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終末世界で明日を見る  作者: がみれ
第三章「欺瞞の渦と波乱の予感」
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第七十一話「限界の先」

 ひらけた地下空間でキューブは俯く。

 片手を地面につけ、前傾姿勢に。白い光を手と足に集めていく。


「あっそう。じゃあ試すよ」


 そう言って一秒の時が過ぎた。


(違和感。勘、いやそんなんじゃねえ。何でこの距離で速攻決めに来ねぇ。回避の余裕作る悪手だろ)


 東谷は一歩前に踏み出す。

 床に亀裂が入り、緑色の光が壁や床、天井を伝い通路内に広がっていく。


(なら、魔力に聞くしかねぇなあ)


 光がキューブに到達した瞬間、東谷は感じ取る。


 キューブの足元の魔力。

 厚み一センチメートルの魔力の層が何重にも積み重なって出来た魔力の塊を。


(貯めてやがったのか、魔力を)


 それを感じ取った瞬間、塊は風船のように弾け東谷の目の前にキューブが現れる。


(速い!!)

(速ぇ!!)


「東ッ!!」


 天翔が手を伸ばす暇もなくキューブの手が東谷の頭と心臓部に触れる。


 眩い光の斬撃が触れた後から降り注ぐ。

 押さえる指の隙間で東谷と天翔の目が合う。


 その瞬間、頭部がバラバラに消し飛ぶ。キューブ状になった血が吹き飛び、骨や肉も残さない。


「これはッ」


 だが、胸の辺りは骨を分解する所で止まる。

 血肉の赤を見ることが出来ないほどに覆われた緑色の魔力によって。


「直前で魔力をッ」


 白い光が消え、キューブは手を離す。


「ッ!?」


 その瞬間、キューブの頬に拳がめり込む。

 正面、脳みそのない東谷の手がキューブを殴りつけた。


 咄嗟に後ろに下がるキューブ。

 ヒリヒリとした痛みに頬を手で触れ前を見ると、東谷は前に倒れ込んでいた。


 その腕にははっきりと緑色の魔力が込められていた。


「魔力の反発のみで腕を。いや、それよりこの感触って」


 血一つ付いていない手のひらを開いたり閉じたりしてキューブは動きを止める。


 天翔はその隙に東谷に近づいた。

 赤い地面に膝をつけ、東谷の体を仰向けに動かす。


 内臓が外側に出そうになるのを手で押さえ、気持ち悪い生々しい感触と裏腹にまだ温かいその体を天翔は覆いかぶさるように抱きしめる。


「本当に一か八か。次上手くいくなんて限らないのに」


 目元が熱くなる。

 天翔は血の赤の先、胸の中のあるものをその手に掴んだ。


 その瞬間、両腕で抱えられないほどに巨大な緑色のボックスが二人の頭上に出現する。


「なッ…これは」


「流石に限界かッ」


 天翔の左手から上に亀裂が広がる。

 腕を伝い首を伝い、右目にまで広がると桃色の炎が亀裂から噴き出る。


 その瞬間、キューブの思考は目まぐるしく回った。


(どこからそんな魔力を。いや、問題はそこじゃない。なんでこれを出して)


「まさか、そんなはずッ。頭を潰したんだぞ!!」


 必死の様相でキューブが飛びだす。


 天翔はそれを横目に、緑色のボックスを四分割に。その内一つが事細かい粒子状になって二人を囲み、四角い結界の壁が展開。


 キューブはその場で足を止めた。


 白い魔力を込めながら、結界を叩くキューブ。

 能力を行使し放った斬撃は壁に傷をつけるが、ヒビは入らない。


 金棒が緑色の粒子状に。

 緑色のボックスに取り込まれていく。


 外から中を呆れたように眺めるキューブ。

 その頬には汗が浮かんでいた。


「まさかだよ。まさか。前代未聞。半分魂喰霊、半分人間とか。予想も何もない」


 天翔が掴むそれ。

 東谷の胸辺りから露出した黄緑色に輝く核を見てキューブは言う。


 ただし、それは半分に真っ二つにされた核の片方。


 緑色のボックスから糸の形で魔力が伸び、傷口に触れていく。


「いや、色が同じなら属性も……」


 魔力が徐々に積み重なり、変形し血肉の形を成していくと、東谷の体はみるみる再生していく。


 それと同時、傷口以外に亀裂が走った後のあざのようなものが目に入った。それも全身に。


 数秒の時が過ぎ、見ているしかないキューブは片目を瞑り、額に手を当てる。すると、ぶつぶつと一人言を呟き始めた。


「属性は一緒。反発ゼロなら半分の核で魔力を供給。あのボックスの大きさはそれ由来?いや、半分?」


 キューブはハッとして目を見開いた。


「ッまさか!!その男は既に死んで魂喰霊に。体内に生成されたその男の核の半分を喰らったってい、うの!?」


「正解。馬鹿じゃないみたいだ」


 天翔は苦しそうに言葉を放つ。


「どうかしている。仲間の死肉を食うのと同じだよ、それは」


 拳を握りしめ、キューブの声が少し震える。


「君にも善性があるんだね」


「………」


 キューブは握った拳を開け、口を小さく開ける。

 すると、ふっと笑い上から目線で余裕ありげに言葉を放った。


「助けないっていうのは?」


「それは東谷の考え。僕は違う。人を助けられるならそれでいいんだ。どうなろうと」


 ほんとうに嬉しそうに笑みを浮かべる。


「イカれてるよ、やっぱ。悪役に向いてるんじゃない?その狂気」


「この世界に悪役がいるとでも?」


「それもそうだね」


 東谷の胸が元通りに。

 頭のない死体が血を地面に垂れ流しながら、自らの力で起き上がる。


 耳の下まで肉体が盛り上がる。

 すると、まだ頭のない東谷の口が開いた。


「こういう感じか。死体が気味悪く喋るってのは」


「脳みそは?」


「いらねぇな。核が無事なら頭が回る」


「よし。じゃあ、これで共闘を」


 立ち上がろうとした天翔だが、膝から崩れ落ちるようにして前に倒れ込む。


「動くんじゃねぇ、天翔。てめぇの役目はやり遂げてんだ。下に行け」


 天翔に目もくれず、東谷は下に指さす。

 すると、前へ歩き始め、歯を見せるように笑みを浮かべた。


 体がバラバラになりそうな痛みを感じながら、天翔は小さく笑う。


「足手まといか。わかったよ。全部持ってけ。僕の分も」


 血が亀裂から噴き出ながら、天翔は膝を掴んで立ち上がり、東谷の背中に拳を当てた。すると、背中が緑色に光り、頭部は一気に膨れ上がり再生した。


「勝てるの?」


「ちげぇな。言葉が」


「……ああ、そうだったね。勝てるな?」


「ああ、任せやがれ!!」


 ◆ ◆ ◆


 アリアとカイのいる上層にて。

 火花が散る。行き止まりの通路にて、アリアは仰向けに倒れ込む。


 上に振り上げられた光の斧を目の前にアリアはギョッとした顔で剣を構える。左手で刀身を支えて。


「終わり」


「いーや、終わらないね」


 余裕のない笑みを浮かべると、振り下ろされた斧に剣が叩きつけられる。


 衝撃にアリアの体が床にめり込み1、2階の床ごと下へ吹き飛ばされた。


 間髪入れずカイも穴に飛び込み、後を追う。


「この先は庭園。わざと?」


「そうですね」


 まるで最初からいたかのようにカイの横でリスウェルは呟く。カイはそれに一切の反応も示さず緑の草花に降り立ち、その場が窪んだ。


 木々から花びらが舞い落ちる。

 カイが全方位を見渡す。視界には木々と草花のみがあった。


「視覚情報から推測。足跡なし。リスウェルによる浮遊と推測。魔力、熱源探知に移行……対象……なし」


 カイの視線が揺れ動く。

 だが、瞬時に足を広げ斧を横に構えた。


 直後、背後の草がザザッと音を立てる。

 持ち手を逆に。迷いなく振るう斧は背後に立つリスウェルの胴体を真っ二つに切り裂いた。


 同時、カイの視界に頭を下にし落下するアリアが目の前に映り込む。


(リスウェルを死角に上階へ潜伏。上下方向への探知範囲拡張を次に学習)


 剣を脇に引きつけ、切っ先を斧へ向けるアリア。

 ある一点を貫く姿勢にカイは自ら斧を手離した。


「まずッ」


 剣は斧の持ち手を突き刺し、粉々に破壊。

 そのまま地面に剣が突き刺さる。


(勢いで剣が抜けない!!)


 一秒にも満たない時間、逆さになったアリアはがら空きの胴体を相手に見せることになる。


 カイの機械の手がガチャっと金属の音を立て握り込まれる。腕部分が赤く熱を帯びる。すかさず拳が迫る。


「リスウェル!!前後に!!」


「承知しました」


 地面を透けて二体のリスウェルが現れる。

 アリアを挟み込むよう前後に。アリアはリスウェルの脇腹に剣を持たない腕を回り込ませがっしりと掴んだ。


 拳はリスウェルの腹にめり込み、二人を吹き飛ばす。その時、アリアは剣を離さなかった。


「くっ……」


 剣が地面をきり裂きながら、吹き飛んでいく。

 剣から伝わる振動と衝撃にアリアは片目を瞑る。手の感覚がなくなっていく。


 それでも背中から伝わる力にアリアの腕は徐々に楽になっていた。


(分身とはいえ成人女性一人分浮かせられる浮力。それを二人分だぞ。どんな力して)


「木に当たります」


 アリアは体を固めるように全身に力を張る。


 ドガンと幹から折れ、後ろに木が倒れ込む。

 そこで二人は止まった。


 背中の衝撃にアリアは座りこみ、胸元を掴んで咳き込む。


「あの者は地下に向かっております。少し休んでも追いつけ」


「いーや、駄目だ」


 言葉を遮り、リスウェルが差し伸べた手を掴んでアリアは立ち上がる。


 地面に埋まった剣を引き上げ、汗を浮かべる顔を上げ一歩前に踏み出す。


「ここで休むのはカッコよくない。それにこのまま機械人と会わせれば、最悪命令で殺し合いになる。それだけは止めなきゃ」


「……なぜですか?あの者を止めなきゃいけない理由がそこまであると?」


 両目を開き険しい顔でリスウェルは言う。

 だが、リスウェルと同じくらい真剣な強い眼差しでアリアは言う。


「カイが殺人者になる」


「それでもです。わたくしたちが間に合わない最悪で機械人も相手になればアリア様が死んでしまう可能性だってあるのですから」


「ご主人様をメイドが死なせていいのか?」


 その言葉にリスウェルの表情が緩む。


「……それはずるい言葉でございますね」


「ごめん。死なせないための提案だってのは分かってるんだ。でも!」


「わかっております。その心に全力で応えるのがメイドの役目」


「いいのか?」


「わたくしに気高きカッコよさを見せ続けるマスターである以上は」

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