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魔術監察官ユロ  作者: 脱出
3章 魔術師 対 王国軍
20/39

20話 近況報告

 1年前。

 ユロが16歳の頃。

 魔術監察官の試験を合格した日の夜。

 イリアス家の広間(リビング)にて。

 

 彼女の姉、リズリアはユロが魔術監察官になるのを最後まで反対していた。

 彼女の夫であるオグも反対していたが、彼女が試験を優秀な成績でパスしたので何も言わなくなった。

 しかしリズリアは最後までユロが監察官になるのを認めなかった。

 理由は簡単で。


「――危険な仕事だ。お前がそんな仕事をする必要はない」


 とシンプルな理由だった。

 ユロはすぐに自分の意見を言う。


「分かっているよ。危険な魔術師や、未知の魔術と対峙する可能性が常にある仕事だもの。危険はちゃんと分かっている。けど試験は合格できたよ」


 リズリアは首を振る。


「分かっていない。危険はそれだけではないんだ。魔術監察官は魔術統括局に属することになる。統括局も結局は国の管理下の組織に過ぎない。国の管理下のもと権力を振るい、誰かを裁く立場になる――その意味をお前は分かっていない」


 リズリアの有無を言わせない迫力に、ユロは一瞬だけ言葉につまる。

 目の前にいるのはリズリア・イリアスだ。

 6年間、自分を不器用ながらも優しく育ててくれた姉ではない。

 魔術監察官として多くの事件を解決してきた、凄腕の魔術師。

 知識も経験も、自分とは比べにもならないことは分かっていた。


 それでも彼女は目の前の姉に反論した。


「……確かに姉さんからみれば、私は何も分かっていない子供なのかもしれない。けど、それで諦めたら、私はずっと子供のままだよ。私は自分にできることをしたいの」

「なら、わざわざ魔術監察官にならなくても良いだろう。他にも道があるはずだ。『あの男』と同じ道を選ぶ必要がどこにある?」


 あの男。

 ユロがイリアス家の養子になるまで、彼女を育て上げた魔術の師匠のことだ。

 彼もまた魔術監察官だった。

 そしてユロを虐待同然の扱いをしていた人間でもある。


 彼の話題はイリアス家の禁忌だったが、リズリアはつい、彼について言及してしまった。

 

「あの人のことは関係ないよ。あの人のせいで私は自分の人生を狭めなきゃいけないの?  そんなのはイヤだ」


 ユロはきっぱりと答える。

 リズリアは吐き捨てるように言う。


「そうか……なら。勝手にしろ」


 ユロも短く答えた。


「うん。勝手にするよ」


 ユロは広間を出て行く。

 それから約1年。

 ユロとリズベルは殆ど会話をすることはなかった。

 たまに電話で会話をする程度で、顔を会わせることはなかったのだった。



 ――そして()()

 イリアス家の広間にて。

 食事を終え、ユロとリズリアは机を挟んで向かい合っていた。

 リズベルの横にはオグが、ユロの隣にはドラがそれぞれ心配そうな顔で自分のパートナーを見つめている。


 まずユロが口火をきった。


「……姉さん。家に帰るのが遅くなってごめんなさい」


 と頭をさげた。


「電話するときも、すぐに会話を切っていたし……。結局、家に帰るのに1年も経ってしまった。ごめん」


 リズリアは腕を組み、ユロを見つめる。


「……別に良い。お前は自立して働いているんだ。好きに生きて良い。私も……」


 リズリアは暫く考えたあと、頭を下げた。


「ずっと意固地になっていた。お前を見ようとしなかった。すまない」

「姉さん……」


 横にいるオグ達は表情を和らげた。

 リズリアは話を続ける。


「報告書でお前の仕事振りは知っている。1年間、お前は充分に成果を示しているな。お前の能力を正しく理解できていなかったのは私の方だった。それについても謝罪をさせてほしい」

「ありがとう。でも姉さんの言う通りでもあったよ、私なんてまだまだだもの」


 リズリアはそこで「しかし」と言ったので、隣のオグは体を強ばらせた。


「無茶をしすぎた、お前は。事件の度に重傷を負って。ドラがいなければ、どうなっていたか……!」


 とリズリアはユロをにらみつける。

 は思わず、隣のドラに助けを求めて視線を送るが。


『全くダ。もっと言ってやってくレ』

「ドラァ……」


 ドラはリズリアに加勢してしまった。


『俺はユロの傷を癒やせるガ、万能じゃなイ。第一、死んでしまえば俺は何もできないんダ。なのにユロは毎回無茶をすル』

「で、でも……」

『それニ。自分の体を干渉魔術で弄るのも止めなイ』


 干渉魔術。

 ユロが扱う魔術で、物体に干渉して、操作・強化することができる魔術。

 ユロは干渉魔術を自分の肉体に使うことができた。

 彼女が彼女自身をものだと認識しているためだ。


 リズリアはユロをにらみつける。


「ユロ。自分に干渉するのは控えろと言ったはずだ」

「……ごめん。緊急時以外は避けるよ」

『お前の場合はいつも緊急時ばかりなんだよナァ』


 とドラは溜息をついた。

 リズベルも溜息をついたあと、話を続ける。


「ユロ。明日から仕事だが……私と一緒に行動することになる」

「えっ、姉さんと!?」

「お前は確かに優秀だが、私はまだお前を一人前と認めていない。それを見極めさせてもらうぞ」


 姉と一緒に仕事をするのは初めてだった。

 ユロは胸の高まるのを感じていた。


「う、うん。よろしくお願いします」

「ああ。こちらこそ、よろしく」


 リズリアは僅かに顔をほころばせる。


「明日は朝から統括局に行く。今日はもう寝なさい」


 と優しく言う。

 ユロも素直に頷いた。

 

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