30話 真相Ⅲ
王国軍の研究所内部。
狭くて暗い廊下を歩く人影が3人分。
1人は白髪の少女、魔術監察官のユロ。
もう1人は魔術人形のティーゼ。
そしてもう1人。先頭を歩く男。
「ユロさん。本当によく来てくれました」
落ち着きのある声で、男はユロ達に笑いかける。
彼の名前はホード。カルデュラ教の神父。
短く切りそろえた薄茶色の髪。彫りの深い顔。
背が高く体つきもかっちりしている。軍人と言っても驚かないだろう。
潜伏中だからか、神父服ではなく白いシャツにズボンというラフな格好だった。
ホードは歩きながら話を進める。
「私はただいま、軍の友人に身を寄せているのですよ。新聞はご覧になりましたか? 私の自説が新聞に載った影響で、色々と周りが騒がしくなってしまいましたらかね」
ユロはホードを見上げて言う。
「軍のご友人、ですか。出資者か雇い主と言うべきじゃないですか?」
「ははは。これは手厳しい。ですが、まぁ、そうですね」
ホードは穏やかに微笑む。
「私のような子悪党が生き残る術は権力を味方につけることです。軍の上層部は私の『複写』魔術の研究に興味を持っています。私と同じ力を持つウィッツ君が複写魔術の力を示してからは待遇もよくなりましてね。今では軍の研究所を借りることもできています」
「……ご存じかと思いますが、魔術統括局の許可のない魔術の研究は禁止されていますよ」
「もちろん、知っていますよ。あなた方、魔術統括局も私のことをよく知っているはずです」
ユロは思わず悪態をつきたくなった。
今ごろ、魔術統括局がホードの魔術研究を許可したという書類も見つかっていることだろう。
そしてウィッツの事件の真相は、複写魔術のデモンストレーションだったらしい。
「随分と好き放題しているみたいですけど。自分が自由だと過信しすぎないことですね」
統括局の監察課はホードの存在を知ることになった。
シェド課長達は既に彼を捕まえるために動いている。
統括局の上層部も一枚岩ではない。ユロ達の味方になる者の方が多いのだ。
ホードの存在を補足した以上、いずれ彼を捕まえる為の条件は揃えられる。
「ええ。その通りです。私はいずれ捕まるでしょうね」
しかし、ホードの笑みはまだ消えない。
「私の不正はいずれ暴かれ、王国の法に則り私は逮捕されるのでしょう。私は権力を利用できても、権力者ではないのですから。私に残された時間は少ない」
「あなたは……」
「だからね。ユロさん。残された時間を使って、私はあなたと話をしてみたかったのです」
そこでホードは立ち止まる。
目の前にはさび付いた扉がある。
「私の『複写』魔術は、人間の情報を複製することができる。複製したい人間をA、別の人間をBとしましょうか」
「あなたの魔術を使えば、BをAに変えることができる」
「正解です。その結果がこちらになります」
彼が扉を開ける。
開けた先は小さな部屋だった。
その部屋には1人の老婆が、宙に浮いていた。
「――奥様ッ!!!!」
ユロより先に、後ろにいたティーゼが駆け寄る。
「……おや。ティーゼじゃないか……」
カリーナは駆け寄ってくるメイドを見て顔をほころばせる。
ティーゼはカリーナの元へ駆け寄り、抱きしめようとするが、その両手はカリーナの体を通り抜けた。
カリーナの体は透き通っていて、手に触れることはできない。
彼女は幽霊になっていた。
「カリーナさん……」
ユロはカリーナから目を離せずにいた。
カリーナはというと、ユロに視線を向けて、首をかしげる。
「ええっと。それで、お嬢さん。あんたは誰だい?」
「……ッ」
とぼけている様子はない。
カリーナはユロを初めて見たような反応だった。
「……カリーナさんの情報をいただいたのは、あなたが彼女と出会う前ですからね。今の彼女にユロさんの記憶はありませんよ」
と後ろからホードが声をかける。
ユロは振り返り、目の前の男をにらみつけた。
「あなたは……自分が何をしているのか分かっているのですか……」
ユロは自分の声が震えているのが分かった。
ホードは申し訳なさそうに目を伏せる。
「誤解はしてほしくはないのですが、私の複写魔術は使用に相手からの同意を得る必要があります。情報を取り出すためにカリーナさんから同意は得ましたし……Bさんからも同意を得ていますよ」
「ッ。同意を得たから良いって話ではないでしょう!?」
「ええ。全く同感ですとも。私は死んでも、神の元へとは行けないでしょうね」
ホードは奥のカリーナとティーゼに目を向けて、言う。
「場所を変えましょうか。話をしましょう」




