その54 回り道
その54
「あ、レイ・ラーの町が見えてきたね!見つかる前に降りようか!」
私が遥か遠くに見える防壁に囲まれた町を指差した。
「ん?待つのです!レイ・ラーはレイ・ラーサの首都ですよね?
町にはどうやって入るつもりですか?」
はっとステラが何かに気付いた様子で、私へとそう問いかけて来た。
「そりゃ、冒険者カードを身分証にすれば入れるでしょ?」
そう、冒険者はギルドがある国へなら比較的自由に出入りが出来るのだ。
「いやいやいや。
冒険者カードがあっても国境の検問をまともに通らず山脈を超えて入ったら、不法入国者で捕まるんじゃないですか?」
「あっ」
「主よ、落ち込むな。我も言われるまで気付かなかったぞ」
ステラの至極まともな発言に、ちょっと凹みかけているとラルが慰める様にそう言ってくれた。
いや、元々オークジェネラルで今は謎の神獣が気付かないのは仕方のない事なんじゃないかと思うんだけど。
辺境伯領都であるアルディーヴァに入ったときは、辺鄙な村の出と言う事でスルッと町に入り冒険者ギルドに加入する事が出来た。
あの時は一人だったし、兵士も国内の辺鄙な村だと思っていただろう。
でも今回は明らかに隣国であるアースタ王国の冒険者ギルドで登録した冒険者である事がバレバレだ。
この身分証を提示したら密入国扱いになるなる可能性が高いのは眼に見えてるやね。
「んー、なら辺鄙な村から来ました作戦で押し通し、新人冒険者として登録するのはどーよ?!」
「私達、特にサラ様はかなり目立った行動をしまくってます。
隣国の間者や行商人から情報が入っているかもですよ?
素直に国境の検問を受けた方が後々面倒にならなくて良いと思うのですが?」
ステラの言う事はもっともだった。
私は早く妖精王や、何よりも亜人王サティルカーリをどうにかしないとと焦ってる面があるけど、密入国はかなり罪が重い犯罪扱いなのも事実だ。
後々それがばれた時、うまく動き回れなくなる可能性がある。
変身という手もあるけど、嘘で塗り固めてしまうとそれが嘘だとバレた時に信用をすべて失う可能性も考えると、素直に国境の町を目指した方が良さそうだよね。
「むうー」
「人種の国でならばそこに住まう人種の掟に従うべきだと我も思うぞ?」
「ですよね」
という事で、ちょっと遠回りになるけど、アースタ王国とレイ・ラーサ聖王国の国境地帯へと方向転換してもらうことにした。
フラナヴァータは通常の属性竜よりやや大きい状態で飛んでもらっている。
ワイバーンやドラゴン、その他色々な空の魔物たちから襲われない為だ。
すぐに対処可能ではあるんだけど、先を急ぐ身としてはちょっとでも無駄な時間を減らしたいからね。
国境地帯は辺境伯ではなく王家が直接統治している直轄領だそうだ。
代官である子爵が統治を任されていて、それなりに大きな町と砦が作られていて軍や騎士団も常駐しているらしい。
白い石壁に囲われたその町の名はサーナムと言い、数代前の王女から名前を頂いたのだとか。
山脈が途切れ幅20メートルほどのやや大きな川が流れていてそこに橋が掛けてあり、その川の向こう側がレイ・ラーサだ。
王家直轄の町サーナムと川がかなり遠くへ見えた辺りの草原でフラナヴァータには地上へと降りてもらう。
私は人間に変身して羽衣も脱ぎ、革鎧姿になる。
フラナヴァータも竜体から人間体であるフラウの姿になった。
「人間の掟は面倒ですわよね」
「縄張りみたいなもんだよ。竜だって縄張り闘いとかあるでしょ?」
「それはありますが上位種が通る際には身を隠す者の方が遥かに多いですわ。
土地を奪われそうになれば戦うものもおりますが、大抵は尻尾を巻いて逃げるか長として祭り上げる事になる方が多いかと」
「確かにそうかも知れないね。人種は他とちょっと違うもんね」
亜人系なら里を作る魔物もいるし、竜も山などで複数生活を送っている場合もある。
縄張り意識の強い獣系の魔物も多いから、その点はフラナヴァータも理解しているのだろう。
ただほぼ同一種の集団が世界中あちこちに縄張りを作り、己たちの国として生活している環境って人間種以外まずない気がするけども。
天人やエルフ、ドワーフに竜人なども里は作るし国が存在する事もありはするけど、人間ほどではないしね。
取り敢えずフラウはちょっと文句を言いたいだけで理解はしてくれてはいたので、歩いて国境へ向かう事にした。
途中森魔猪やゴブリン、角兎なんかが襲ってきたけどラルが一人でサクッと倒し、2時間ほどで町の門へと辿り着いた。
普通の人の脚なら倍は掛かるだろうけど、ちょっとした早歩きのつもりでもかなり早いからね。
門で冒険者カードを見せて町中へと入り、冒険者ギルドへも一応顔を出してレイ・ラーサへ向かう事を申請だけして、その足で国境側へと向かった。
「レイ・ラーサへ行きたいのですが」
川側の門から出るとアースタ王国の関所があり、そこで受付をしている兵士に声を掛けた。
「橋の上は中立地帯になっていますので、川の上で魔物に襲われても我々は手出しする事が出来ません。
それでも問題ない、自衛可能と言う事でしたら身分証とこちらにサインをした後橋を渡ってください」
との事。
上は中立地帯になっていて、こちら側にアースタの、向こう岸にレイ・ラーサの関所があるそうだ。
犯罪者の取り締まりや、橋に上がってきた魔物の討伐は行われているものの、突然水中から襲ってくる魔物もいる訳で、その辺の対処は自分たちでしてねって感じらしい。
なので関所では武器を収める必要があるけれど、橋の上で武器を構えつつ歩くのは問題ないそうだ。
私達は同意書にサインすると橋を渡る。
途中水面から長いねっちょりした物が飛び出して来たけど、さっと避けつつ雷撃を打ち込んだらプカっと人間より大きな蛙が川面に浮かび上がってきたり、トビウオかよ?って勢いの2メートル近い魚が突っ込んで来たけど、ラルが拳を一発かまして仕留め私が収納して済ませたりもした。
私とラル、フラウは冒険者スタイルだったけど、唯一人ステラはヒラヒラドレス姿だったので護衛対象か何かと思われていたのか、関所で冒険者カードを提示したらちょっと微妙な空気になったけどそこは気にしないでおこうかね。
「ようこそ、旅のお方。
ここより先はレイ・ラーサ聖王国である」
簡単な審査をパスした私達をレイ・ラーサの兵士と思われる人が迎えてくれて、ざっと説明してくれた。
「通貨は都市や大きな町ならば大陸共通の物が使えるが、小さな町や村では国内通貨が基本となっている。目的地にもよるがある程度両替しておいた方が無難であろう。
この国境町マルボンにも両替商はあるが冒険者ならば冒険者ギルドで行った方が手数料は少なく済むはずだ。
それと魔物も一見アースタの弱い部類に見えて実は別種と言う事が往々にしてある。
気を付けてくれたまえ」
と親切に教えてくれた。
「はい、ありがとうございます。
気をつけてまいります」
そんな感じで挨拶してから、マルボンの町へと足を踏み入れた。
マルボンはサーナム同様砦もあるやや大きな町で、輸出入などの影響もあってか商人を中心に賑わっている。
アースタとの交流が最も盛んな町なので部外者の少ない地方の町や村と違い、住宅街でも無い限り見掛けない人だからと注目される事はあまり無いはずだけど、たまに私達の事をチラチラと見る人や、星がどうのとか月がどうのと言って祈り出す人も居たような?
何事?と思いつつも冒険者ギルドを探してみると、大通りの真ん中近くにアルディーヴァとそっくりな作りの建物があったので早速入ってみる事した。
中の作りもほぼ同じだね。
何人かの冒険者たちがこちらをジロジロと見てくるけど、面倒なのは嫌なので無視を決め込んだ。
「あの、アースタ王国アルディーヴァの町から来たのですが、両替はどちらで出来ますか?」
私は総合受付の男性職員へそう声を掛けると、こちらを見ていた冒険者たちにも聞こえたのか、
「ケッ、アースタの冒険者かよ」
「男1人に美女3人たぁ羨ましいこった」
「若えのに勿体ねえな。アースタの連中じゃ町を出たらすぐにおっ死んじまうんじゃねーか?」
「え?!!光が…あのお方は?!」
とか聞こえよがしに大きな声で話し出した。
最後のだけ違ったみたいだけど、やっぱり空へ祈りだしてるね。
天人姿ならキラッキラを何かしら勘違いする人もいるけど、今は人間に変身してるし、一体何なんだろうね?
他の冒険者達の態度も両国間のレベル差は歴然なので、アースタの冒険者がなめられるのは仕方ないかも知れない。
総合受付の男性職員はチラリと冒険者達へ冷たい視線を一瞬向けた後、
「ようこそ、レイ・ラーサ国境の町マルボン冒険者ギルドへ。
私は当ギルド職員のアウルと申します。
両替は冒険者の方のみこちらで可能ですが、確認の為冒険者カードの提示をお願いします。
またレイ・ラーサ国内で冒険者として活動する場合、等級の再試験を受けて頂いておりますので、こちらの用紙にご記入下さい」
と事務的な口調で言ってきた。
アウルと名乗った職員は、年の頃は30前後、ダークブラウンの髪と瞳を持った極普通の顔立ちだけど、愛想がないと言うか無表情と言うか、慇懃無礼とまでは言わないまでも何かこう取っつきにくい感じの人だった。
「再試験、ですか?」
ステラがやや不満そうに尋ねると、
「はい。
レイ・ラーサはアースタ王国に比べて個々人のレベルが高い者が多く、魔物の強さも同様に高い事はご存知の事と思います。
ですので例えばですがアースタ王国内での評価がC級であっても、レイ・ラーサ国内でC級の依頼を達成出来ない可能性が過去幾度となくあった為設けられた制度なのです」
と表情を全く変えずに職員はそう答えた。
レイ・ラーサの国民は一般人でもアースタの一般的なD級冒険者よりレベルが高いし、位階の基準だって違って当然と言えば当然かな。
勿論レベルでは劣っていても数を熟していたり、技の熟練度や才能何かも影響してくる訳だけど。
「ほう?そなたはサラ様を試そうと言うのか?」
「私たちの実力も分からないのです?その目は節穴ですか?」
あ、フラウの目がヤバいことになってる。
てかなんかステラも何かキレてる?
どちらも変身やら隠蔽の効果が出ているだろうから、普通の冒険者やら職員が竜だの魔王の三分の一だのとか分かんないでしょうよ。
平然としてるように見えたけど、冒険者たちの煽りでちょっと苛ついてたのかも知れないね。
「ちょっ?!フラウ!ステラ!止めなさい!」
フラウから溢れ出る魔力がギルド内の温度を一気に下げ、そのうちフーッとかしそうな雰囲気だったので慌ててフラウとステラを止めると、気温の低下はピタリと収まった。
ヤジを飛ばしていた冒険者たちはフラウの魔力に気圧されてガクガクと震えてるみたいだけど、アウルさんは眉一つ動かさずに平然としている。
あ、祈ってた人は一人腕を組んでウンウンと頷いてるよ。
訳分からん。
「二人には五十歩百歩かも知れないけど、実際アースタとレイ・ラーサでは冒険者や魔物の強さが全く違うからね?
妥当な判断だよ。
という事で受けさせていただきますね」
私は二人にそう告げた後、冒険者カードを取り出して受付台の上に置き、必要事項をササッと書類に書き込んだ。
「ラルもそれでいいよね?」
「うむ。構わん」
私の問にラルも冒険者カードを取り出して書き込み始めると、
「主様がそうおっしゃるのでしたら」
「仕方ないのです」
と二人も渋々カードを取り出したのだった。
私達は受付をしていた男性職員アウルさんと共にマルボンの外へ出ると、近くの森へと向かった。
アウルさんは試験官兼監視役のようなものだね。
そして何故か少し離れて先程祈ってた冒険者や町中で祈ってた人のうちの数名、あと冒険者の仲間と思わしき人たち等がゾロゾロと付いて来た。
総勢20名って所かな?
レイ・ラーサの民なら町近く位は平気で歩けるのかも知れないけども、大丈夫かね。
一応眷属たちには眷属魔法で何かあったら守るように伝えといた。
ほら、勝手に付いて来てても何かあったら気分悪いし。
試験の内容は単純で、等級に見合った魔物の討伐と冒険者との模擬戦だった。
本来は模擬戦が先らしいけど、手の空いている各階級の冒険者をそれなりに集めないといけないからどうしても時間が掛かる。
出来るだけ早くに受けたいとゴリ押しした結果、先に魔物討伐を済ませその間に模擬戦の相手を探してもらう事になったのだ。
川を一つ跨いだだけなので、気候はアルディーヴァと変わらないし植生もパッと見変わらない気がする。
でも何故か魔物の種類や強さが変わるという不思議。
何なんだろうね?
封印山脈が影響している可能性もあるのかな?
森へ辿り着くまで普通のゴブリンや角兎が出てきたけど、私の戦斧やステラの蹴り、ラルの拳が全部黙らせた。
黙らせるって言うかまぁ、息の根も止めてるし収納しちゃってるけど。
森の植生はアースタ側とそんなに変わらない様に思えるけど、何となく気配というか魔力の質が変わった様に感じる。
ちょっと濃厚で猛々しい気配が強いのだ。
この魔力の質が影響して、魔物も変異しやすいのかもしれないね。
森に足を踏み入れると、早速茂みから牛のような大きさの角兎が飛び出して来た。
角は捻じくれていてグルグルと回ってるし明らかに普通の角兎じゃないけど、まぁ街近くに出てくる魔物など敵とも言えないと言うかなんというか、サクッとラルが手刀で首を落としてた。
おぉとか、流石はとか、野次馬さんたちは驚くどころか納得している様子だ。
試験官であるアウルさんは淡々とメモをとったりしているだけで反応らしい反応はなく、もう居ない者として考える事にして私はさっさと魔物の死体を収納する。
舐めている訳じゃないけど、隊列を意識する事なく適当に歩いてズンズン奥へと進んで行くと、木の影から黒い肌のゴブリンが次々と湧き出すようにして襲い掛かってきた。
シャドウゴブリンの群れだね。
よっしゃ!早速魔法でと思ったら、
「星乱光」
ステラが光魔法で作った光の手裏剣がサクサクとシャドウゴブリンたちの額に突き刺さり、あっという間に倒してしまった。
「綺麗な星!流石は…」
「護り手の…」
とか野次馬たちはやっぱり騒いでるね。
「次、私がやるからね?!」
ステラとラル、ついでにフラウにも告げて私が先頭になり進み始めると、木々の数が減り背の低い草に覆われ、苔むした岩がゴロゴロ落ちている広場のような所に出た。
岩からは良く見知った魔力を感じる。
岩に擬態している亜竜でその名もロックドラゴンだ。
ワイバーンの地竜版みたいな感じで竜の島でもその辺にゴロゴロいて、竜たちのオヤツにもなっていた。
岩の様に程よい硬さの外皮の歯応えがたまらないらしいよ。
私は岩を食べる趣味はないので肉を塩や香草で味付けして食べてたけど。
「竜斬斧乱れ切り!」
私は高速で移動しつつ斧を次々と振り下ろし、15体の岩にも見える亜竜を真っ二つにして、その死体を収納する。
その光景を見ていたアウルさんだけじゃなく、野次馬たちも目を見開いていた様な気もするけど気にしない。
「やっぱり魔封じの森の外周部よりは魔物の格が上だね」
「はい、亜竜種でしたら中層から奥以降に出没していた様に思われます」
アルディーヴァ周辺で冒険者経験がちょっとあるフラウが丁寧に答えてくれた。
てか五竜たちは多分深部まで潜ってたんだろうなぁ。
「次は私の番ですわね」
フラウはそう言うと先頭に立ち、私達はまたもや広場から木々の生い茂る森の中へと進んでいった。
勿論アウルさんや野次馬たちも一緒に付いて来てるけど、先程より距離が近い気がする。
外周部と言ってもそれなりに魔物は居るものだし、町からすぐと入って一時間の地点では魔物も強くなっていくから不安もあるだろうし仕方ないかな。
冒険者も複数居るけど、普通の市民だとここから少人数で帰るとか怖いだろうし。
魔力感知や探索も使用して見ると、居るね。
それもすぐ近くに。
かなりの勢いでこちらに向かって来てる。
私が空を見上げると、少し遅れてフラウとラル、そしてステラの順で同じ様に上空を見上げ始めた。
ラルは神獣だしフラウは真竜だから特殊なスキルを使わなくてもその感覚は途轍もなく鋭いし、ステラはちょっと特殊な魔法使いだから魔力に敏感だし、私が言わなくても皆索敵能力は高い。
「ロックドラゴンの血の臭いに惹かれたのかも知れませんね」
そう言いうフラウの頭上には半透明の乙女たちがフワフワと舞っていた。
原初の冬たる精霊の群体にして冬の精霊王、それがフラナヴァータのもう一つの姿だ。
「さぁ可愛い私の妹達。出迎えて差し上げて」
フラウの声に乙女達はクスクスと笑いながら従い、空高く舞い上がる。
ガルルッ!
獣にも似た声が木々の間から聞こえて来たけど、それにも増してオホホとかウフフなんて笑い声が高く響き、キュゥ〜みたいな悲しげな獣の如き声が聞こえて来たと思ったらドーン!バキメキと言う音と共に地響きが伝わって来た。
きっとぐるぐるフーッで何かを倒したんだろうなぁ。
「さて、まいりましょうか」
にこやかにフラウが言いつつ歩き出し、私達は微妙な気分でその後を追うのだった。




