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終末世界で明日を見る  作者: がみれ
第三章「欺瞞の渦と波乱の予感」
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第七十七話「感化される戦いの心」

「はぁ!!!」


 横薙ぎに右から左へ金棒を振るう東谷。

 それにキューブはひらりと落ちる紙のように躱し、肉薄する。


 キューブの手が脇腹に迫る。

 東谷は即座に金棒を手放した。


 伸びてくる腕をひじで叩き落とし、直後紙一重で後ろへ飛んだ。


「………」


「………」


 沈黙する二人。

 視線の動きから次の行動を探ろうと意識を張り巡らせる。


 示し合わせるように互いに息を飲み、そして止めた。


 重心を前に。

 前傾姿勢になった二人は次にはぶつかっていると確信していた。

 

「ん?」


「あ?」


 しかし、そうはならなかった。

 体勢を戻し、微妙な顔で二人は上を見上げる。


 すると、上階の通路から大広間へと吹き飛ばされる影が一つ。


 それは地面にめり込む形で東谷の横に落下し、瓦礫が宙に舞った。


「おい、何してやがる根暗野郎。てめぇの仕事は仮面の女を何とかすることだろうが」


 瓦礫をどけて起き上がり、一柳は上を見上げる。

 片手を腰に添え、片手で魔導書を持ちため息をついた。


「火力不足だ」


「てめぇの不甲斐なさで俺を巻き込むんじゃあねぇ。ぶっ殺すぞ」


 額に筋を浮かべながら、殺意に満ちた目で睨みつける東谷から顔を背け、一柳は口から流れる血を拭った。


「そう言うな。何も策がなく逃げて来たわけじゃない」


 遅れて鬼の仮面が上から飛び降り、キューブの横で着地した。耳元でキューブに何かを囁いているのは見えたが声は聞こえなかった。


「それでリスウェル。まだか?」


 隣に立つリスウェルに一柳が聞いた。


「天翔様を地下に送っています。ざっと二十五秒ほどで着くかと。輝夜様もそれと同時に」

 

「それで、その策ってのは?」


 その言葉に一柳はキューブを視界に収めながら、東谷の耳に近づいた。


「第三章を使う。効力は足止めだ。詠唱分ざっと十五秒稼げ」


 それだけ聞いて東谷は前に出た。

 金棒を勢いよく地面に振り下ろす。


 地面は砕けそこに小さな穴が出来た。

 轟音と同時、鬼の仮面は後ろに下がり、キューブの手が白く光る。


「ただ時間が来るまで待ち続けるだぁ?そんなの性には合わねぇなぁ!!」


 まるで風が押し寄せるようなその大声に、キューブは瞼をピクリと動かした。


「やるからには全力だ。殺す気で殺しに行くのが戦いだ!!」


 ゆっくりと大胆に東谷はキューブに近づいていく。


「おい。言っとくが作戦は」


 金棒を持たない左手で東谷は穴を指さした。

 それを見て、一柳は続く言葉を止めた。


「嫌だなぁ。殺すとか。ほんと嫌」


 キューブも東谷の足音に合わせ、近づいていく。

 次々、踏み出される一歩。互いにその一歩には魔力が通わない。


 だからこそ、どれが相手を殺す一歩なのか互いに見定めようと同時に魔力を解放した。


 互いの中央で緑と白の魔力が衝突。

 せめぎ合う魔力はバリバリと天井を引き裂き、地面を砕いた。


(殺意がねぇ)

(殺意しかない)


 呼吸の感覚、体重の移動、前のめりになった意識。互いの一歩を確実に視界に捉えながら、歩みを進め続ける。


((どれだ?))


 その時、足音以外の音が聞こえ、二人は汗を吹き飛ばす勢いで飛び出した。


「弱化の書」


 横薙ぎの一撃がキューブの手に触れられ、金棒が先端から半分魔力が触れられた部分がバラバラに砕ける。


 直後、東谷は手を金棒から離した。

 爪を立てるようにピンと手を伸ばし、喉元を突く。しかし、それより速く腕はキューブの手に捕まれた。


 引き抜こうとして、踏み入れた地面に亀裂が。

 しかし、引き抜けない。


 キューブの全身が白色光に包まれた。それと同時、ゆらゆらとした魔力が胴体から手に上っていく。


 瞬間、東谷は胸のあたりから緑色の魔力を爆発的に前に押し出した。


 互いの魔力が衝突。

 両者の間で何かが爆発したかのように、互いに吹き飛ばされ、キューブの手から腕がするりと抜け離れた。


「圧力分、余計に反発」


「捕まれんのは想定済みだ」


 互いに吹き飛ばされ、同時に足を地面につける。

 金棒を横に構え、綺麗に切断された先端のみが緑色に染まる。


(やんのは、あれだろ?)


 全身に纏う白い魔力。

 その中で手に纏う魔力がキューブの体から離れた。


(近づきたくねぇよなぁ?痛みを知ってんだからよぉ!!)


 斬撃。

 横に振るったキューブの手から、鋭い魔力の刃が視界に迫る。


 頭部が脳みそごとずり落ちる。

 そんなイメージが頭に浮かぶ。


 だが、東谷はなおも笑みを浮かべていた。

 脇を締め、右足を後ろに。振り上げる構えを見せるかのように大胆に取った。


「ここだ!!!」


 下から上に体の捻りを加え、金棒を力強く振り上げる。直後、金棒の先端が斬撃の側面に直撃した。


 斬撃が上に逸れる。

 天井をきり裂き、瓦礫が地面に叩きつけられ壊れる音が背後から響く。


「やっぱなぁ!!斬撃は空気抵抗みてぇに魔力と反発するがほぼ一定の速さ。側面に刃はねぇから逸らせる!!」


「じゃあ、これは?」


 大きく手で弧を描くキューブ。円状に白い軌跡が宙に浮かぶ。


 直後、それは飛び出した。


(そう来るか!!)


 迫りくる斬撃は円。


 東谷は自ら金棒を手放した。

 緑色の魔力を手と足に込め、かかとを勢いよく振り上げ下ろす。


 直後、円とかかとがぶつかった。

 魔力の衝突に斬撃が下に逸れる。


 地面に入り込み、床を切断するその音を後ろにするかのように、東谷は振り下ろした足で前に駆けだす。円の真ん中、上下左右の光を横目に。


「なら、次」


 手の軌跡に従って斬撃が迫る。

 十字、四角、円。様々な形の刃が。


 それらを手と足で逸らし、あるいは躱し駆け抜ける。


 ブオンと横を過ぎ去る斬撃が耳に入る。


 だが、増えていく物量。

 タイミングの差、糸のように細い斬撃、一撃目に隠れた視覚外からの二撃目。それら全てに対応出来ず、肉が裂け、地面が血に染まっていく。


 手と足は血みどろ。

 だが、なおも進む足は止めない。前を向き続けた。


「いいの?死ぬよ」


「戦いってのはこうでなくちゃなあ!!!」


 額から目に入った血を拭わず、狂気にも見える笑みを浮かべ、東谷は腹の奥から声を出した。


 次々迫りくる斬撃に対し、東谷は一向に怯まない。


(糸は無視だ。二重は魔力多くすりゃ、一度に叩けんな)


 地面に片手をつき、頭上を斬撃が通る。


 正面を下から見上げた。

 そこには直立不動で後光のような光に包まれるキューブの姿が。


 目と鼻の先、延長線上に片手を持っていき東谷は人差し指を拳銃のように指さした。


「見えてきたぜ。てめぇに続く光の道が!!」


「見えないの?そこまで続いた血の道が」


 斬撃の猛攻が止まる。

 瞬間、爆発的なまでに立ちのぼる白い魔力が視界に映った。触れれば消し飛ぶ、そんな気配が皮膚に突き刺す感覚とともに感じた。


 だからこそ今が好機。

 魔力制御分の時間は隙だ。


 そう考えた東谷は、足裏に体から絞り尽くすかのように魔力を込める。


 重心を前に両手を地面につけ、より前傾姿勢になった。


 その時、パシュンと二重に銃声が響く。


(銃ッ)


 左を向く。

 頭部へと迫る弾丸が目に入る。同時、まだ残っていた左手の魔力で間一髪、寸前で弾丸を掴んだ。


 しかし、


「ックソ……」


 魔力で覆ってない左足は簡単に貫かれ、血が噴き出るとともに東谷は片膝をついた。


(仮面のやつかッ)


「誘ったな」


「前だけ見てるからだよ。それと……卑怯とは言わないよね?」


 視線を銃声が聞こえた方に向けるキューブに、東谷は額に筋を浮かべ、睨みつける。


 だが、戦場に似つかわしくない申し訳ないといった声色で言うキューブに東谷はため息を吐いた。

 

 真剣な顔で東谷は問いに答えた。


「言うわけねぇな。これは決闘じゃなく殺し合い。一対一のスポーツなんかじゃねぇんだ」


 無理やり左足を動かして地面を強く踏み、震える足を片手で押さえる。何とか立ち上がり、前を見た。


 その光景に東谷は苦い顔を浮かべる。


「そう」


 空間を埋め尽くすほどの巨大な針。

 キューブの頭上、魔力で形作ったそれは一見そう想起させた。


 しかし、


「四角い板。その側面を刃に、か。そうかよ……。板を重ねまくって針にすりゃあ、そりゃ刃以外見えねえな」


 先刻までと打って変わった側面についた刃。

 それはでかい面を叩ける致命的な弱点を生む。


 しかし、板を重ね合わせることでちょうど側面だけが晒されその弱点は消えていた。


「いいよ。遺言ぐらい言わせてあげる」


「……」


 目の前の人一人分は余裕で埋まる大きさのそれを前にしながら東谷は口を動かし、誰にも聞こえないぐらい小さな声で東谷は何かをつぶやいた。


「いいの?言わなくて」


 足裏のみが緑の魔力に包まれる。

 すると、東谷はにやりと笑った。


「あぁ。俺様はこんな所でくたばんねぇかんな」


「その魔力じゃこれを防げないよ」


 上に人差し指を指さすキューブに東谷は表情を変えない。


「戦いってのはなぁ、一対一を制した奴が勝ちじゃねぇ。最後にどっちが前向いてられっかだ!!」


「なら、前も後ろも無くなる君は私には勝てないよ」


 首を傾げ、東谷の後ろ。

 灰色の泥の魔力を見てキューブは指を前にゆっくりと動かす。


 その時、地響きとともに轟音が響き渡る。


「なッ」


 まるで、地下全てを破壊して進むようなそんな音がどんどん近づいていく。


「まさか、特殊型」


 上を見上げ、キューブは目を見開く。


「てめぇの敗因は魔力を残しすぎたことと自然の脅威って奴を敵に見なしてなかったことだ」


 その瞬間、キューブは両手を前にした。

 針の後方が眩く輝く。


「ジャスト15秒!!やれんだろうなぁ!!根暗野郎!!」


 地面を擦り、足を開く一柳。


「当たり前だ」


 自身を囲う泥の渦に同調するかのように地面が津波のように波打ってキューブに迫る。


「はなからこれを」


「死にたくねぇんなら上に撃つんだな」


 直後、東谷は飛んだ。

 足の魔力で波の上まで飛び上がる。空中を蹴り、一柳まで向かおうと足に意識を向ける。


 しかし、その時、東谷は見た。

 針の方向が上でも一柳たちのいる横でもなく下に向き始めているのを。


(は!?何で下を。…まさかッ!!)


「下に行くんでしょ?穴で分かるよ」


 針が完全に下を向いた。


 東谷の脳内に未来の光景が浮かぶ。

 針が穿たれ、魔力の大きいそれを追った特殊型は最下層まで迫り、そこにいる人間を襲いに行く。そんな未来を。


 だが、それと同時に東谷は気づく。

 キューブはその時点で防御するすべを失うことを。


「クソが。そんな命かける奴には見えなかった」


 苦悶の表情を浮かべ、汗をにじませる東谷。

 彼を見てその発せられた言葉にハッとしてキューブは息を飲んだ。


 そして、東谷の瞳を見て小さく笑った。


「そうだね。確かに。命をかける義理なんてない。当てられたかな。君の戦いの心ってのに」


 針が急旋回。

 真上を向いた。


 その瞬間、足元が沼に浸かったように足が動かせなくなり、キューブは迫りくる泥の波をただ見ると飲み込まれ消えた。


「こりゃ完全勝利とは言ぇねえな」


 東谷も小さく笑みを浮かべ、すぐに表情を切り替える。


 針の後方。

 まるでロケットが飛ぶかのように魔力による風圧で泥の波面が波打つ。


 瞬間、針は飛び出した。

 体全体で受ける風圧を感じ、直後針はバリバリと音を立て天井を突き破った。


 東谷は体勢を下へ向けた。


 瓦礫が自身に降りかかる。

 その前に空気を足場に急降下。


 泥の波スレスレで止まると、泥の表面を地面を蹴って駆け抜け、穴に飛び込んだ。

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