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終末世界で明日を見る  作者: がみれ
第三章「欺瞞の渦と波乱の予感」
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第七十四話「たった二秒のつけ焼き刃」

 投擲した瓦礫は明後日の方向に飛んでいき強化ガラスに激突。

 次の瞬間、瓦礫に仕込まれていた何かが爆発した。


 強化ガラスにヒビが入り、爆風がアリアを襲う。

 それをリスウェルが体で庇い、支えた。


「加えて何十ものリスウェルが途中で剣を側面から殴りつけて微調整って感じかな」


「………」


「終わりだよ。その足じゃもうさっきの避ける余裕はない」


「……能力発動から剣の生成」


 強化ガラスのヒビが遅れて広がり、パリンと割れる。


「アリア様」


 一歩距離を取り、頬に汗を浮かべる。


「ああ、分かってる。エレベーターにあった溶けた壁。あれがある以上油断はしないよ」


(ただ、剣はもう回収出来ない。あの大きさだ。剣を魔法陣に戻すだけでカップラーメン一つ分は作れる。そのうえ、魔力操作苦手だから魔力操作だけで剣は作れない。でも、それを分かってないカイの最善は、)


((剣を生成する前の速攻!!))


 互いに最善手に辿り着く。

 前を向き灯火の消えない両者の目は次の一手を告げていた。


 アリアは左壁に沿って足を踏み込む。

 カイもそれに合わせ左壁に沿って動き始める。互いの位置が対面の直線から斜めにずれた。


 下から五体リスウェルの分身が頭一つ分だけ顔を出す。アリアとカイの直線状にいつでも飛び出せるように。


(あれは)


 手のひらを前に向けるカイ。

 スライドし見えた穴から光が眩く映る。


(やはり熱線!!)


「リスウェル!!」


 汗を吹き飛ばすように声を出す。

 目線は隣に浮くリスウェルではなく、カイに合わせたままアリアは走り出した。


 頭だけ出した分身五体が一斉に浮き、胴体を見せ前に並ぶ。


「無駄。全部焼き払う」


 滑り込むように座りこみ、光線を出す手を別の手で支える。瞬き一つせず、体のブレが一切消えた。


(相手は機械。絶対的な弾道計算でこの距離は確実に当ててくる)


 今にも打ち出そうなその光を見て鼓動が高くなる。だが、それを無視するように、今というタイミングでアリアは天に人差し指を向けた。


(だが、それは俺たちが何もしなければ、だ)


 隣に立つリスウェルの片目が開かれる。

 瞬間、構えるカイの足元から二本の腕が透けて伸びる。


 カイの腕へと真っすぐに。


 カイはそれを一瞥する。

 しかし、動かない。


(分身を使った接触による角度ずらしと推測。でも、接触到達より前に既に光線射出は可能。影響は調整分の時間幅ロスのみ。いや、違う)


 銃口が揺れる。


「狭まったんだよ。その光線銃はもう下には撃てない」


 アリアの首が上からがっしりと掴まれる。

 リスウェル。彼女によってアリアは勢いよく地面に叩きつけられた。


 鈍い音が響く中、アリアは動かない。

 戦いの最中背を地面につけ、余裕のない笑みを浮かべる。


「ほんと一か八かだ」


 銃口の角度を落とそうとするカイ。

 しかし、今の光景と自身の機械的な計算で分かっていた。どうあってもリスウェルの腕に阻まれ、直撃の角度まで持っていけないということを。


 だが、それでもカイはアリアと同じ笑みを浮かべる。曲げた足を伸ばし立ち上がった。


「一か八か。確かに学習した」


 カイの目に熱が宿る。

 バキっと地面が割れる音が響く。


 瞬間、アリアは見た。

 天井の近く、跳んで手のひらをこちらに向けて構えるカイの姿が。


(精度のブレを度外視した、空中での一か八かか!!)


 全てを包み込む光が空間を照らす。


 アリアは両手を地面につけ、足で地面を強く蹴るとバク転。起き上がり、地面に足がつくコンマ数秒、跳ぶべきは右左か、判断に全神経を集中した。


 全身の毛が逆立つような感覚をアリアは感じた。


 その瞬間、耳慣れない声が聞こえた。

 背後からはっきりと、にゃーんという可愛い声が。


 瞬間、時間が引き延ばされたように長く感じた。


(は!?まさか、割れたガラスの中に!!この射角、避ければ猫は死ぬぞ!!どうするッ背後を振り返る暇はない。そもそも機械の音声だってありえる。思い出せ!!ほんとに猫なんていたか?)


 刻一刻と光は強まる。

 息を呑む。皮膚に当たる空気が焼けるように熱く感じる。


 その瞬間、過去の記憶がフラッシュバックした。

 橋の上、言葉を必要とせず自己を省みない決断を迷いなく取ったリスウェルの姿を思い出す。


(いーや、違うわ。そういうのは。猫一匹救えない奴に、かっこよさの欠片もあるわけないんだ!!)


 着地と同時、前に手をかざす。

 体を包み込む魔力全てが粒子状に。


 射線状、人一人分の大きさ、四つの魔法陣が展開される。


 同時、光線は放出された。

 顔に迫る光の恐怖を噛み殺し、アリアは手に何も持たず、正中線に剣を構える動作を取る。


「猫だ!!守れ!!」


 迫真の声。

 それを聞くよりも早く、リスウェルは表情を見て動き出していた。振り返り、地面に足をつけ一直線に猫を目指し、アリアの横を通り過ぎる。


 光線が魔法陣と激突。

 コンマ一秒耐えた後、パリンと魔法陣は割れ光に飲まれた。


(耐え、た)


 上を見上げ見たその事実にアリアは手に汗握る感触を覚える。


(これだ!!)


 虚無を掴む手に実感のある物の感触を感じる。

 魔法陣。薄いそれが多層的に幾重にも積み重なって形を成していく。


 柄から剣の先まで。

 剣の形を成していくそれは、もはや切れ味などない。その大剣にたった一つ出来ることは、正面から受け止めることのみ。


 柄が円筒状になった魔法陣に巻かれる。

 がっしりと握りしめ剣を上に振り上げ構えた。


「こい!!」


(魔力は光線に持ちこたえた。なら、少しでも時間を稼げる!!)


 全ての魔法陣が割れる。

 壁として立つリスウェルの分身が光線に腕を伸ばすが、全て光に飲まれた。


 目の前まで光が迫る。視界が白一色に染まる。

 間合いの間隔は計りようもない。アリアは両目を閉じた。


 全神経を剣先に集中。

 その時、五感とは違う何かが冴え渡る。


 今際の際、不安や死への恐怖が外側の魔力を過剰分外に漏出させた。その結果、肉体や剣先に至るまで赤色の魔力にアリアは包まれる。


 剣先に触れるより前、漏出した魔力が光線に触れる。その瞬間、アリアは剣を振り下ろした。


「はぁぁ!!」


 激突。

 光線と剣。眩い白光と煌びやかな赤光がせめぎ合う。


 剣から伝わる力に足が滑るように押される。

 ピキッピキッと剣の中の魔法陣にヒビが入っていく。


 持って二秒。

 されど二秒。


 たったそれだけの猶予だとアリアは感じ取る。

 それでもなお、表情は前向きに、剣はブレない。


(二秒。それだけあれば十分だろ?なぁ、リスウェル)


 剣がパリンと割れる。

 その瞬間、左耳の付け根が光線で切れ血が流れるが、光線は天井へと逸れた。


 眩い光が晴れて正面。

 カイの右手を上に押し上げるリスウェルの姿が目に映る。


 光線を下に向けようと力を入れるカイの腕はリスウェルにがっしりと掴まれていた。


「にゃんこは?」


「無事です」


 後ろから声が聞こえる。

 屈んだリスウェルにその手に持つ生き物を渡される。


 三つ目に三尾の三毛猫はギザギザの歯を見せながら呑気にあくびをかいていた。


 光線が途絶え、リスウェルの拘束から離れたカイは仰向けに脱力し落下する。


 ガシャンと金属音を立て、地面に激突。

 カイはうつ伏せになって顔を上げた。


 目の前には片膝をつきながらもが立っているアリアと、その横で守るように横に立つリスウェルの姿があった。


「当機の残存魔力五パーセント。でも、互いに満身創痍」


 ノイズが入った機械らしい声でカイは言う。


「そうだな。魔力がカラッカラだ」


 片膝を曲げ、アリアは座りこみ、猫を撫でた。


「……上には大量の機械。ここにもじきに到達。多勢に無勢で当機はすぐに回収、修理される。この戦い自体全部無駄」


「でも、ニャンコは救えたぜ」


「………」


「それに多勢に無勢ってね」


 上を見上げ、引きつった顔でリスウェルを見る。

 すると、いつにもました笑顔を返した。


「わたくしに対しそれはあり得ませんね」


「そう。相手が悪いよ」


「……まるで勝った気。今学習した」


「何を?」


「勝ちを確信した瞬間の緩みは致命的」


 ニャンコが「くしゅん!」とクシャミする。

 すると、同時三つの尻尾が虹色に光り、尾の先から粉がばら撒かれる。


「まさか…」


「ただの猫を隔離するわけない」


 瞼が重くなら、ふらつくアリア。

 視界がぼやついていく。


「あーこりゃ無理だ」


「マスター!」


 倒れるアリアを抱き抱え、糸目でカイを睨みつける。それにカイは小さく笑みを浮かべた。


「睡眠薬代わり。でもこれで引き分け。いや、そっちの目的通りだから当機の負け、か」


 額を地面につけ、カイは動きを止めた。

 頭の上の天使の輪の光が消える。


 誰も喋らなくなった空間で、リスウェルは目を瞑った。


「目的。わたくしたちがこの地で食い止める事を、カイは知っていた」


 リスウェルは扉の方を向いた。


「つまり、何らかの連絡手段でそれを得た。……であれば、名無し様方はもう既にダブレス様と」

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