23話 次なる事件
人の感情に働きかけ、感情を増幅させる能力を持つ精霊『輝く鳥』。
銀色に輝く鳥の姿をした精霊。
彼は工場の工場長の手によって囚われていた。
疲労で倒れそうな従業員の感情を鼓舞して働かせるために、工場長は輝く鳥を利用していたのだった。
魔術統括局と王国軍による工場への強制捜査が行われ、工場長は逮捕され、輝く鳥は無事保護された。
その後。
魔術統括局 監察課 会議室にて。
一匹の銀色の鳥が元気に室内に飛び回っていた。
『いや~。おかげであたしも自由の身です~』
と銀色の鳥は元気に叫ぶ。
その鳥を見上げる白髪の少女、魔術監察官のユロは言う。
「それは良かったです。バルルさん」
と銀色の鳥、輝く鳥バルルに向かってウィンクした。
ユロの肩にはトカゲの精霊ドラが乗っかり、どこか緊張した顔でバルルを眺めている。彼曰く『鳥は本能で警戒しちまうんダ』とのことだった。
ユロの隣では金髪の女性、姉のリズリアが腕を組み、飛び回る鳥を見上げていた。彼女は今回の件で、ユロに代わり魔術統括局上層部への根回しと、王国軍との交渉を行った。
ユロは姉と一緒に、元気に飛び回る鳥バルルを見上げる。
彼は先ほどまで魔術統括局の管理課での検査から解放されたところだった。よほど自由になれたのが嬉しいのだろう、元気に歌いながら飛び回っている。
(本当に無事に保護できて良かった……)
とユロは思った。
工場への捜査に協力してくれた、工場長の娘であるミェラのことも想った。
もっと別の方法があったんじゃないかと後悔もある。
けれど、まずバルルを救い出すことが出来たのだとユロは思う。
彼は飛び回るのを止めて、机の上に座り、改めてユロ達を見る。
『ユロさん。改めてお礼と自己紹介させてください。あたしの名前はバルル。これでも昔から生きている精霊でしてね。輝く鳥だとか、色々と呼ばれてきました。あたしはずっと自由に生きてきたんですが、ヘマして工場長に捕まっちまいましてね……。本当にありがとうございました』
「いえいえ。無事に助けられて良かったです」
とユロは首を振る。
『あたしはあの工場でずーっと従業員の皆さんのために歌わされていました。あたしの歌には対象者に特定の感情を抱かせ、なおかつ増幅させる力があります。例え嬉しくなくても、あたしの歌を聴けば強制的に嬉しいという感情を抱くんですわ』
「確かに、従業員の人達はあなたの歌を聞いて、元気になって無理にでも働いていました」
ユロは工場に潜入したときの光景を思い出す。
従業員達はバルルの歌を聴くと『働けて幸せです!』と叫んで、嬉々として働いていた。
「でも心が元気になったとしても体の疲労が消えるわけじゃない。今、従業員達は病院で検査を受けていますが、殆どの人が健康に問題を抱えていたそうです」
『ええ。ええ……過労で死んでしまった人も出てしまいやした』
バルルは思い詰めたように、きゅうと鳴く。
「バルルさん。気になさらないでください。あなたは脅されていただけ。責任はありませんよ」
とユロは彼を安心させるために頷く。
バルルは黒い目をうるうるとさせた。
『ありがとうございますぅ、ユロさん……!』
「どういたしまして」
そこで後ろで話を聞いていたリズリアが口を挟んでくる。
「バルルさん。私はユロと同じ魔術監察官のリズリアだ。私からも1つ良いか?」
『ええ。良いですぜ』
「私は現在、あなたが工場長に捕まった経緯を調べている。あなたは管理課に『ハンターに捕まって競売にかけられた』と言っていたな」
ハンター。
その言葉を聞いて精霊達は体を震わす。
精霊のような珍しい生き物を狩り、金を稼ぐことを生業にする者達のことだ。
王国では精霊の狩猟は禁止されている。危険な精霊を討伐する場合もあるが、その討伐は監察局が認可した者達――監察官にしか許可されていない。
バルルは頷く。
『ええ。あたし達はもともと人里離れた森でひっそりと暮らしていたんですわ。でもハンターに捕まって、あれよあれよと競売にかけられ、工場長に競り落とされた訳です』
「あたし達か……。その競売については既に調べがついている。競売でかけられた輝く鳥は2体いた、という情報も入っているんだ」
『その通りです、リズリアさん。競売にかけられたのは私と、私の弟です』
バルルはそう語る。
『弟はあたしと同じ能力を持っていました……ただ別の人間に買われたみたいで……行方は分かりません』
バルルは先ほどの元気がなくなってしまったようだった。
リズリアも申し訳なさそうに言う。
「すまない。あなたの弟さんの行方は追っている最中だ」
精霊の競売は王国では勿論禁止されている。
しかし魔術統括局の目をかいくぐり、魔術に関わる商品の取引はたびたび行われていた。特殊な力を持つ精霊、違法に製造された魔術人形などなど。
魔術統括局も完璧ではなく、手が届かない範囲も多い。
それでも。とリズリアは続ける。
「あなたの弟は必ず見つけてみせる」
バルル達が売られた競売の存在は既に突き止めている。
存在を捕捉さえすれば、探し出すのも用意だった。
ユロも頷く。
「ええ。約束します」
どうやらまだ事件は終わっていないようだった。




