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終末世界で明日を見る  作者: がみれ
第三章「欺瞞の渦と波乱の予感」
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第七十話「Profile:東谷&天翔」

 数年前。

 彼ら二人はとある国で最悪の出会いをした。


「てめぇのせいでうちの仲間が借金まみれになってやがる。どういうことだッ!!!」


 ガシャンと木製の机が縦に割れる。


 ソファに足を広げ座る東谷は机を拳で叩き、目の前の男を睨みつけていた。


 その男とはソファの背もたれに後ろから乗りかかり、余裕そうな笑みを浮かべる天翔だった。


「どうもこうも、君たちが僕の商売に乗っただけだからね。怒鳴りつけるのはそっちだよ」


 東谷の後ろで肩身を狭くする包帯まみれのガタイのいい男たちを指さし、天翔は言った。


「こいつらはもう殴ってんだよ。次はてめぇだ。ぶっ殺す」


「おぉ、怖い怖い」


 額に筋を浮かべ、東谷は立ち上がる。

 天翔は動じず、眉一つ動かない。


 互いの鼻が触れ合う距離にまで顔を近づけ、東谷

は眼光を強め言葉を放つ。


「あまり舐めんなよ」


「それは、一演技打ってほしいって意味かな?」


「……」


 目線をそのまま数秒保ち、東谷はまばたきすると窓辺に体を預ける。吐き捨てるように言葉を発した。


「………スネークチェインだ。本命は」


(おっ意外に冷静。馬鹿じゃないか)


「この街一のギャングに何をしたいって?スパイ的なのならお安い御用だよ」


「殴り込む」


「話は却下だ。僕は帰って寝る」


 振り返り、天翔はドアノブに手をかける。

 その時、ジャラジャラと大量の何かが机にばら撒かれたのが聞こえ、ドアノブを捻る手を止めた。


(ざっと125。いや、ありえないな。どこの富豪だって話)


 天翔は振り返る。

 すると、床にばら撒かれた黄金に目を黄色に輝かせ、地べたを這いつくばって一つ掴んだ。


 裏表を確かめ、顔を上げる。


「これは奴らから奪い取ったやつだ」


「よしやろう。何をすればいい?僕は一生君の味方さ」


 東谷の手を両手で掴み、ぶんぶん手を振るう。

 それを見て東谷は嫌な顔をする。


「それでいいのか…詐欺師。足元見られてんぞ」


「見せてるんだよ。あえて」


 わんぱくな少年のように釘付けになった天翔に東谷は頭をかいた。


「じゃあ、行くぞ」


「えっ、今!?」


「カードは揃ったんだ。絵札を見られるより先に動くほうがいいだろ」


「……まぁ、そうだね」


 外に出る。

 西洋風な街並みを歩き、人通りの少ない路地に一歩踏み出す。そこからは空気が一変する。


 どろどろと鬱憤した空気の中、希望の光がない虚ろな目をした人間が地面に座りこみ、ずっとこちらを見てくる。


 まるで来訪者を沼に引き釣りこむような目だ。


「いや〜変わらないね。ここも」


 それを知らないといった様子で天翔は爽やかに言う。東谷は天翔の顔を一瞥し、前を向いた。


「ほんとにな。反吐が出る」


「やっぱ、行政が悪いよね」


「それもあんだが、一番は奴らだろ」


「へぇー、それが理由?」


「……」


 通りを抜け、家が一様ではないにしろ軒を連ねる。


 その中で古びたある一軒家の扉を東谷は叩く。


「ここが敵拠点の侵入口?」


「いや、違ぇ」


「お兄ちゃーん!!!」


 勢いよく扉が開かれ、満面の笑みの幼い少女に東谷は抱きつかれる。


「わーお」


 手をたたき、天翔は後ろに下がった。


 後から遅れて二人の少年が扉から身を乗り出し見ると、てくてくと歩き抱きついた。


「「お兄ちゃん。今日は一緒にいよ」」


 可愛らしい声で二人の少年は言う。

 しかし、東谷の体はガチガチに固まっていた。ブリキの人形を動かすように首を回すと、天翔を見て掠れた小声で言葉を放つ。


「どうしたらいいんだ?わっかんねぇ」


「いや、僕に聞かれても」


「ねぇねぇ、お兄ちゃんはお兄ちゃんの友達?」


 少女は顔を覗きこみ聞いた。


「ううん。違うよ。仕事仲間」


「仲間って何?友達ってこと?」


「う〜ん。仲間は目的のために犠牲を考慮に入れていい相手。友達より残酷な関係だよ」


「おい。偏見混ぜんな。悪影響だろ」


 東谷が何かが入った布袋を少年に預けるのを見て、天翔は口を開け、心の中で「あー」っと納得する。


「ってことだから悪影響な僕はこれ以上関われない。東谷、さっさと行くよ」


「指図すんじゃねぇ。お前らも今日はこれきりだ。いいか。絶対に隠せよ、それ」


 袋を指さし、東谷は言う。


「「分かった。待たね」」


 少年二人は家にそそくさと帰っていく。

 残った少女は天翔の手を強く掴み離さない。


「ん?何?」


「いい人の匂いがする。お兄ちゃんと同じ」


「匂い?」


「ほら、てめぇもさっさ帰れ。お化けが出んぞ」


「ま、待ってよ」


 扉を閉めようとする東谷に少女は駆け足になる。

 家に入り、扉から少女は顔を出す。すると、


「待たね」


 ニコっと笑って少女は自ら扉を閉めた。


 二人は顔を見合わせ、真っすぐ歩いていく。

 行き当たりには小さな湖があった。二人は外周のベンチに座った。


「それで喧嘩売る理由って?」


「聞く必要あんのか?」


「ないね。仕事は仕事だ。けど、出来る限りはいい仕事をしたいんだ。次食べる飯を不味くはしたくないからね」


 ポケットから袋に入った金貨を取り出し、ベンチの真ん中に置くと、ジャラっと音が鳴った。


「聞かせてよ。僕のために」


「…理由は単純だ。あいつらがギャングだからって違法に税、金になるもんなら何でも徴収してる。悪徳領主みてぇに女、子供も関係なくな」


「つまり、可哀想だから君は潰すと?」


 五指と五指を合わせ、天翔は下から顔を覗き込み言った。


 それに値定めるような視線を感じながら、東谷は一切ぶれず前を向き言葉を返す。


「ちげぇ。返させんだ。自分らのもん」


「それだけ?」


「ああ、そんだけだ。その後んことはここに生きてる奴らに決めさせる。って何笑ってんだ」


 口元を緩めている天翔を呆れたような目で見ると、一息つき東谷は何も言わず西の方角に歩いていく。


 天翔も同じように何も言わない。

 金の袋をポケットに収め、東谷の横に立ち、歩いていった。


 ◆ ◆ ◆


 敵拠点内ボスのいる地下の大広間にて。

 豪快に扉が吹き飛び、部屋にいる屈強な男数十人が一斉に目を向ける。長テーブルの前、椅子に座っていた奥の一人以外は全員立ち上がった。


 その瞬間、扉から二人天翔、東谷が部屋に飛び出す。


「なんだ!!てめえら!!」


「おう!!初めましてか!!」


 唐突な物音に声を上げ、体が固まったその男の腹に東谷の拳がめり込む。


 顔に汗を浮かべ、白目をむき地面にへたり込むそれの背に足を降ろし東谷は名乗りを上げた。


「俺の名は東谷!!てめえら全員監獄にぶち込む正義のヒーローだ!!」


 正面二メートルは優に超えるボスらしき男に向け、警棒を向ける。


 中の男どもはそれにぎょっとした顔をした。


「やべえ、あの身なりにあの武器。間違いねえ。さつだ!!」


 帽子のつばを掴む警察の恰好の二人に前の連中は後ずさる。


 しかし、ボスに近い男どもは動かない。手に武器を持ったまま一切視線をぶらさなかった。


「何ビビってんだ?それでもこのスネークチェインの一員か!!!!」


 ボスの喝に部屋全体が揺れる。

 直後、ボスはテーブルにかかとを当て押した。それだけでテーブルは弾丸のように空気を切り裂き水平に吹き飛んだ。


 同時、東谷の背後から投げられた短刀がテーブルを擦り、中央に一線の切り込みを作る。それに東谷はにやりと笑った。


 警棒を放り投げ、自らの拳を迫るテーブルに上から下に振り下ろす。


 すると、テーブルは縦に真っ二つにバリっと割れた。


「雑魚はどうでもいい。釣り合ってんのはてめぇだな」


 顔を上げ、東谷はただ一つの男に鋭い眼光で睨みつける。


 ボスは立ち上がり、上着を脱ぎ捨て前に出た。東谷も同じように前に出る。互いに手に持つ武器はない。あるのは拳のみ。


「おめぇら、あれとは手を出すな。背後をやれ」


 ボスに近い男どもは指示された瞬間、壁に沿って広がった。


 一斉に拳銃が天翔に向けられる。


 東谷は頬に一滴の汗を浮かべ、半身で一瞬振り返った。


 一秒にも満たない光景が目に入る。

 その光景に東谷は目を見開き迷いなく前を向いた。自信に満ちた笑みを浮かべて。


 ボスはそれに不機嫌な顔をした。


「なんで笑ってやがる。お仲間がくたばんだぞ」


「そりゃあ、くたばんねぇからな。マイナスの顔にはなんねぇよ」 


 東谷は見た。

 親指を上げ、人差し指を前に向ける天翔の合図。 

 OKとGOの言葉にしない二文字を。


「やんぞ!!天翔!!」


「ああ!!東谷!!」


 目の前、振り返らずサムズアップする東谷を見て天翔も同じ表情をした。


 両陣営、己の得物が同時に飛び出し、開戦の火ぶたが切られた。


 ◆ ◆ ◆


 それから数年。

 荒野に立った二人は双眼鏡片手に街を見下ろす。


「あそこにいんのか。一匹狼の精霊種エルフ


「間違いないね。違法な精霊種エルフの奴隷商談が暗号化されず垂れ流しだったから」


 天翔が持つ機材から、ふくよかな男の声が耳障りな内容とともに聞こえる。


「そういうのは頼りにしてんぜ。相棒」


「僕も。戦闘と勘に関しちゃ君以外に適任はいない。信頼してるよ、親友」


 腕は交わし、二人は荒野を駆け出した。

 赤茶色の砂埃が舞う中、街の近くまで近づき岩陰に隠れる。


「俺らはこの先精霊種エルフを相手にする」


「目標は戦争阻止。人間相手に恨み、憎悪が募らないよう各個撃破&保護か。お優しいねー」


「かく言う天翔、てめぇもついてきてんだろ。おめぇも俺と同じお人好しだ」


「だね」


 目元から優しい笑みを浮かべ、目の光が東谷の目に映る。東谷は顔を逸らし、街の方を覗き込んだ。


 街に入る通りの中。

 そこには屈強な男が持つ金属の鎖に繋がれ、首輪をつけた子供の奴隷が縦に並んでいた。


「だが、いくら強ぇ俺でも精霊種エルフ相手じゃお前を守りきれる保証がねぇ。だから」


「だから、遠くで見てろって?それじゃあ、僕が東谷を助けられない。…わがままを言っていいかな?」


「なんだ?」


「僕に何があっても助けるな。これで全部解決だろ?もしかしてお優しくて出来ない?」


 にやりと笑い、上から目線で天翔は言う。

 それに東谷は額に人差し指を近づけ、額をデコピンで弾いた。


「痛ってぇ、何すんだ!!」


 赤くなった額に手を当て、天翔は前のめりに言う。


「試すな、いちいち。少なくとも俺にだけは」


「………分かったよ。悪かった。じゃあ、出来るな?」


「あぁ、当たり前だ」


 目で合図するまもなく二人は岩陰から姿を出す。

 瞬間、屈強な男と奴隷との間に繋がれた鎖が投擲された短刀に断たれ、男は顔に汗を浮かべる。


「なんだ!!てめぇら!!」


 その言葉を発した時、東谷は男の懐に潜り込んでいた。あごに向かい重たい拳が振り上げられると、鈍い音とともに男は吹き飛ばされ、ごみ袋に背中をつけた。


「さぁな。地獄にいるお仲間に聞きやがれ」


 次々と鎖を断つ天翔は皆を解放しながら東谷に軽々しく聞いた。

 

「ねぇ、もし子どもが誰も苦しまない。そんな国を作れるなら、東谷は作る?国」


 それに東谷は胸を張り即答する。

 

「ハッ、言うまでもねぇ。それが俺の理想だ」

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