38話 監視
魔術統括局 監察課 課長室。
2人の人間が椅子に座り、机を挟んで向かいあっていた。
「しかし、今回は本当にユロさんのお陰で助かりましたよ」
1人は銀髪の男性。監察課の課長シェド。
うさんくさい笑みを浮かべながら紅茶をすする。
「……ええ。事件が解決したのはあの子のお陰です」
もう1人は金髪の女性。
監察官で、ユロの姉でもあるリズリア。
――ホード神父が逮捕されてから既に三か月が経過していた。
監察官ユロがホードの企みを見抜いた日。大規模な捜索が行われ、ユロはもう1人のホードが隠れていた教会を見つけ出し、突入。
ホードの確保と、囚われていたカリーナの保護に成功した。
それ以降の捜査は実に順調だった。
ホードの逮捕を契機に多くの真実が明らかになった。
彼の協力者達も存在が明るみになり、続々と囚われていった。
軍の研究所に囚われていた『輝く鳥』も無事に保護された。
ホードが使用していた複写魔術は解除され、カリーナの情報が複写されていた人間も元の自分に戻ることができた。
もう1人のホードも同じように元の人間に戻った。
そして現在。ホードは牢獄にいる。
正式な裁判は時間かかるだろうが、犯した罪の大きさから見ても、再び社会に現れることはないことは確実だった。
リズリアは溜息をつく。
「これでウィッツ(※1章参照)とホード、複写魔術の使い手が牢獄の中です。今のところ他に使い手は見つかっていませんし……これで複写魔術の使い手は全て魔術統括局の監視下に置かれたことになります」
「くくく。でしょうねぇ」
シェドは笑いながら頷いた。
そんな彼にリズリアは鋭い視線を送る。
「……最初から、それが狙いだった、なんて言わないですよね?」
シェドは笑うのをやめる。
リズリアはカップを机に置いた。
「いくら何でもホードは好き勝手に動きすぎた。軍と統括局に協力者がいたとしても、です。あえてホードを放っておいたんじゃないですか? 彼の罪が充分に重くなるまで」
複写魔術は危険な魔術だ。
人間の情報を保存し、同じ人間をいくらでも製造することができる。
危険性は高く、利用価値も同じくらいに高い。
そして今。複写魔術は魔術統括局の手の内にある。
いくらでも研究することができ、
利用できなければ永遠に社会から排除することもできる。
シェドはお手上げというように両手をあげる。
「ホードの罪が重くなるまで、彼を野放しにしていた……そういう目的を持っていた人間が私の協力者にいるのは否定しませんよ」
「あなたは違うと?」
「ええ。そう信じてもらうしかありませんけど」
シェドは再び、うさんくさい笑みを浮かべる。
「ホード達が罪を犯したことは事実です。彼らは相応の罰を受けなければなりませんが、同時に彼らが不当に扱われてはならない。彼らが人として正しく裁かれるために、私たちは監視しないといけませんね」
「……ですね」
リズリアも頷く。
この先。ホード達が不当に利用されないためにも。
組織と社会を見続けなければならない。
シェドは安心したように息を吐く。
「と、そういえばホードを逮捕した件について教会本部から正式に文書がきましたよ」
「私も拝見しました。彼の身柄を解放しろ、なんて書いていなくて良かったです」
「ホードは王国の人間ですからねぇ。無事に我が国の司法で裁けそうです……おや、嬉しくないのですか?」
リズリアが不快な表情を浮かべていたからか、シェドがそう尋ねてきた。
「失礼。教会の謝罪文が少しばかり……腹が立ったもので」
教会本部から届いた謝罪文。
要約すれば『ホードが行った犯罪は遺憾であり、教会としても反省している』というものだった。
反省という言葉で物事は簡単に過去になってしまう。
シェドは笑う。
「ま、ないよりは全然マシですよ」
「かもしれませんね」
2人は溜息をついて窓を見る。
空はすっきりと晴れていて、日の光が部屋にも差し込んでいる。
「リズリアさん。今日はもう上がりでしょう? 忙しかったんですから、ゆっくり休んでください。こんなに良い天気なんですから」
「……ええ。そうします」
確かに良い天気だった。
仕事のことばかり考えているのは勿体ないくらいの。
――シェドに別れを告げ、統括局を出ると、リズリアを待っている人影が二つあった。
1人は丸眼鏡をかけた優男。リズリアの夫のオグで、リズリアを見て片手をあげる。
もう1人はメイドの格好に身を包んだ女性――魔術人形のティーゼだった。
ティーゼは墓参りの帰りらしかった。
――研究所にいた幽霊のカリーナ。彼女の情報が複写された人間はまだ若い男性だったらしい。カリーナの情報が複写されたあと、そのカリーナは死に幽霊となった。
ティーゼは幽霊のカリーナが消えるまで、彼女の側を離れなかったという。
そして今日はその若い男性の墓参りに行っていたようだった。
ティーゼはリズリアに近づき頭を下げる。
「お仕事お疲れ様でした。リズリア様。お鞄をお持ちします」
とかしこまった態度を前にして、ついリズリアは鞄をティーゼに差し出す。
「ん。あんまりかしこまらなくて良いんだぞ」
「いえ。これからお世話になるのですから。メイドとしてお仕えします」
先日、ティーゼの処遇が決まった。
彼女の強い希望もあり、統括局の職員として働くことになった。
また彼女はイリアス家が預かることも決定した。
リズリアは2人を見て言う。
オグは2人を見て笑う。
「いやぁ、賑やかになるね」
リズリアもふっと笑う。
「そうだな……あの子もいれば良いんだが」
つい空を見上げてしまう。
気持ちの良い青空が広がっていた。
次話で完結です。
よろしくお願いします。




