18話 別れ
2章完結です。
よろしくお願いします。
魔術監察官ユロと魔術人形ティーゼが戦った後。
ユロは事件の顛末を上司に全て報告していた。
ティーゼが時計塔を壊したことも報告した。
時計塔は既に修復されているものの、ティーゼは一度、魔術監察官の本部に連れて行くことになった。
そこで改めて彼女の処遇が決定される。
大きな罪にはならず、処分されることはないだろうが、少なくとも町を離れて魔術監察官の監視下に置かれることにはなるだろう。
ティーゼも了承済みだった。
ただ彼女を迎え入れる為の準備に少しばかり時間がかかる、とのことだった。
だから。
迎えが来るまでの短い間、ユロは彼女達と一緒に過ごした。
とはいっても、特別なことは何もしていない。
庭の掃除をしたり、一緒にリビングでおしゃべりしたり。
寝る前に一緒に星を見た。
一緒に本を読んで、その内容について語り合った。
何も特別なことはしなかった。
ただ温かくて、楽しい日々だった。
――そして終わりはやってきた。
よく晴れた、冷えた冬の朝。
ユロは着替えてリビングに行くと異変に気がつく。
「ユロ様。おはようございます」
ティーゼはリビングで静かに立っていた。
「おはようございます…………」
リビングの中は少し涼しかった。
窓が開いているので外の空気が入っているのだ。
ただ決して寒くはなかった。
「ティーゼさん……。カリーナさんは?」
ユロはカリーナの姿が見えないことに気づいた。
朝の風が入ってきて、窓のカーテンが揺らめく。
「奥様は遠くへ行ってしまいました」
ティーゼは端的に答える。
ユロは目を見開く。
ティーゼが何を言ったのか、分かってしまった。
もうカリーナはいないのだ。
もう会えない、遠くに行ってしまったのだ。
「そう……ですか」
「ええ。私も最期に会うことはできませんでした。私も少し自室で休憩していまして。気がついたときには、もう」
「…………そうですか」
ティーゼはユロに近づいて、肩をぽんとたたく。
「きっと悪くない最期だったと思います」
「…………え?」
「幽霊の状態を維持するには、悲しいという感情が必要になります。悲しいがなくなったから、奥様はいなくなったのです。なら、悪くない、と私は思います」
ティーゼはそのままユロを抱きしめた。
ユロの頭を撫でる。
泣いている少女の頭を優しく撫でた。
「だからユロ様。そんなに泣かないでください」
「――ティーゼさんだって……泣かないでくださいよ」
ティーゼはふふっと笑う。
「おかしな人ですね。私にそんな機能はありませんよ」
ユロは答える代わりにティーゼを抱きしめた。
温かな朝日がリビングに差し込む。
風が部屋に吹き込んできて、外の匂いを部屋に連れ込む。
そんな穏やかな朝。
カリーナたちと過ごす日々は終わった。
―――――。
1週間後。
ユロは村を後にすることにした。
既にティーゼも村を後にしている。
迎えが来て、彼女は魔術監察官の本部【魔術統括局】へと連行された。
ユロの上司曰く『そんなに悪い待遇にはなりませんよ』とのことだった。
ユロは事件の後始末をおえ、馬車を待っていた。
ベンチに座って空を見上げる。
ドラが気遣うように、ユロの右手に乗る。
ユロは、自分がもう悲しんでいないことに気づいた。
不思議とどこか爽やかで、どこか空っぽになってしまった気分だった。
……やはり寂しいのかもしれない。
(カリーナさん達と会わない方が良かったのだろうか?)
会わなければ、悲しむことなどなかった。
そんな問いが浮かんでくる。
(それは……きっと違う)
彼女たちに会えて良かったと思う。
いつか絶対に別れが来る。
けど彼女たちと会えたのは幸運だったと、思うことが出来た。
と考えていると、街へと行く馬車がやってきた。
ユロは馬車に乗り込む。
馬車の窓に目をやると、時計塔が見えた。
ちょうど新しい技術者が点検に来ているところだった。
その景色を見た後、ユロは目を閉じる。
こうして長く滞在していた町へ別れを告げた。
次話から3章です。
よろしくお願いします。




