2話 推理
王国では許可のない魔術の使用は禁止されている。
魔術師には魔術を正しく運用する義務があり、それを監視するために魔術監察官という職業がうまれた。当初は魔術師の監督が主な仕事だったが、次第に魔術に関わる事件の捜査も行うようになっていった。
長身で白い髪をした少女、魔術監察官のユロ。
彼女は会議室の椅子に座り、7枚の写真を見比べている。
「この街で行った連続殺人事件。そして、この写真に写っているのが計7名の被害者たちなんですよね」
ユロの正面に座る王国軍の少尉は頷く。
軍人らしい鍛え抜かれた体をした男性で今回の事件の捜査責任者でもあった。
「ああ。そして見ての通り、全員が同じ人間なわけだ。被害者の名前はウィッツ・アルベン。若くして成功した実業家だそうだ」
ユロは目を細めて写真を見つめる。
眼鏡をした赤毛の男性が無残にも首を切られて死んでいた。
そして全く同じ顔をした写真が全部で7枚ある。
「彼には兄弟がいないし、検死の結果から全員がウィッツだとみて間違いないらしい……、全く馬鹿げた状況だ」
と少尉は苛立ちを隠そうとせず舌打ちをする。
「……で、今回の事件は魔術に関わる事件だと上層部は判断し、君が呼ばれたんだ。ユロ君。……早速だが何か分かったかね?」
少尉は高圧的にユロをにらみつける。
が彼女は特に動じた様子はない。
うーんと唸りながら写真を見つめたあと、言う。
「えっとですね。まだ分からない点は多いですけど、私なりの見解なら話せます」
とユロは言う。
少尉は怪訝な表情を浮かべる。
「良いだろう。言ってみたまえ」
少尉の言葉にユロは頷く。
「ありがとうございます……まず王国では許可のない魔術の使用は禁じられています。魔術師は自分の魔術の使用許可を王国に申請し、審査を合格しなければ魔術の使用は許可されません」
「ふん。それくらいなら我々も知っている……それで?」
「魔術の審査も私たち監察官が担当しますから、監察官は王国で許可されている魔術の全てを把握しています。でも……この写真に写っているような効果を持つ魔術は私も知りません」
トントンとユロは机の上に置かれた写真を指で叩く。
「例えば顔を別人に変えるような『変身』という魔術はあります。しかし今回は体の中身まで完全にウィッツさんと同じになっていると、検死の結果から分かっています。『対象を全くの別人に変える』魔術……そんな魔術は私も知りません」
「つまり?」
「王国に届け出が出されていない非合法の魔術、の可能性が高いと思います」
少尉はふんと鼻を鳴らす。
「つまりは君たちの知識は役に立たないと言う訳か?」
ユロは困ったように笑う。
「うへぇ。面目ないです……でも、ある程度は推理できることもありますよ」
ユロはウィンクする。
目の前の少女を見て、少尉は自分の敵意が削がれていくのを感じた。
「『対象を全くの別人に変える』魔術があると仮定します。魔術は自然に発生しません。必ず使用する魔術師が存在します。なら魔術師は何のために魔術を使っているのか? そこが鍵になると思います」
「何のためにか……」
少尉尉は改めて机の上の写真を眺める。
全員同じ顔をした死体が7人。
全員、殺されている。
「ウィッツさんとなった人達はみな殺されています。魔術師が被害者たちをウィッツさんに変えた後、殺したのでしょうか?」
「……ありえるんじゃないか? ほら。魔術らしい何か怪しげな儀式のために」
ユロは頷く。
「勿論その可能性もあります。ウィッツさんに変えられた人達は何らかの魔術の儀式への生け贄だった。でも、その場合は被害者の方々の遺体は回収すると思います」
「確かにな……。今回の事件は全て遺体が残されている」
「事件の資料も拝見しましたが、被害者は全て人気のつかない場所で殺されていますよね。路地裏や廃工場。事件発生時刻で、男性の悲鳴を聞いたという証言も残っています。犯人はウィッツさんを狙い、人目を避けて行動している――私は魔術師と犯人は別の人間の可能性が高いと思っています」
その通りだった。
全ての被害者は明らかに何者かに殺されていた。
「そして魔術師と犯人が別ならば、魔術師の目的として考えられるのは……」
少尉もユロの言葉につられて考える。
ウィッツ・アルベンという男は犯人に狙われている。
なら魔術師がウィッツと同じ人間を7人も用意した理由は。
考えられる可能性が1つあった。
「魔術師はウィッツと同じ人間を囮として用意したのか……? ウィッツを犯人から守るために?」
うん、とユロも頷く。
「私もその可能性が高いかと思います。魔術師がウィッツさん本人なのか、彼を守ろうとする人なのかはまだ分かりませんけど」
「だが一応は筋が通っているな……」
少尉は忌々しそうに呻く。
正直なところ彼の理解はとっくに超えていた。
そんな中尉を見てユロが言う。
「少尉。私はこれから街に出て捜査を開始しようと思います。その際は王国軍にも協力してほしいのです」
「……構わんが。探す当てはあるのかね? 街は広い。ただ闇雲に探しても意味はないぞ」
「私たちの推理が正しいのなら、魔術師は囮を探そうとしています。魔術師がどうやって囮となる人を見つけるかについては当てが付いています。人界戦術であたれば見つけ出せると思いますよ」
ユロは少尉をじっと見つめる。
その目を見て中尉は思わず息をのんだ。
彼女の目には先ほどまで見せていた親しみやすさがなかったのだ。
「私は絶対に犯人を見つけてみせます。今回の事件はまだ分からない点も多いけど、確かなことは既に7名の人達が死んでいるということです」
目の前の少女は強く言い切る。
「どんな理由があっても許されて良いはずがありません。犯人も、魔術師も絶対に見つけ出してみせます」
彼女の目は獲物を狙う猟犬の目をしていた。
少尉も頷く。
「分かった。我々も協力は惜しまない。ただ一つ聞いても良いかな?」
「なんです?」
「……君みたいな、まだ若い子がなぜ魔術監察官という仕事をしている?」
目の前の少女はまだ17歳だ。
魔術監察官は危険の多い仕事だと聞いていた。
まだ若い人間が好んでつくような仕事だとは思えなかった。
彼女は「うーん」と考えた後、答える。
「私には別に魔術は好きじゃなかったんですけど、魔術師としての才能があったんです。才能があるのだったら、この才能をもっと良いことに使いたいって思ったんですよ。その方が気分良いですし」
とユロは笑う。
「私にできることがあって、助けられる人がいるのなら助けたいと思います。私の目的を果たすのに魔術監察官が一番適していたって話です――だから、犯人は絶対に見つけて見せますよ」
とユロは力強く言った。




