです。よく知っていますね」
『物体に干渉し強化させるのが主な用途と聞いていたが……。先ほどの通り物体に干渉し、力を加えることで物体を破壊することもできるわけだ』
人形の言う通り、ユロが扱う魔術は干渉魔術といった。
対象は命を持たないものに限られるが、様々な干渉を行うことができる。
物質を自由自在に操り、宙に浮かせることもできる。
縄を強化させ、縄の縛る力を強めることもできる。
人形のような物体に直接力を加えて、簡単に破壊することもできた。
「そういうあなたはウィッツさんを狙っている犯人さんで間違いないですね?」
とユロは人形を操っている主に話しかける。
「人形をどこから操っているのかは知りませんけど、出てきてくれません?」
『断る』
「……そうですか。なら、なんでウィッツさんを狙うか理由を教えてもらえませんか?」
『なぜ貴様に教えないといけない』
ユロは溜息をつく。
「……あなたたちにどんな過去があったのかは知りませんけど、既に7人も犠牲者が出ています。あなたたちが争うのは勝手ですけど、他の人を巻き込まないでください」
『…………』
「あなたたちが争う原因を教えてくれれば、それを解決する手助けをしても良いですよ。取引です」
とユロは笑ってみせる。
少し間があって、人形が答える。
『ウィッツは私を裏切ったのだ。複写魔術の使い手は2人いる。私とウィッツだ』
「あなたたち2人とも?」
『……複写魔術の使用は慎重に行うと、お互いに約束していた。しかしウィッツは密かに自分の非常に個人的な目的のために使っていたのだ……!』
人形の声には怒りが感じられた。
「その個人的な目的というのは何です?」
『…………』
人形は沈黙してしまう。
どうやら答えるつもりはないらしい。
ユロは溜息をつく。
「どうやら取引は無理そうですね。諦めて私に捕まってください」
『はんっ。もともと、我々を見逃すつもりはないくせに、よく言う……』
人形の言葉にユロは「当たり前じゃないですか」と答える。
「見逃してあげる、なんて私は言ってませんからね」
『……生意気な小娘だ……お前は何も分かっていない』
女の子の人形は『よく聞け』とユロに言う。
『私たちは複写魔術をより強力な魔術にしようと研究してきたが――その研究には多くの出資者がいる。軍や政界の各有力者たちだ。もちろん貴様たち魔術監察官から隠れながら……。この意味が分かるか?』
「あなたたちの複写魔術を欲しがる人がたくさんいる、ってことでしょう。よからぬ使い方をしようとしている人がたくさん」
『そうだ。例えば優秀な軍人を1人育成するだけでも、莫大な費用と時間がいる。それを10人、100人と育成しないといけないわけだ……だが複製魔術を使えば、そんな手間は省略できる。優秀な軍人を1人だけでも育成できれば、あとはそいつの情報を元に、大量に複製すれば良い』
「……なるほど」
随分と不愉快な話が始まってしまった、とユロは思った。
『複写魔術は様々な使い方ができる。人格だけを複製して、別の人間にその人格だけを埋め込むことだってできる……。素晴らしいだろう?』
「いいえ。全然そう思いませんよ。聞いていて、すごく気分が悪くなりました」
ユロはきっぱりと答える。
「協力者がたくさんいる、お金を出してくれる人がたくさんいる……だから自分は正しい、なんて思わないことですね。はっきりとしているのは、あなた達のせいで人が死んだということです――あなたは絶対に捕まえますよ」
『……やってみろ、小娘』
その言葉を最後に女の子の人形は黙ってしまった。
ユロは人形から離れて、壁際に拘束していた赤毛の男、ウィッツの元へと向かう。
彼の足下では一匹の黒いトカゲ、精霊のドラが待機していた。
『オウ。お疲レ、ユロ』
「ん。ドラも見張りありがとね……さてと」
ユロは拘束しているウィッツに視線を向ける。
「ではウィッツさん。あなたを安全な場所まで連れてきますよ」
「……ふん。安心安全な場所か」
「ええ。王国軍の牢屋の中なので、安全性は最高です」
ウィッツは不思議なことに落ち着いた様子だった。
更には笑みさえ浮かべている。
「魔術監察官ユロ。あんたこそ、こんな場所にいていいのか?」
「……どういう意味です」
「あの犯人は、既に別の場所に行ったかもしれないぞ……。新しい俺を殺すために」
ウィッツはハハハと笑う。
「俺は既に複写魔術を使って、新しい俺を創っている……。急がないと8人目の被害者がでるぞ?」
ユロは目の前の男を殴り倒したい衝動にかられたが、我慢した。




