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終末世界で明日を見る  作者: がみれ
第三章「欺瞞の渦と波乱の予感」
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第七十六話「互いの本音」

 両手を後ろに回し、名無しは握った手を広げる。

 そこからリスウェルの人形が現れ、手の上で立ち上がったのを感じた。


 人形の腹の辺りを人差し指でトントンと二回叩く。それに人形は何も動きを示さない。


(まだ……)


 名無しは上を見上げ、戦う皆を思い浮かべながら汗を浮かべる。


(なら、やるべきは当初の目的)


 名無しは市長であるペインに言われたことを鮮明に思いだす。


「調査と仲間に引き込むことを君たちに依頼するからがんばってー。ある程度非道なことしても目を瞑るから好きに勧誘してきてよ」という適当に投げられた言葉を。


 ムッとした顔に一瞬なるが、頬を両手で叩き名無しは心を切り替える。


 目を瞑った。

 その瞬間、頭の中にある記憶から名無しはダブレスに関する事柄だけを思い出す。


 立場が中立。

 カイの幼なじみ作り。

 短刀に刺さったままの妻。

 研究に関係ない庭園。

 家族に危害が及ぶ事自体が看過できない性格。

 妻とカイのため犠牲者が出ないようにする選択。

 教魔団による二十二年前の回帰と前進隊によるゲートの破壊もとい魂喰霊の駆逐。その二つの未来の結果に関わらずどちらも追える夢。

 

 頭の中で言葉が羅列されていく。

 その途中で不意にルプスの言葉が引っ掛かった。


「家族思いのいい奴……」


「だよね。こんな感情なさそうな感じで」


 目を開き、ダブレスの目を真っすぐと見た。

 半ば確信したような目で。


「どちらの陣営についても同じって言ったよね」


「ああ」


「もしかして、ダブレスの夢って妻を蘇えらせることとカイと同様の機械を作りだすことだったり」


「だとして何だ?」


 食い気味にダブレスは言う。

 その見開いた目の目力に名無しは一歩後ずさった。


「つまり、今の技術じゃその二つを実現出来ないんじゃないかなって。だから、未来まで待ってる。違う?」


 それでも確認せずにはいられない気持ちが自然と言葉を発していた。


「私の科学力が劣っていると?」


 前に踏み込んだダブレスに名無しはゆっくりと頷いた。


「……そうだな。それもある」


 アッサリとして言うダブレスから圧が消え、名無しは息を吐いた。


「だが、まず大前提に資源不足だ。世界中に様々な資源を取りに行くにも、地上を経由すれば魂喰霊に見つかる。列車の運用による運搬も大きさや数が限られ、載せているものの魔力放出量によっては運べない物もある。それと、人手だが圧倒的に足りないな。私とカイ二人では限度がある」


「じゃあ、資源がゲット出来て人手が手に入る。そんな理想が叶うなら付いてやってもいいってこと?」


「ああ。出来ればな」


(見えてきた。やっと)


 確かに掴んだ交渉の糸口に名無しは手を握りしめ、笑みを浮かべそうになるが抑える。


 その瞬間、どかんと轟音が上から聞こえた。

 それも遥か上からではない。すぐ近くなのか天井からバラバラと砂が舞った。


「時間がないな」


「ね。本当に」


 喜びも束の間、焦りで背中に汗が浮かび上がる。


「ねぇねぇ、これ近くまでさ…」


「来てない」


 アワアワとした様子のルプス。

 彼女から放たれた言葉を遮るように名無しは言った。


「資源、は分からない。でも人手なら貸せる」


「第三拠点の居住者か。だが、この私にそうそう奴らは手を貸さないぞ」


「なら、価値を示す。あなた自身を街に対して。だから、味方のフリでも一定期間全面的に協力して欲しい。人手を貸す対価として」


「………」


 沈黙が続いた。

 十秒以上。その間、ダブレスの表情は変わらない。目線が様々な場所に移っているのを見て、悩んでいるのは見て取れたがそれだけだった。


「三つ、条件がある」


 口を開きダブレスは言う。それがまるで頼むように名無しは聞こえた。


 息を飲み、頷く。


「一つは私を護衛し禁足地カリュエラまで連れて行きある調査をさせる事。二つ目は精霊種エルフの女王に短刀の解析を協力させること。三つ目は夢が叶う最期まで、私は君たちの味方にはならない事だ」


「……それだけ?」


 拍子抜けした様子で名無しは言う。

 それにダブレスは眉をひそめた。


「何を言っているんだ?。それはつまり、」


「つまり、敵にも協力する。たかがそれだけ。ダブレスが手に入るなら安いよ」


 頬をかき、名無しは言う。


「いいの!?裏切り宣言だよ。これ」


 ダブレスを指さし言うルプスに名無しは頷く。


「うん。まぁ、今のやり取りだけで敵との繋がりの一切を切って100%こっちの味方はあり得ないし。それに敵に繋がりがあればいつかは必ずボロを出す」


 手を前に差し出し、名無しは顔を上げる。


「対価に値する仕事はしてよ。条件増したからその分長く、ざっと数年は」


「……まるで交渉が通ったかのようないい方だな」


「じゃあ、手は取らない?」


 無表情に名無しは目の前のダブレスだけを見て言う。心の中にある"今すぐ取れ"という気持ちを抑えながら。


 ダブレスは動かない。

 それどころか呆れたように息を吐いた。

 

「条件はあくまで協力する最低限のラインだ。味方になるか中立でいるか。決定的な差異が欲しい」


 その言葉に名無しの表情は揺るがない。

 それどころか力強い目で名無しははっきりと言葉を口にした。


「妻を絶対に治す」


 言い放ったそれにダブレスは目を一瞬輝かせる。


 可能性。

 それを不確かな口約束の中で彼女の瞳から確かに感じ、小さく笑みを浮かべた。


「苦悩していたというのに。子どもはあっさりと言うのだな」


 一人言のように小声でダブレスは呟く。

 それにルプスめ小さく笑みを浮かべた。


「全面的な協力はせいぜい三年だ。それ以降は元の関係に戻させてもらおう」


 伸ばした手が掴まれる。

 がっしりと人ではない人工的な感触を肌や骨格、肉質から感じ取った。


「ありが、いや、よろしく」


 言い直し、名無しはその手を力強く握り返した。


「……色々と無理を言ったつもりだったが」


「三年の内に夢を叶えられれば問題ないでしょ?」


「確かにそうだな。家族が揃えば危険な中立の立場など取るわけにはいかない。まぁ、三年でどうにかするなど夢物語に近いが」


 自嘲気味にダブレスは言う。

 手に持った銃の先を掴み、グリップの方を二人に向けた。


「気休めだ。化け物には通用しないが、銃声で位置ぐらいは伝えられる。それで作戦は?」


「地下にいる全員を最下層まで退避させて、輝夜も後に合流。その時、追ってきたクラーケンを輝夜から魔力量の多い教魔団のキューブに対象を変え、全員で嵐を待つ」


「なるほど。予想通りだ」


 ダブレスの右斜め後方、暗がりの奥から一つの影が何かを放り投げたのが見える。


「無線!」


 放物線を描き飛んできたそれを名無しは目で捉えた。


 ダブレスは、ちょうどよくキャッチし、片手でボタンを押しそれを口元に近づける。


「予定通り発電は停止。予備の電源に切り替えろ」


 その言葉を発したと同時、すぐ側にあった機械の駆動音が徐々に小さくなり、聞こえなくなった。


 だが、静まり返ったわけではなく数種は機械が動いているようで駆動音はまだ少し聞こえていた。


「魔力を反発させ動力を得ているからな。探知の対象になる」


「じゃあ、後は待つだけだね。よかったー。何もしなくていいじゃん」


 腕を頭の後ろに回し、余裕そうにルプスは言う。

 それと同時、ダブレスは後ろを振り向き暗がりを覗いた。


「私はこれから機器の調整に入る。万が一作戦が上手くいかなかった時の保険だ」


 ダブレスによって前に差し出された無線を掴み、名無しは頷く。


「なら、私たちは人員の回収と報告を」


「あぁ、タイミングはそちらに任せよう」

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