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その56 道に迷ってしまいました

その56


そこは白い大理石を惜しみなく使った建物だった。


国境の町マルボンの中で最も大きく立派な建物だ。


ステンドグラスには太陽と月、そして星が描かれ、祭壇には3柱の女神像がでーんと鎮座している。


月神と星神は天の声の関係で女神とされているけど、太陽神は性別不明とされる事が多い。


ただ国や神殿によっては男神だったり女神だったりと、解釈の違いと言うかイメージの差で扱いが違ったりする。


で、ここレイ・ラーサでは三柱ともに女神として扱われているという訳だ。


今私が居るのはアースタ王国から見るとマルボンの中央よりやや北側にある神殿の中だ。


この国レイ・ラーサはほぼ宗教国家みたいなものだ。


王や王族、貴族何かも普通に居るけど、その何割かは神殿内でも役職を持っている。


確か現在のこの国の神殿で最高位にある大神官長は王族だし、日の巫女、月の巫女、星の巫女と呼ばれる最高位の巫女たちも王侯貴族出身らしい。


で、今回の様に貴族や騎士団が絡む事件となると、マルボンに駐屯している国境警備担当の騎士団や軍では対応しきれず、神殿の管轄になるらしかった。


結局あの後試験は無事?に終了し、私達はラルやフラウ、町の人々とも合流すると空魔法で扉を作って戻ったんだよね。


勿論襲撃を受けていた三人組と戦士風の青年ヴィル、神官戦士の女性レイリア、神官風の少女エーナエルトたちやハナルとか言う騎士らしき男も一緒に。


流石に森の中で放置とはいかなかった。


で、アウルさんや例の三人組と話し合い、神殿へ向かう事になったんだよね。


で、第八騎士団の副騎士団長らしいハナルをマルボンに駐屯している国境警備の騎士団や軍に引き渡しても、上手い事丸め込まれるか有耶無耶にされてしまう可能性が高いんだって。


となると、もう一つの司法機関とも言える神殿に引き渡した方が良い結果が得られるだろうって話になったんだよ。


国や貴族たちとは別系統で神殿騎士団なんてものもあるそうだし。


それに襲われた三人組のうち、レイリアとエーナエルトは神殿関係者らしいから、その点でも神殿が良いだろうってね。


神殿に居た神官にアウルさんが事情を説明しハナルを魔法で拘束したまま神官騎士に引き渡した。


エーナエルトの冷たい視線を受けてハナルはシュンとしている。


どうやら知り合いっぽいね。


「あと一時間程で魔法は解除されます。よろしくお願いします」


神殿の奥からやって来た神殿騎士にそう言ってハナルを引き渡すと、私達は応接室のような部屋へ通されそこで大まかな事情を聞かれる事になった。


さして待つことなく神殿騎士の隊長格と思われる男性と神官長らしき人が部屋へと入ってくる。


私達は席を立って軽く会釈をしたけど、二人は私を見た瞬間目を見開いてて、またかと思ったけど仕方ない。


彼らにとって神々に関わる事象は他の一般的な国の人たちより遥かに意味合いが深くて重い。


特に神殿に属する人達は一部を覗いて並々ならない位になるっぽい。


二人はしばらくアワアワしつつもキラキラした目を向けて来てたけど、ハッと今何をすべきか思い出した様で、「ど、どうぞお座り下さい」と言ってくれたのでソファへ座る事に。


そして神官長は静かに室内にいる他の面々にも視線を向け三人組、特にエーナエルトを見ると、今度は私に対してとは違う驚き方をしていた。


「ラーサル家の姫巫女殿が?あなた様は確か本神殿に向かわれたのではありませんか?」


神官長の言葉にエーナエルトは苦笑して、


「道に迷ってしまいました」


と説明し始めた。


元々公爵家の長女にして月影の聖女と言うギフトを賜ったエーナエルトは、ある神託を受けたという。


それに従い元々神殿繋がりで懇意にしていた二人組の冒険者、ヴィルとレイリアに護衛を依頼しラーサル公爵領の領都であるラーサから旅に出た。


一部反対する声もあったが、月神の神託を蔑ろにするような者はこの国には居らず、また3と言う数字はこの国において特別な意味を持つ為、3人パーティという形での旅となったらしい。


いや、公爵令嬢を護衛二人とか聖なる数でも駄目だろうよと思ったけど、神託も関わってるし〜と許しが出たのは仕方ない。


そしてラルヴァナの町へ向かう途中、首を手に持った騎士や真っ赤に目を泣き腫らした老婆など異様な姿の魔物たちに襲われ、どうにか森へ逃げ込んだらしい。


デュラハンやバンシーじゃん。


もろに妖精王絡みじゃん。


そうして2日ほど森の中、魔物を倒しつついる彷徨っているうちに謎のってかハナルの率いる集団から襲われ、そこへ私とステラが助けに入ったと言う。


私とステラも見たままを証言した上に、アウルさんの目撃者だった事もあって特に疑われる事もなく、何なら「聖女たちを助けてくれてありがとうございます」と深々と頭まで下げられて感謝されてしまった。


「今から宿を取るのは大変でしょうから、是非こちらにお泊まり下さい」


大神官長さんが全身から大歓迎のオーラを溢れ出させて言い出したけど、私達は丁寧にお断わりさせて頂き神殿を後にした。


アウルさんに宿屋街を教えてもらい、神殿の前で別れる際には、


「本日の試験内容を鑑みるに冒険者との模擬戦は必要ないと判断しました。

等級に関しては明日の昼以降にお伝えしますのでギルドまでいらして下さい。

本日はありがとうございました」


と礼を言われた。


宿屋街は町の南と北に多くあるそうで、商人や冒険者向けの物は南に多いらしい。


神殿を出たのは午後7時近く。


夕食を食べてる最中の人も多い時間帯だし。


北側の方がちょっとお高い分、この時間でも部屋が空いているかも知れないのでそちら側へ向かう事になった。


最悪食事は収納から出す事にしても、お風呂に入ってフカフカベッドで眠りたい。


「おっし!とっとと宿を決めちゃうぞ!」


「おーっです!」


「サラ様の逗留なさる宿でしたら、それなりの格と言うものが必要ですわね」


「肩が凝らない宿が良いな」


そんな事を話しつついくつか宿屋を巡ると、4軒目でやっと空室が見つかった。


一人二人なら兎も角、四人でこの時間だと中々難しいんだよね。


かなり高級感のある宿だったけど、受付の人が私の姿を見てハッとした顔をした後、滅茶苦茶丁寧に部屋へ案内してくれた。


貴族も泊まる様な宿だったのと、人数の関係で主寝室や使用人部屋を含めて5室ある部屋を借りる事になったのだ。


かなり豪奢なリビングで収納から取り出した食べ物や飲み物を皆で囲んで食べていると、ステラが「そう言えば」と言いつつ私に声を掛けてきた。


「サラ様、もしかして隠蔽の常時使用を解いているか、設定を間違っているんじゃないです?」


「え?鑑定されても平気な様にいつも使ってるよ?レベルにスキル、種族でしょ…あと見られたら困る称号に…あれ?」


ステラに言われてスキルを確認してみると、何となくステラの言っている意味が分かったよ。


完全に気配を消す隠形時などは兎も角として、通常加護などを隠す必要はない。


この国の様に神気に敏感な人々が多い国でも無ければだけど。


アースタ王国では月神の眷属となった辺りから天人姿で動いていたので、余計に気にしていなかった。


天人は亜神扱いされる事もある上に、アルディーヴァ辺境伯領では天女の伝承まであるので特殊な目で見られてもそんなもんだ位にしか思っていなかったし。


「うん、神気や加護に関しては隠蔽発動させてなかったね」


「さすがは主様!

溢れんばかりの高貴なるそのお姿に人々が歓喜し平伏するのは当然の事ですわっ!」


フラウが一人なんか言ってるけど、それ違うからね?


「やっぱりですね。

神獣となったラルですら神気をちゃんと抑えているのに、色んな人がサラ様を見てキラッキラした目をしてたから変だと思ったのですよ」


「隠蔽は意識せねば隠せぬからな。進化前と今では別の存在になった。

比べてみれば何処が違うのか意識するのも簡単だったぞ?」


「うっ。まぁ原因は分かったんだし、隠蔽範囲に加護や神気も含めたからもう大丈夫なはずだよ!

それよりあの三人を襲った魔物たちってあれ、デュラハンやバンシーだよね?

妖精王が整えた舞台ってあの三人に関わるものだと思うんだけど、奴らの感じからすると他にも種を蒔いてる可能性もあると思うんだよ」


そう、隠蔽をミスってたのを誤魔化している訳じゃなくて、さっきから気になっていた事を話してみた。


話題のすり替えじゃないからね?


「確かに。妖精王は面白がりな上に陰険な面があるのですよ。

そこに亜人王まで居るとなると何かやろうとしている可能性は高いと思うです」


「サラ様にかかればあの様な連中、ぐちゃっとしてポイですわ!」


「どの様な計画なのかは全く分からぬが罠の可能性は高いであろうな」


また一人だけ違うことを言ってるけど、概ねみんな同じ意見って事でいいかな?


「だからね、こうしようと思うんだ」


私が今後の活動に方針を話したら、それぞれ一部納得出来ないらしくて夜中まで掛かったけど、どうにかこうにか決まり眠りについたのだった。

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