21話 輝く鳥
王国内の魔術を管轄する組織【魔術統括局】。
魔術統括局には主に3つの課に分けられる。
1つ目は監察課。魔術が正しく使用されているかを調査・監督する魔術監察官が所属する。
2つ目は研究課。国の管理下にて魔術の研究を行う
3つ目が管理課。王国における魔術の情報の管理と、魔術使用の手続きを担当する。
魔術監察官のユロ。
同じく監察官であり、ユロの姉のリズリア。
2人は監察課の課長に呼び出されていた。
――魔術統括局。監察課 課長室にて。
広い室内。窓を背にした大きめのデスク。ユロ達は椅子に座り、向かいの席に座る男を見つめていた。
男の名前はシェド。
銀色の髪をした、ハンサムな男性。細目。
年齢は40手前のはずだが、若々しく、活力に満ちている。
ただいつも薄笑いを浮かべていて、どうにもうさんくさい印象を拭えない、というのがユロの感想だった。
彼は魔術統括局 監察課の課長であり、ユロの上司でもある男だった。
「よく来てくれましたねぇ。ユロ君。リズリア君。監察課のエース二人が協力してくれるなんて、私はとても嬉しいですよ」
とシェドはにやにや笑う。
そんな彼に対してリズリアは表情を変えずに言う。
「社交辞令は結構です。で、本題は?」
気分を害する様子もなく、シェドは飄々と話を続ける。
「ええ。では仕事についてお話しましょうか。つい数日前に王都内で『輝く鳥』の目撃情報がありましてね」
「輝く鳥?」
「文字通り、ピッカピッカに光っている鳥です。私の髪色みたいに銀色で、尚且つ発光しているようです。ま、普通の鳥ではありませんね」
ユロ達はお互い顔を見合わせる。
二人とも『輝く鳥』について心当たりはなかった。
シェドは話を続ける。
「管理下の記録をひっくり返して調べてみたんですが、はるか昔の図鑑に残っていました。精霊、輝く鳥の記録が」
「精霊、ですか」
精霊。
魔力を持ち、特殊な能力を持つ生物の総称。
姿形は様々で、犬や猫の姿をした精霊もいれば、ドラゴンやユニコーンといった精霊もいる。
ユロの相棒のトカゲのドラも精霊の一種だった。
ちなみに彼は留守番中。
「かの精霊の呼び名は色々あったのですが……面倒なので、ここでは『輝く鳥』で通しましょうか。輝く鳥は人の感情を動かす力を持っていたといいます。鳥が明るい歌を歌えば、聞いた人間は明るい気分になる。逆に悲しい歌を歌えば、聞いた人間は暗い気分になった、と伝承が残っていました」
精霊は特殊な力を持つので、各地に伝承が残っているケースも多い。
そういった伝承を管理課が調べ、現地調査を監察課が行うこともあった。
リズリアは腕を組んで、シェドを見る。
「その輝く鳥が王都で見つかったと」
「先日のことです。市民からの目撃情報が幾つもありました。残念ながら発見には至りませんでしたが、この輝く鳥が王都の何処かにいる可能性が高い。そこで君たちにお願いしたいのです――王都のどこかにいる『輝く鳥』の発見、状況によっては保護をお願いします」
それが今回の仕事のようだった。
危険な力を持つ精霊が野放しになっている場合、周囲に危険を及ぼす。
また精霊自身も、よからぬ輩に狙われる危険もある。
そういった精霊の保護も監察官の仕事だ。
ユロはシェドに尋ねる。
「ちなみに、輝く鳥の居場所の目星は付いているのでしょうか?」
シェドはにこりと笑って、首を振った。
「いいえ、全く。なので、お願いしますね」
リズリアは露骨に顔をしかめた。
――そして1週間後。
魔術統括局 監察課 会議室の一室。
机には王都の地図が広げられ、それをユロとリズベルは眺めている。
2日の間に彼女たちは輝く鳥の捜索を行っていた。
地図にはペンで大きな赤い丸が何カ所か書かれている。
ユロは赤い丸が書かれた場所を指さす。
「この箇所が『輝く鳥』の目撃情報があった場所だよ」
赤い丸は地図の上部分――西側に固まっていた。
「目撃情報は王都の西側、工業地帯に固まっている。他の場所にも聞き込みしたけど、目撃情報はなかった」
リズリアは頷く。
「私の聞き込み結果も同じだ。また輝く鳥の目撃情報は最初の一週間だけ。それ以降は誰も見ていないようだな。なら、輝く鳥はどこにいると思う?」
ユロはうーんと考え、答える。
「輝く鳥は室内にいて、外に出ていない? 名前の通り輝いているから、外にいれば目立つよ。でも最初の目撃情報があった日から誰も見ていない」
ユロの答えにリズリアは頷いて、地図の赤い丸を指さす。
「だろうな。輝く鳥は工業地帯のどこかにいて、外には出ていない。なら何故、外に出ていないのか? 考えられる可能性としては、誰かに捕らえられている、という可能性だ」
ユロも頷く。
「輝く鳥が一週間前にいきなり王都で目撃されたのも変だよね。なら、今までどこにいたのか? ていう話になるもの。王都に野生で生息していたのなら、もっと早くから見つかっている筈だよね。」
「ああ。だが今まで目撃情報はなかった。つまり、輝く鳥は以前から誰かに囚われていて、一週間前に逃げ出して、そして再び捕まった……こんなところか」
2人とも同じ推理に至った。
「では、ユロ。次に考えるべきは鳥がどこに囚われているか? についてだが……我々の推測が正しければ、囚われている場所も推測できるな」
「うん。輝く鳥は以前から何者かに囚われていたとすると……、その何者かは輝く鳥を利用していたことになる」
「では何に利用していたか、についてだが……」
リズリアは地図をコツコツと叩く。
叩いた場所には一つの大きな工場があった。
自動車の部品などを造る工場らしい。
「この工場は以前から従業員の過剰労働が問題になっている。従業員に休みを与えず長時間働かせている、と。しかし、不思議なことに従業員から不満が一つも上がったことがない。従業員に聞いてみても、『この工場で働けて嬉しいです!!』と答えるだけだそうだ」
リズリアは既に工場についても調べは終えていたらしい。
彼女の手には、その工場に関する資料がまとめられていた。
「『輝く鳥』の能力については未知数だが……例えば従業員の心を動かして、工場に対する不満を消す、なんてこともできるかもしれない」
「働く喜びを増加させるとか? 確かに可能性はありそうだね。でも」
「まだ証拠は何もない。工場に強制捜査をかけることもできるが、そのためには上層部を納得させるだけの根拠がいるな」
「輝く鳥が確実に工場に囚われている、という証拠か……うーん」
最初の目撃があった日を除き、それ以降は誰も輝く鳥を見ていない。
工場の職員に接触しようにも、彼らは口が固い。あまり大げさに騒ぐと、工場側に警戒されてしまうだろう。
そこでユロは一つの案を思いつく。
「……もし『輝く鳥』が逃げ出したとして……誰かが逃がしたとは考えられないかな? 工場に捕らえられているなら、檻とかに入れられているだろうし、自分の力だけで逃げられるとは考えにくいよ」
リズリアはユロの考えを聞いて頷く。
「資料に寄れば輝く鳥は特殊能力を持つ以外は、殆ど普通の鳥と変わらないらしい。逃げるのならば、工場内部での協力者が必要になってくるな」
「私はその人を探してみるよ」
「ああ。悪くない線だ。私は工場の職員の家族や組合関係に当たってみよう。工場の経営状況に問題があると判断されれば、軍を巻き込んで工場への捜査が可能になる」
こうして方針は固まった。
――2日後。
ユロはその『協力者』の手引きで工場の実態を知ることとなる。




