その53 隣国へ
レイ・ラーサの規模とか間違えていました。
規模は中規模国家、人口は小規模国家でしたので修正しました。
その53
ジャンドゥーヤの迷宮核へ経験値を分け与えてから数日後、私とラル、ステラの三人はフラナヴァータの背の上に居た。
広大な魔封じの森を超え、封印山脈の上空すらも軽々と飛び越える。
本来の姿に近い状態で飛んでもらっているので、ワイバーンや竜などの高空を飛べる魔物に襲われる事も無く、風の障壁で守っているので強風や低温等々に悩まされる事も無い楽な旅だ。
まぁ私もラルも、ついでにステラも障壁なしでも余裕ではあるんだけど、楽な方が良いじゃんね?
ちなみにジャンドゥーヤ迷宮へ与えた経験値はかなり多かったので、元の状態に戻る事が出来た上に竜やゴーレム、夜魔やら神殿系の階層も誕生したのだとか。
レベルアップはする毎に必要な経験値がどんどん高くなっていく。
例えば人種が1レベルから2レベルに上がるのに必要な経験値が10だとして、1,000レベルから1,001レベルへ上がるのに必要な経験値が1,000,000必要だとするみたいな感じだね。
あの時私は2,700レベルあったのが1,300までレベルダウンした。
ドラゴン討伐何千何万回分だよ?ってくらいの経験値である。
そりゃ元気にもなるよね。
その後ゴタゴタ色々あって、この四人で亜人王サティルカーリ討伐のため旅を続ける事になった。
まぁ妖精王から招待状が届いただけなんだけど。
『舞台は整った。
隣国、レイ・ラーサ聖王国にて幕は開くだろう』
なんつーか、ムカつく文体だった。
あいつ、今度会ったら本気でぶん殴ってやろうと思う。
今向かっているレイ・ラーサ聖王国は、アースタ王国の最北端であるアルディーヴァ辺境伯領から見て封印山脈を越えた向こう側にある。
広大な魔の森と封印山脈に遮られているせいで陸路だと馬車でも何十日も掛かってしまう位、近いけど遠い国なんだよね。
レイ・ラーサは西大陸中、人口という意味では小規模国家、でも国土の広さは中規模国家並みって感じの国で、遥か昔日月星の三神に導かれた民たちが作ったと言われている。
十神を信仰してはいるけれど、中でも三神を主神として崇めているという西大陸では珍しい国でもある。
自然が豊かな国だけど、逆に言えばいくつもの山々や森林、湖を内包している上に東から北東にかけては海にも面している多種多様な魔物が跋扈する人外魔境だ。
アースタ王国の辺境とは大違いの本物の魔境と言えなくもないと言うか。
勿論他の大陸も含めると、もっと過酷な環境はいくらでもあるんだけどね。
だからこそ地や森などの自然そのものを敬う以上に、天の声や人々の住まう地を照らす光に希望を見出したのだろうと思う。
まぁそんな国なので様々な脅威の中で生き残っているせいか、騎士や軍関係者、冒険者などの戦闘職のみならず町や村の住民たちすらも比較的平和なアースタ王国の標準レベルを遥かに超えまくっている。
西大陸の一般人の平均レベルは10前後だけど、この国だと50前後が普通で、騎士や兵士、勿論冒険者もずっとレベルが高いんだよね。
騎士団や宮廷魔法使い、神官や冒険者などでも上位の者たちだと1000レベルを超える者すらある程度はいる。
何ならその昔旅してる時に戦った事があるし。
結果的に高い戦闘力を持ってしまった国だけど、海を含めて国を囲む山や森などが天然の壁になり、他国からの武力介入を防いでいる反面、自国も外に出にくいと言う微妙な事になっていた。
一騎当千の猛者たちならば他国へ攻め入る事も可能だけど、それは国の、つまりは町や村の守りを失う事になりかねないと言うね。
そもそも自国の領土すら持て余しているくらい広い感じなので、攻め込む所じゃないんだけど。
アースタの様な比較的平和な土地ならいざ知らず、いつ何処から強力な魔物が現れるか分からない土地なので。
普通のゴブリンや角兎など何処にでもいそうな魔物も生息しているけど、亜種も多くて無駄に強かったりする。
例えばシャドウゴブリンやポイズンゴブリン、螺旋角兎に刃耳兎とか、繁殖力はそのままにレベルは通常種の十倍前後はある魔物が町や村の近くにある森や草原に居るくらいだし。
だだっ広い国土の何処が舞台とされたのか?
その辺の説明が招待状には全く書かれていなかったので、取り敢えず私達は王都であるレイ・ラーへと向かうことにしたのだ。
国名からサが抜けただけとか、色々と勘違いが起こりそうな気もするけれど、シンプルで私は好きだ。
呪王討伐やジャンドゥーヤ迷宮の回復の後も短い間に色々とあった。
つい数日前の事なのに、ずっと前の事みたいに感じる位には。
再び小屋で目が覚めると室内は真っ暗になっていた。
寝てる間に夜になったらしい。
私はゆっくりと体を起こして足を床へ下ろしてベッドに腰掛けると、光魔法で小さな明かりを灯した。
急なレベルダウンによる影響はもう抜けた様で、目眩のような症状もない。
私は立ち上がると部屋から出てリビングへと出た。
リビングにはちょっと弱めの明かりが灯されていて、ヴィンドゥナガが一人で何やら飲んでいる。
薄暗いせいだろうか?何だかまた少し彼が老けた様な気がする。
テーブルの上には酒瓶の他につまみなのかチーズや干し肉、果物なんかが置かれていた。
魔王たちはみんな収納魔法を使えるのでそこから出したのかも知れない。
琥珀色の液体をグラスで飲む彼の姿はいつもの元気なオッサンではなく、妙に渋い様な落ち着いた雰囲気を醸し出していた。
「おう、目が覚めたか」
口調こそいつも通りだったけど、やっぱりいつもと違う雰囲気にちょっと戸惑う私に、ヴィンドゥナガが苦笑いを浮かべて口を開いた。
「たまには一人で静かに酒を飲みたい日もあるわい」
照れているのかな?
グイッとグラスを傾けて酒を飲む。
あぁ、やっぱりだ。
まじまじと意識して彼を見てみると、あの蝶と戦っていた時より明らかに老けている。
皺も増えて肌のはりもくすみ、体も僅かに小さくなっている気がした。
「妖精王が言ってた事、本当なの?」
あれこれ考えても答えは出ないだろうから、私はどストレートに聞いてみる事にした。
「あぁ、あれか。
うむ、そうじゃの。思ったよりも早く魔王としての力が減っておるな」
妖精王と聞いて一瞬嫌そうな顔をしたけど、しかたねーなみたいな感じでヴィンドゥナガは話し出した。
「儂ら魔王は何かしら強い拘りをきっかけに変異するのじゃが、逆に言うとその拘りに強く縛られる事は知っとるな?」
「夜魔王が三姉妹になったのもそれが原因だったよね?」
「うむ、そうじゃ。あれはヤツの様な魔王なら軛を抜ける上手い方法じゃが儂やユグヌスク、呪王の様な拘りにはほぼ効果がない。
逆に効率的に力を伸ばす方法になりかねんな」
あー、一人で実験するよりも人手があった方が〜とか、別々に手分けして竜をテイムしに行くとか、そっちにシフトしてしまうって事かな。
「理について詳しい者は神々位じゃろうが、長い間縛られている内に分かる事もある。
平和が訪れても抑えられぬ内なる衝動が尽きぬ夜魔王然り、魔王が魔王として存在する為には拘りから大きく外れる事は出来んのじゃ。
存在その物が普通の生き物より理に強く影響されとるからの」
なにそれヤバいじゃん。
天人が天人である事を辞めて人間やエルフになれないのと同じだ。
魔王は魔王を辞める事は出来ない。
すでにそういう生き物だからだ。
そして拘りに縛られると言う理は、その存在、生命にすら強く影響を与えているって事だ。
魔王へ進化する事で止まっていた老化が急速に始まり、妖精王が言っていた様に持てる力すら弱まっていく。
三大魔王と呼ばれていたヴィンドゥナガの力は、既に他の魔王よりも弱まっているのだろう。
「どうにか出来ないものなの?」
一応先祖かつ師匠と呼べなくもない人物の存在そのものが、私のせいで尽きようとしている。
亜人王の封印やらで私や四竜、いや、五竜がちょっと特殊な状況になっていたけど、開放されて再び五竜が眷属となり、私自身も力を取り戻した。
それにリューネさんの特訓や五竜の素体を得る為に西大陸近くの島で、山に住む竜たちを支配下に置いた事も強く影響しているのかも知れない。
魔王としての拘り、在り方の均衡が崩れてしまったのだ。
「五竜たちがサラを選んだ時点で多少は影響を受けておったのだがの。
フラナヴァータ以外は眷属ではなくテイムとしての従属じゃったからまぁどうにかなったのじゃが」
そう言うヴィンドゥナガの表情は、疲れを感じはするもののどちらかと言うとちょっと安堵した様な柔らかなものだった。
「四竜の眷属化が大きな影響を与えたんだね?」
私の問に彼はうむと頷く。
私が竜の島に行かなければ、なんて思いが浮かぶけど、四竜を眷属から外してヴィンドゥナガへ返すなんて事は嘘でも言えない。
彼ら四竜、フラナヴァータを含めると五竜達は私を守る為にその存在すらも賭してくれたのだから。
「まぁそんな感じじゃな。
だが勘違いするでないぞ?
ワシは今ほっとしておる。
永すぎたんじゃ」
ボソッと呟かれた言葉には、心からの安堵感が籠もっていた。
何と声を掛ければ良いのかちょっと考えていると、
「呪王の主体を倒した事でサラ、お主の格は上がっておる。
単なる勇者のギフト持ちと実際に魔王を倒した勇者の違いのようなもんじゃの。
まぁ色々と特殊な状況じゃったしレベルも下がったようじゃがその事実は変わらん。
じゃからな、ほれ、受け取れ」
ヴィンドゥナガから小さな光が飛び出して、私へと入り込んだ。
「ちょっ?!何これ?!」
「なぁに、老いぼれた爺さんから可愛い孫へのちょっとしたプレゼントじゃよ」
特に大きな変化は感じなかったけど、次の瞬間天の声が聞こえてきた。
〈眷属である竜王ヴィンドゥナガより存在の一部を譲渡されました。
これにより竜使い10、竜語10、竜人格闘術10へスキルレベルが上がりました。
特殊称号ドラゴンマスターを得ました〉
「存在の譲渡って?えっ?いやいやいや、それは駄目でしょうよ?!」
天の声のとんでもない内容に私は焦ってヴィンドゥナガへ詰め寄った。
妖精王は五竜を従える私の近くに居るだけで四竜を従える竜王は弱体化すると言っていた。
そんな状態なのに竜王の根幹とも言える力を一部とは言え私へ渡すとか自殺行為以外の何物でもないじゃんよ!
「魔王を継げとは言わんよ。
これは碌でも無い呪いの様なもんじゃし、そもそも引き継げるようなもんでもないからの」
穏やかに笑うヴィンドゥナガの皮膚がぽろりと崩れ落ちた。
薄暗くて分かりにくかったけど、よく見れば存在の譲渡の影響なのか腕や首筋なども白くカサカサになってポロポロと零れ落ち、断片は床に落ちる前に光の粒になって消えてゆく。
これはアムリタやソーマなどでも効果がないだろうし、祈念魔法も意味がなさそうだった。
「やっと…終われる…」
その言葉をきっかけに体の崩壊は急激に早くなりあっという間に全て崩れ去り、衣類などを除き光となって消えてしまう。
カランと落ちた空のグラスの立てた音が、しんと静まり返った小屋の中でとても澄んだ音を響かせた。
そしてヴィンドゥナガの死は彼の支配していた竜たちにも大きな影響を与えたそうで、中でも島に残る四竜たちが暴走を始めたらしい事を私が寝ている間に目覚めたアルシェから教えてもらった。
精霊王でもある真竜たちの力は強大で、竜の島のみならず各大陸へも大きな影響を齎す可能性がとても高い。
妖精王や亜人王の動向が分からない以上、先に全員で向かって暴走した四竜をどうにかしようと言う話になった。
竜の島へは封印前にしか行った事が無く空魔法での転移はリスクが高いので、取り急ぎ準備を整えて皆で竜の島へ行こうかと思ったら冒険者ギルドにタイミング悪く一通の手紙が届いたと言う。
そう、妖精王からの招待状だ。
どちら事が解決するまでどれくらい掛かるのか分からないし、二手に別れて行動しようという事で落ち着いた。
フラナヴァータ以外の四竜はヴィンドゥナガに元々仕えていた事もあるので、ユグヌスクさんをリーダーとして四竜とノクス、ルーナ達が竜の島へ、そしてそれ以外の面子は妖精王の招待に応じて亜人王を倒すべくレイ・ラーサへと向かう事にする。
町やギルドで必要なものを余分に買い込んだり、あれこれ済ませた後私達2つのチームはそれぞれに旅立つのだった。




