第七十三話「天から穿つ一筋の剣」
「リスウェル、速度を上げるよ」
「かしこまりました」
草花を踏み、駆け抜ける二人が目指すのはただ一点。
地上の特殊型魂喰霊の探知範囲外であり、ダブレスとカイが接触しないぎりぎり最下層の手前。
(目標はそこで戦闘継続。だけど、立ち上がるのに遅れた今間に合うかどうか)
アリアは足に力をこめ木々に飛び乗って進んでいく。
「策を練るか」
アリアはリスウェルを一瞥する。
木々から飛び降り、落下する体に身を委ねる。
風が髪を揺らす中下に手を伸ばす。
そこへリスウェルがぐるりと下に入りこむ。
伸ばした手がリスウェルの肩を掴み、アリアはその背に乗っかった。
「このままカイに追いつけるか?」
「不可能でございます」
「距離を維持したままだったら?」
「それなら可能かと」
リスウェルは片目を開け、余裕のない声で言う。
まばたき一つせず、瞳を忙しなく走らせる。
(リスウェルは透過と分身を使って地下構造をマップにして記憶していってる。地道に一歩ずつ。だから局所的に地の利は五分。頭の容量で使える分身一体、二体が限度だとしてもこっからカイまでおおよその距離が分かれば、)
「カイはこの地下構造全てを把握している。かも知れないじゃなく機械でもあるカイなら可能だ。ならもしカイの立場に自分がいたなら通る道は常に?」
「最短経路」
「そう。そして、最とつく名前通りその道は一つに絞られる」
「えぇそうですね。ですが、それが何の役に?」
「その情報さえ分かれば、ここから足止め出来る」
「なッ。まさか、狙撃なさるおつもりで?」
「いや、剣で穿つ」
その言葉に両目を開き、心底驚いた様子でリスウェルは声を大きくした。
「この距離で、動く相手に当てるのですか!?」
「イエス」
「ッそれでこそ我がマスター」
(カイが機械的な何かでダブレスの居場所を知るように、こっちも最下層の名無しさんたちを使って場所を知れる。運良くつけてあるリスウェルの分身を使って)
「最下層手前、そこでカイを穿つぞ!!」
「かしこまりました」
「試す剣主の意志創造」
挑戦的な笑みを浮かべ、人差し指を上に向ける。
持っていた剣は粒子状に指先に集まっていった。
(この能力は持ち手の意志のイメージをそのまま剣に反映する)
辛いものを食べればへにょへにょに。
逆に意志を固くすれば剣は硬く、ぶれない確固たる意志はしなやかさを捨てる。
(ここからカイまで伸びる剣か。何メートルだ?これ。まぁでもいけるね。リスウェルのカッコよさに俺はまだまだ遠く及ばない。カッコよさの頂きさえ全然見えないんだ。つまり、俺には無限の伸びがある)
指先に赤く光る魔法陣が浮かび上がっていく。
腕がぎりぎり通せる程度の大きさの魔法陣が。
(壁にぶつかる抵抗を減らすため小さく、それでいて足を切断出来る程度の剣先の大きさ)
魔法陣は縮小と拡大を繰り返していく。
顔を歪ませながら大きさを調整していった。
(よし、あと問題は精度。角度はリスウェルの目測だ。この距離だと剣が到着する頃には絶対人一人分以上の間隔分誤差が出る。途中で剣を制御できれば、)
「少し耳をお借りしてもよろしいですか?」
「え、うん。いいけど」
口元に近づき、アリアはリスウェルの肩に顔を乗せる。
「では」
小さく耳元で囁かれた自分の想像では考えも付かない内容にアリアは息を飲み、笑みを浮かべた。
「……ああ確かにそれならいける!!誤差は限りなくゼロだ!流石リスウェル!」
「マスターの期待に添えるのがメイドですから」
◆ ◆ ◆
通路を駆け抜けるカイ。
行き当たりにあるエレベーターを両手で力いっぱいにこじ開け中に。真っ暗な中、カイは落下する。
(戦闘するメリットは皆無。今、優先すべきはマスターの安全)
暗闇をものともしない目に地面が映る。
カイは手のひらを壁に向けた。
(残存魔力量およそ65%。光線の使用可能範囲内)
手のひらの真ん中、丸く跡のついた部分がスライドし、穴が露出する。瞬間、手のひらの穴から眩い光が放たれ空間を照らした。
光線が放たれる。
光は壁に穴を開けながら落下する体によって縦に亀裂を作る。熱線でどろどろになったそこに片方の手を突っ込むとカイは自ら光線を消した。
すると、熱線による溶解は途絶え、落下により壁を手でバリバリえぐりながら勢いを殺していく。
完全に止まり、着いたそこは地面に最も近い最下層の一階手前。同じように扉をこじ開け、最後の階を駆け抜ける。
通路の両隣、透明な強化ガラスの壁越しに異形の形をした珍妙な獣が多数目に映る。それと同時、背後からつきまとうリスウェルの姿がガラスに反射し目に入る。
(魔獣保護区域。これらの魔獣でリスウェルを撃退。……否定、貴重なサンプルを当機の独断で放つ権限はない。ここでの戦闘も非推奨)
カイは下を向く。
そこには人には見えない足跡がはっきりとカイには映り、何度も何度もここに訪れては実験を繰り返し苦悩するダブレスの姿が頭によぎった。
(それにもう着いた)
一直線な通路から広々とした空間へ。
真っ白な壁に浮くように、人二人分の高さはある真っ暗な両開きの扉が目の前に見える。
硬いもの同士が一定の間隔で当たるように足音が響く。
「鬼ごっこは終わり」
扉の前まで跳び、着地と同時に片足を地面に強く押し付ける。足と床で火花が散り、減速。
丸みを帯びたドアノブを両手でしっかりと掴んだ。
「今、行きます。マスター」
扉を引く。
心臓のないはずのカイは鼓動が早くなる感覚を覚えた。
「!?」
その時、右膝の裏を掴まれる感触にカイの体は硬直した。
しかし、すぐに最適解を算出。
躊躇もなく原因の部分に手を伸ばした。
振り返り、視界に映る光景。
掴まれた正体、手首から先しかない手を見て、頭の上の輪が紫色に色を変える。
(手。微弱な魔力からリスウェルと推測。何故?……時間稼ぎ。透過の付与。爆弾物の設置)
くっついた手を引っ張り離し、勢いよく放り投げる。前を向き、急ぐようにして扉を引いた。
「今はマスターのもとに」
瞬間、カイの右足が宙に吹き飛んだ。
膝裏が爆発したように突然、足先まで感覚が消えた。
遅れて音が聞こえた。
天井を貫き膝を断ち、地面に何かが突き刺さる轟音が響いた。
「剣」
顔を後ろに向ける。
そこにあったのは地面に斜めに突き刺さる一振りの剣。足を切断した柄の見えない刃だけの剣だった。
遅れて瓦礫が崩れ落ち、片足を使って横に跳び回避する。
(何故。あれほどの威力で魔力によるセンサーは機能してない。つまり、あの剣は魔力ではなく金属)
突き刺さったままの剣を眺めながら、カイは壁を使って立ち上がる。
そして、ある事に気がつく。
「アリア。能力行使からの剣を取り出す所要時間は他の能力と違って長かった。単純な武器の取り出しではなく生成なら納得」
火花を出し、ケーブルむき出しの千切れた足を見る。それでも、カイは前を向き足に力を込め片足で跳ぼうとした。
しかし、扉は半分瓦礫でふさがっていた。
それに加え、魔獣保護区域から跳んでくるリスウェルが前を阻む。
「何故ここまで剣が届くか知りたいですか?」
「いい。時間稼ぎには付き合えない」
「そうおっしゃらないでください。ためになりますよ?何故ジャストで足を切断できたかなど」
そう言うリスウェルめがけて片足で跳ぶ。
手のひらを開き、光線を躊躇なく放つと頭部を跡形もなく破壊。
分身をいとも簡単に消滅させた。
「先回りし地下構造を把握。壁を破壊して進まなかったことから扉を引くために無防備な時間が生まれるのは必然。手は分身の位置把握を使った目印」
「すごいね。そこまで分かるんだ」
通路から聞こえたアリアの声。
そこに向かってカイは瓦礫を放り投げる。
「機械だから」




