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魔術監察官ユロ  作者: 脱出
4章 死の先へ到達する方法
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36話 救い


「――実は人間の情報は複写魔術を使う度に劣化してしまうんですよ」


 ホードは静かに語る。

 彼はユロから距離を取り、ユロの後ろにいるカリーナを見つめている。


「カリーナさんの情報は既に2回複製され、情報は劣化してきている。劣化が進行すれば、もう情報が使えなくなる」


 ユロはカリーナの前に立ち、周囲を伺う。

 集まった信徒達は呆然とユロ達を見つめていた。


 ホードはカリーナを指さして言う。


「そのカリーナさんは貴重なんですよ。渡す訳にはいきませんね――!」


 ホードが手を挙げると同時に、信者の集団から数人の人影が飛び出てきた。

 数は5人。

 ユロの肩に乗っているドラが叫ぶ。


『ユロッ。気をつけロッ。魔術人形ダッ』


 それらは人間ではなく、魔力によって動く人形だった。

 どこかぎこちない動きの5人の人形が壇上に上がる。


 ユロは背後のカリーナに目を向ける。

 カリーナは地面にうずくまり、どこか辛そうだった。

 

(私1人なら無理やりでも脱出できるけど……カリーナさんを安全に連れ出すには、まず障害を排除しなければならない)


 カリーナは再び人形達に視線を向ける。


(おそらく戦闘に特化した人形だろうけど、モノであるなら、私の干渉魔術の対象だ……)

 

 干渉魔術。ものに干渉し、自由自在に操ることができる。

 ものを強化することも、破壊することもできた。

 相手がただの人形ならばユロは負けない。


「――みなさんっ」


 ホードは声を張り上げて、集まった信者達を見た。

 彼はよく通る声で、両手を広げて語り始めた。


「このままで良いのですかッ!? このままでは私たちの救いが手元から離れてしまいますッ」


 ホードの言葉に信者達は顔を上げる。

 ユロはホードの演説を止めようとするが、直ぐに人形がユロに襲いかかる。


「私は私たちの救いを知っています! 彼女が幽霊になることを貴方たちは目撃し、そして世間に証言するのですよ! 『生きること以外の道がある』『死んだ後も先がある』と社会に証明することができる――社会の在り方をひっくり返せる絶好の機会なのです!」


 ユロはカリーナを庇いながら、ホードに攻撃しようと、足下の木材の破片を飛ばすが、人形に防がれてしまった。


「あなたたちを苦しめてきた社会が変わる! なのに、このままでは救いが遠ざかってしまう! 良いのですか? このまま苦しいままで!」


「――良くねぇ!」


 とホードの言葉につられるように、1人の男が壇上に上がってくる。

 

「よく分からないが、あの婆さんを捕まえれば良いんだろ?」


 と男は興奮した様子でまくし立てる。

 男に続くように、今度は若い女性も壇上に上がる。彼女は震えた手でユロを指さしてきた。


「邪魔をしているのは、あの子よ! おばあさんも自分が死ぬのは了承していたんでしょう! なのに、あの子が邪魔をしている!」


 男と女が一瞬、ホードの方に目配せするのをユロは見た。

 彼らも信者に向かって声を張り上げる。


「お前ら! 協力しろ! あんな苦労も知らない子供に俺たちの邪魔をさせてたまるか!!」


 チッ、とユロの肩に乗っているドラが舌打ちをした。


『……クソ、ホードの仕込みカッ』


 あの2人はホードが雇った人間かもしれない。

 とにかく、効果てきめんだった。


 彼らに続いて、多くの人が壇上に上がり始めた。

 その集団の中に人形は紛れてしまう。


「…………」


 ユロは悔しくなって唇をかむ。

 相手は人間、しかも民間人だ。

 むやみに傷つける訳にはいかない。


 信者達は一歩一歩と、ユロ達に近づいてくる。

 まだ彼らの顔には迷いがあり、ユロを襲うのを躊躇っているようにみえた。

 しかし、何か最後の一押しがあれば爆発してしまうだろう。


(……せめて、ホードさんだけでも拘束する……)


 ホードは信者達を壁にして、奥に引っ込んでしまった。

 干渉魔術で石や木を操って、ホードにぶつけることもできるが、その場合、確実に他の人も巻き込んでしまう。


(念のために、自分の体は強化しておかないと……)


 干渉魔術は人間を対象にできないが、一つの抜け穴がある。

 ユロは自分のことは干渉魔術の対象にできた。

 自分自身をものだと認識しているからこそできる裏技。


「……あれ?」

 

 しかし、できなかった。

 ユロは間抜けな声をあげてしまう。

 

 自分の体を干渉魔術で弄ることができなくなっていた。


「……はっ。何だよ、それ」


 ユロは馬鹿馬鹿しくなって笑いたくなった。

 涙がでるほど、馬鹿馬鹿しい気分になる。


(なんで、今になって……何が変わっていうんだ?)


 自分の答えを口に出した。

 やったことといえば、それだけだ。

 

 それだけで、自分をものだと認識できなくなっていた。


『――ユロ。お前は間違ってナイ』


 とユロの肩に乗っているドラは、そう言った。


『間違っているもんかヨ。今回だって乗り切れル』


 ドラの言葉にユロは頷く。


 ユロの視界は、信者の先頭に立つ男をとらえた。

 男は叫ぶ。


「――やっちまえ!!」


 それが合図になり、信者達は一斉にユロに襲いかかる。

 

 ユロはカリーナを庇うように、彼らの前に立ち塞がる。


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