32話 告解
『――もう3年も前になりますかね』
『その日は雪が降っていて、とても冷える夜でした。私は懺悔室にいました』
『もちろん神父として、訪れた人の告解を聞くためです』
『――ええ。来ていたのは、ユロさん。あなたです』
『あなたはまず自分の身の上を語りましたね。5歳の頃に両親が死に、魔術の師匠に引き取られた』
『魔術監察官アガト。正確には元・監察官でしょうか』
『彼はあなたが10歳の頃に、違法な魔術師に殺され命を落とした。そのあと、イリアス家の監察官が彼の屋敷を訪れたとき、餓死寸前のあなたを見つけた』
『アガト氏があなたに何をしてきたのかが白日の下にさらされ、彼は監察官の職も剥奪されることになった』
『――あなたは彼の許可なく食事を取ることすらできなかった』
『彼はあなたに自分の『干渉』魔術を継承させ、そして優秀な監察官になるべく教育を施した。ですが、とても教育なんて言えません』
『あなたが自ら語った通り、口に出すにもおぞましい暴力』
『あなたは幾度も傷つけられ、もののように扱われた』
『……一度休憩しましょうか? 顔色が悪いですよ?』
『…………』
『あなたはそれからイリアス家に引き取られ、優しい家族を手に入れた』
『特に姉は優しくしてくれましたね』
『彼らはあなたに愛を与えた』
『本来ならば昔から与えられていたはずの愛情を。当たり前の生活を』
『それが』
『あなたにとって、とても苦痛だった』
『与えられても、価値のあるモノだと感じることができなかった』
『いくら愛情を注いでそそいでもらっても自分の中をすり抜けてしまう』
『むしろ空しさが広がり、過去への怒りへと変わってしまう』
『そのことが申し訳ない、とあなたは懺悔をしました』
『大切にしてくれるのに、その価値が自分にないと思ってしまうことが、新しい家族に申し訳ないと』
『無理もありません』
『つけられた傷というものはずっと残るものです。子供なら尚更』
『同時にあなたはどうしようもない怒りも抱いていた』
『自分は不幸なのに、幸せな人間がいる世界に』
『自分にとって価値を感じることができない、愛情や幸福が尊ばれる世界に適応できない』
『ええ』
『そうですね。しかし、そう自分を卑下することもありません』
『あなたと同じような空しい怒りを覚えている人は沢山いますよ』
『どうやったって、自分は幸せになれない』
『自分は価値のある人間ではない』
『生きることを頑張ることに疲れた』
『そう願ってしまう人は、とても多い』
『果たして彼らは間違っているのでしょうか?』
『確かに今の世界では彼らの思いは間違っている』
『けど、私は彼らが間違っていると言いたくない』
『彼らが間違っていない世界を創りたい』
『創ることができなくても、せめて……何か一つ……』
『彼らの希望となるものを示したい』
『もし死んだ後も存在できる方法があるのなら』
『たとえ、どれだけ不確かな方法でも』
『生きること以外の道がある、と彼らに言ってあげられるのなら…』
『私はただ示したいだけなのです。無理に生きていかなくても良いのだと』
『…………』
『ユロさん』
『私にはもう時間がありません』
『あなたに私の研究を引き継いで欲しい』
『あなたなら分かるはずだと、私は思います』
『…………』
『…………』
『ええ。なるほど』
『あなたの答えは分かりました』
『ただ気が変われば、いつでも来て下さい』
『私はずっとここにいますから』
『――では、また会いましょう』




