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終末世界で明日を見る  作者: がみれ
第三章「欺瞞の渦と波乱の予感」
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第七十八話「全員集合」

 アリア、カイのいた最下層手前。

 その扉の中で名無しは無線を握りしめ立っていた。


 正面では広々とした空間の中を一柳と東谷が駆け抜けこっちに向かってきていた。


 耳を塞ぎたくなるような轟音が耳を襲う。

 天井が今にも崩れそうなほど地面が揺れ動いた。


「来ます。輝夜様です」


 隣に立つリスウェルの言葉を聞き、名無しは無線のボタンを押した。画面が青緑色に染まったそれを口元に近づける。


 二本の鬼の角が天井の穴から見えた。

 その瞬間、名無しは無線に語りかけた。


「今!!閉めて!!」


 両開きの扉のさらに内側。

 重厚な壁が両側から閉まり始める。


 その時には、東谷と一柳二人を両手で抱えた輝夜が横に立っていた。


「良い判断だ。それに目も」


 名無しを一瞥し、焦った様子もなく輝夜が言う。

 しかし、左腕と右脇腹の箇所、スーツの下から血が滲み出ている。それを見て、一瞬魔導書を出すため手を前にかざそうとしたが止めた。


「深手?」


「いや、軽傷だ」


 輝夜が手を離すと、一柳と東谷がうつ伏せに地面に落ちた。


「てめぇ、」


「落とすなら言ってくれ。痛い思いなんてしたら動きたくなくなるだろ」


 ゆっくりと二人は身体を起こすと、扉の先の暗闇を見た。


 そこには何人ものダブレスが立っていた。


「ハッ、リスウェル、名無してめぇら二人が拘束もなしに突っ立ってるってぇことは、交渉は上手く行ってんだなぁ?」


 疲れた様子で息を吐くとともに東谷が言う。


「なんとか。条件付きで。だから、あとは」


「運次第か」


 輝夜が上を見上げ、片目をつぶった。

 その表情は険しかった。


「「そうとは限ら」」


 一柳と輝夜の声が重なる。

 顔を見合わせ、二人は黙ると名無しが割ってはいるように声を出した。


「情報共有は合流後。とにかく時間が」


 その時、ドカンと何かが爆発する音が響く。

 振動がはっきりと地面から伝わった。


「爆発?」


「名無し、東谷は私が運ぶ。君は走れ」


 輝夜から視線を感じた一柳は気だるそうに頷く。


「あぁ、分かった。動きたくはないんだがな。死ぬよりはましだ」


 暗闇の中、ダブレスの軍勢を飛び越え先へ。

 少し駆け抜け、行き当たりにつくと、そこには金属性の銀色の扉があった。


 見るからにシェルターのような扉をハンドルのように回すことで開け三人は小さな部屋の中に入った。


「お疲れ様ー。名無し」


 緩い言い方でルプスは言う。


 中にはほぼ全員の姿があった。

 アリア、天翔、カイは気を失っている。他の者も表情は明るくない。


 唯一、リスウェルだけは外に行くと言ってここにはいなかった。


「来たか」


 ダブレスがそう言うと、輝夜からゆっくりと降ろされる。


 見渡すまでもないが、家具など何もなく、あるのは部屋の後ろの方に積まれた大量の箱と部屋の中央の棺だけだった。


(これって、まさか…ダブレスの)


「なるほど、魔力で断絶された空間。これも精霊によるもの」


「流石は輝夜雫。触れるだけでも分かるか」


 二人が話している間。

 名無しは魔導書を開き、東谷に触れ、魔力を流し治療していく。


「ん?」


 しかし、傷の浅い部分しか再生していかない。

 何か重たい水に阻まれるような感覚に手のひらを見る。


 魔力を出そうと意識した。

 しかし、脱力感が体全体に襲いかかるだけでこれ以上一切魔力が出ない。


(そうか。魔力の残りがもうないんだ)


 手を離し、ダブレスを見た。


「それで特殊型の状況は?」


「それを聞くなら、リスウェルだろう。通信出来る機械たちは余波に耐えきれず、この階を残しあらかた消し飛んだからな」


 銀色の金属性の球体をダブレスは取り出すと、地面に置いた。すると、そこから空中にホログラムのように映像が浮かぶ。


「皆様いらっしゃるようですね」


「あぁ」


「なんでリスウェルだけ外に?」


「分身と本体の繋がりが壁で断たれてしまうのでその都合です。では、現状報告を。現在、ッ!!」


 リスウェルからカメラが特殊型に向けられ一瞬クラーケンの腕が映る。

 

 しかし、突然、画面が途切れた。

 ノイズが走り何も映像は映らなくなった。


「何が、起きたの…?」


 不安そうにルプスが言う。


「直前で気づいた。いや、分身の情報共有?」


 最後の一瞬、突然画面が傾いた。

 その事に名無しは気づき呟いた。


「カメラを別の者に切り替える」


 そう言って画面がプツンと切れる。

 再び光景を映すが、画面全部が灰色のノイズで埋め尽くされていた。


 それは、どれだけカメラを変えても変わらなかった。


「これは、全ての分身が倒されている」


「やはりか」


 拳を握りしめる輝夜。


「やはり?何か分かるのか?」


 輝夜の言葉に食いつくように、ダブレスは前のめりになって言った。


 その言葉に少し黙り、重たい口を開くように輝夜は言葉を発した。


「死神」


 その者を形容する二文字の言葉に苦い顔を皆が浮かべた。沼の中に沈んでいくような重たい空気になっていく。


「奴の仕業だ」


 断言した輝夜にさらに空気が重くなる。


「この状況で連戦は流石に無理かな」


 ルプスは無理に笑みを浮かべた様子で軽い調子で言った。


 ルプスの言う通り、皆の顔に以前までの気迫はない。疲労もあるのだろうが一番は魔力不足。


 誰もがそれを痛感していた。


「複数体の分身を一斉撃破。確かに能力的には合点がいく」


「なぁ、輝夜。一つ聞きてぇことがある。そいつは特殊型を叩きのめせるだけの力はあるか?」


 東谷の問いに輝夜は端的に答えた。


「あぁ。確実に」


 それを聞き、一柳はため息をつく。

 壁に寄りかかるようにして地面に座りこんだ。


「おいおい。嘘だろ?最悪の予感がこうも的中するか?それはつまり、いや言葉にしたくねぇな」


 その言葉で皆の視線が一柳から東谷に向く。


「キューブは俺らが地下に逃げたのを知ってる。すれ違いざま、死神にそれを伝えられりゃあ確実に撃つだろ。地の底まで特殊型を追いやる。その時までなぁ」


 まるで時が止まったかのように皆が黙る。

 その時また、ドカンと何かが爆発した音が上の方から聞こえた。


 なんとなくではない…。音は先よりも近づいているように感じた。


 焦りで手に汗が浮かぶ。


「待て。私の身の保証は奴らも。いや、組織はそうでも個人は別か。あのイカれ狂信者共が」


「そんな言葉吐いたって意味ない。とにかく、打開策を。残存魔力で戦えるものは…」


 名無しが目をやった先は三人。

 ルプス、ダブレス、輝夜だった。


「私の義体は戦闘用ではない。非戦闘員同様出来ることは銃による抵抗のみだ」


「じゃあ、後は」


「特殊型、死神との戦闘で私も魔力は残り一割といった所だ。斬撃は三度放つのが限度だろう」


 刀の鍔を親指で持ち上げ、刀身から揺らぐ魔力を見ると輝夜は言った。


「え?ってことはつまり私?嘘だよね?」


 ルプスは自分自身を指さし、引きつった顔で言った。


「いや、ルプスだけがどうにかしたって意味はない」


(死神も特殊型も真っ向から挑んでいい相手じゃない。理想はキューブと死神を特殊型が追うこと。だけど、その前に地下空間が崩れれば瓦礫に押しつぶされる。そしたら、標的を変えるどころじゃない)


「このままじゃ生き埋めになる。私たちは今すぐにでも、外に出るべき。幸い、輝夜の斬撃で無理にでも道を作れる」


「待て待て、何のためにここに入ったか分かって言ってるのか?」


 手で顔を覆い一柳が言う。

 その言葉に唇を噛みしめる。ドクドクと鳴る心臓の音を聞きながら、決断したように前を向き重々しい口を開いた。


「特殊型、いや魂喰霊は魔力を追う。そうだよね」


「あぁ。例外はあるがほぼ全てそうだ」


「じゃあ、魔力発電所をフル稼働させれば少しは標的を変えれるんじゃない?」


 その言葉にダブレスは目を見開き、頭に手を当てうつむいた。


「そうだった。何を私は」


「出来る。で、いいの?」


「あぁ、その通りだ。だが、魔力発電所は無論安全性を考慮し、この部屋同様魔力を断絶している。最大まで稼働させようが現状意味はないだろう」


 その言葉に名無しは苦い顔を浮かべた。


「あと一歩だっていうのに」


 掠れるぐらい小さな声で悔しそうに呟く。

 それでも、名無しは言葉を口にした。


「もしかしたら、私たちは詰みかもしれない」

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