28話 はじまり
3章完結です。
よろしくお願いします。
魔術統括局 監察課 課長室。
ユロは椅子に座り、目の前の銀髪の男と向き合う。
監察課の課長シェド。彼は椅子に足を組んで座っている。
「研究所での検査の結果、輝く鳥バルルは正式に精霊であると認められました。これで彼の身柄は我々が預かることになります。王国軍も簡単に手を出せない。ユロ君、よくやってくれましたね」
「いえ。バルルさんが無事で良かったです」
ユロは目の前の男をじっと見つめる。
彼も課長に昇任する前は、ユロの姉のリズリアとコンビを組んでいたという話だ。
リズリア自身は彼のことを嫌っているが、信頼はしているようだった。
「課長。襲撃者達は何か口を割りましたか?」
と質問を投げかけると、彼は首を振る。
「芳しくありません。今は彼らの背後にいる組織を洗っているところです。まぁ、軍か、政治家か――どんな人間が出ても驚きませんよ」
「……なんで、こんなことになるんでしょう」
軍も本来は国民を守るための組織の筈だ。
ユロも仕事柄、軍人と関わる機会も多い。軍人とひとまとめにするのではなく、1人1人の顔を思い浮かべることができる。
多くは、職務に忠実で、誰かを守りたいという使命を持った人達だ。
しかし現状はどうだ。
シェドはポリポリと頭をかく。
「今の王国では様々な派閥の思惑が複雑に絡み合っています。王国軍も、魔術統括局もそれらのしがらみに囚われています。王国軍の一部は権力者達のテーブルゲームの駒として利用されもする」
「今回の事件も、輝く鳥の力を手に入れようとする誰かの……権力を持つ人の企みにすぎないのでしょうか……」
ユロは暗い気持ちになる。
そんなユロを見てシェドは笑う。
「落ち込んでいる場合ではないですよ、ユロ君。まだまだ気が重くなるようなニュースは続くのですから」
「……まだあるんです?」
シェドはくっくっくとと笑う。
「輝く鳥バルルの弟。リズリア君が調べたお陰で、彼の居場所も分かりそうです。どうやら輝く鳥の弟は王国軍の研究所に囚われているようなのですよ」
「また、王国軍……」
「更にはその研究所には魔術統括局の職員も出入りしている、という話です。私より上の役職の人間が」
ユロは溜息をつく。
王国軍には魔術の知識はない。
輝く鳥の力を研究するにも、魔術に詳しい人間が必要だ。
「嫌になりましたか? ユロ君」
とシェドはにやにや笑う。
ユロは思わずシェドをにらみつけた。
「嫌になりましたけど、逃げるつもりはありませんよ」
自分が所属する組織の腐敗を見て、嫌にならない訳がない。
ただ自分は魔術監察官として、統括局に所属しているのだ。
「私は魔術監察官です。不正を正せる立場にあります。なら、やるしかない」
とユロは言い切る。
シェドも頷いた。
「よろしい。君ならそう言ってくれると思っていましたよ」
しかし、そこで彼は申し訳なさそうな顔をする。
「まぁ。でも、ユロ君ができることはもうあんまりないですけどね」
ユロは椅子から転げ落ちそうになった。
「な、なぜ……」
「なぜって……。もう研究所の場所も分かって、統括局の裏切り者も目星がついています。あとは彼らを一網打尽にする手筈を整えるだけですもの。時間はかかりますが、まぁ、大丈夫でしょう」
と彼は事もなげに言う。
ユロは一気に梯子を外されて、なんだか寂しい気持ちになった。
この気持ちをどうすれば良いのか?
シェドはにこりと笑う。
彼は笑ってばかりだが、今回の笑みは穏やかで相手を気遣うものだった。
「輝く鳥バルルの弟は必ず助け出します。ユロ君。その時、君には手伝ってもらいますが、全部自分1人でやろうと背負い込まなくて良いのですよ」
「課長……」
シェドの言葉を聞いて、ユロは思い直す
魔術監察官は自分1人ではないのだ。
自分にはできないことが沢山あって、それは他の人ならできることかもしれない。
ユロも頷く。
「分かりました。王国軍関連は課長達にお任せします。でもバルルさんの弟さんを助けるのは私も手伝いますから」
シェドも満足そうに頷く。
「よろしい。では仕事の話を――」
――そのときだった。
バタンっ!というドアを乱暴に開く音がして、シェドの言葉は遮られた。
ユロは立ち上がりドアの方向を見る。
そこには場違いなメイドの姿をした女性がいた。
長い茶色の髪。白い陶器のような肌。
「――ティーゼさん?」
動く魔術人形ティーゼ。
以前の事件で知り合い、今は魔術統括局に身を寄せていた。
彼女は目を見開き、固まっている。
表情は相変わらず無表情だが、様子がおかしいのは流石に分かる。
ユロは彼女に近づいて手を握る。
手はとても冷たかった。
「どうしました? 何があったんです」
ティーゼはゆっくりとユロを見る。
その目は震えていた
「――見たのです。私は、あの人を見ました――けど、彼女はもう死んで、消えた筈で――」
「彼女?」
ティーゼはユロの手を強く握り返す。
「奥様が、カリーナ様が街を歩いていました。彼女が生きて、歩いている姿を私は見たのです――」
誰かが息をのむ音が聞こえた。
自分が発した音だと、ユロは後から気づいた。
全く同じ存在をつくる複写魔術。
死後も存在し続けられる幽霊。
感情を操ることができる精霊。
ピースがようやくそろった。
次回から4章(最終章)です。
よろしくお願いします。




