最終話 先へ
よろしくお願いします。
ユロは駅のベンチに座って列車の到着を待っていた。
王都から離れた地方都市の駅で、人はまばらだった。
ベンチに座り彼女は空を見ている。
隣にはトカゲのドラもいて、彼女の手の甲にちょこんと座っていた。
ホード神父の事件から三か月後。
ユロは変わらず魔術監察官の仕事を続けている。
ホード神父と対峙したとき、ユロには一つの変化があった。
自分の体を干渉魔術で操ることができなくなったのだ。
自分のことをものだと認識できなくなっていた。
駅内に穏やかな風が吹いてきて、ユロは思わず目を細める。
(何がキッカケだったのだろうか?)
自分の中で大きな変化があったわけじゃない。
ホードや信者達の前で自分の考えを言うことができたのは、確かにキッカケの一つかもしれないが……。
「――ねぇ、ドラ。相談しても良いかな」
『良いゾー』
ドラはユロの手の上でのびをする。
「……私。干渉魔術で自分の体をいじれなくなったけど……」
『アア。良いことだナ』
「……そうかな?」
結論をドラに先に言われて、ユロは鼻白む。
「良いことばかりじゃないよ。単純に弱くなったんだよ」
『でもヨ、リズリア達は喜んでいたダロ』
「……そうだけどさ」
リズリアに相談したら、確かに姉は喜んでくれた。
「それに……なんで急に自分の体をいじれなくなったんだろう。キッカケなんて、なかった気がするのに」
自分の体をものだと認識できなくなっていた。
何がキッカケなのか分からない。
ドラは『アア』と嘆息する。
『俺の考えしか言えないガ……たまたま、あのタイミングだったってことだと思うゼ』
「ええ。何それ」
とユロはドラの頭を指で撫でる。
『マァ聞けヨ。お前はずっと苦しんできたシ、考えてきタ。その結果が出るのが、たまたまあのタイミングだったんじゃないかと思ウ。何か明確なキッカケや出来事がなくても、ふと瞬間に抱えていた苦しみが解決するってことはあるもんダ』
「……結局は時間が解決したってことじゃない?」
『有り体に言えば、ナ』
なんだか、よくわからないまま、いつの間にか自分は立ち直っていた。
結局のところ時間が必要だったという話かもしれない。
「……じゃあさ」
『ン』
「……また元通りになるときもあるかもしれない」
また元通りに、自分をモノとしか認識できなくなってしまうかもしれない。
乗り越えたと思っていたのに、ふとした瞬間に過去が襲ってくる。
いつか全部が台無しになってしまうかもしれない不安は常にある。
『かもしれねぇナ。絶対にないとは言い切れなイ』
「だよねぇ……」
と愚痴をこぼしてしまう。
でも、とユロは続けることができた。
「でもさ……うん。その時はその時、って思うんだ」
と今は思うことができた。
「今日は良くても明日はダメになるかもしれない……けど、それまでは大丈夫じゃないかなって……上手くいえないけど」
ずっと生きているのが辛かったのだ。
今すぐに解決する訳ではない。
いつか簡単に諦めてしまうかもしれない。
「生きていける間はちゃんと生きるよ」
それもずっと考えていたことだ。
結局のところ自分はそれほど変わっていないのだ。
ドラも満足そうに笑う。
『そうかイ。良いんじゃないカ。ま、大丈夫ダ』
ドラは隣にいる少女を見上げる。
いつもと変わらない彼女の姿がある。
『お前は大丈夫ダヨ。絶対に幸せにだってなれル。絶対ダ』
「ん。ありがと」
ユロは笑ってベンチから立ち上がる。
汽笛が鳴り列車が近づいてきた。
「それじゃ、行こうか」
……この先どうなるかなんて分からない。
明日には全てがダメになって、倒れてしまうかもしれない。
それでも。
歩けるところまで歩こう、と少女は思った。
ありがとうございました!




