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その52

その52


空は黒に近い灰色の雲に覆われているけれど、雨の日の昼程度には明るかった。


雪がちらほらと降ってはいるけど、視界を遮るほどでもない。


ただ足元は雪と氷に覆われていて、岩の代わりに大きな氷の塊がそこかしこに落ちて、その上にも雪が積もっていた。


氷塊のうちの幾つかには何かが閉じ込められているのか黒い影が見える。


魔力感知はここでも役に立たず、気配を読み取ろうとしてみると、複数感じ取ることが出来た。


なんつーか良く知っている気配に似ているねぇなんて思ってたら、向こうからやって来てくれましたよ。


青みがかった白い鱗を持つ氷竜と、真っ白な鱗を持った雪竜がそれぞれ三頭ずつ計六頭現れた。


「あー、なるほど」


ジャンドゥーヤ迷宮は低位から中位のダンジョンと言われている。


つまりはボスもそれなりと言う事だ。


今やアーストン迷宮の中層から下層近くで普通に出没する程度の魔物なんだけど、竜特化の私にとってはともかく普通はドラゴンって驚異だし、強さ的に下から数えた方が早い種の竜でもボス補正があるかも知れないから油断はしないでおこう。


そう心に決めた私は竜気を纏い羽衣を繰り出した。


「竜斬布!」


特殊戦闘:羽衣スキルのレベルが上がった事で覚えた技の一つを繰り出した。


てか天人剣や天術も含めてめっちゃそのままな名が多いのは何故なんだろうね?


戦闘モードの私からすると、竜たちの動きはとてつもなく鈍い。


レベルの差が如実に現れているね。


私は羽衣でスパスパと雪竜2体頭の首を落とし、そのまま高速移動してブレスを吐こうとしていた氷竜の頭に回し蹴りを入れ、次いで隣りに居た氷竜の胸に掌打を叩き込む。


回し蹴りをした竜の首は骨が折れたのかぐにゃりと曲がって倒れ、掌打を入れた竜は鱗がメリメリと音を立てて砕け竜気の影響もあって一メートル程陥没してそのまま吹き飛び氷塊に激突した。


私は掌打の反動を利用してクルッと宙で横転しつつ再度羽衣を操り、残る雪竜と氷竜の全身をぐるぐる巻にするとそのまま圧殺する。


掌打を受けた氷竜も心臓が潰れたのかちゃんと死んでるね。


「ボス補正、なかったね。

出来なかったの方が正しいのかもだよね。

核がそれだけ弱っているって事なんだろうな」


私はあれこれ考えつつ竜たちの死骸を収納し終わると、再び頭の中に例の声が響いた。


〈よくぞ試練を勝ち抜かれました〉


その声を聞いた瞬間、私は誰も居ない石畳と石壁の部屋へと転移されていた。


十メートル四方のその部屋は壁も床もひび割れ、所々崩れてしまっている部分もある。


出入り口も窓もない廃墟の一室みたいな感じだ。


その部屋の真ん中には人の背丈ほどはある大きくほぼ透明な水晶柱がフヨフヨと浮いていた。


水晶柱は一部が墨でも流し込んだみたいに黒くなっていて、意識して見ると凄くゆっくりとだけどそれが広がっているのが分かる。


『私がこのダンジョンのコア、迷宮核です。

迷宮主となられますか?』


アーストンの核さんに比べるとかなり声のトーンが弱々しい。



「もちろん!その為に試練を受けたからね!」


私はそう言うとコアに手を触れ、「サラストリー」と名を告げた。


『承認されました。

サラストリー様、これより貴方様がこの迷宮の主様でございます』


と迷宮核が宣言するとアーストン同様私と核の間に見えないパイプが繋がり、何かのやり取りがされているのが分かる。


〈特殊称号:ジャンドゥーヤ迷宮のダンジョンマスターを得ました。


解放条件が達成された為、全封印が解除されました。


これによりレベルが2700となり…〉


天の声がスキルポイントやステータスポイントの上昇なども含めてあれこれ告げて来たけど、私はそれどころじゃなかった。


見えない繋がりがきっちりと出来上がった、そんなよく分からない感覚を感じた後、私の中にいくつかの情報が流れ込んで来たのだ。


2体の魔王に管理事務所を奪われ、魔王の種で増殖していく蔦や瘴気に侵食されそうになった核は必死に抵抗する。


魔物たちもアンデッド化する事で核からの支配をほぼ受けなくなり、その結果力の大半を核の防御に回したけど、それでも少しずつ汚染されていったみたい。


核自身を隠すために魔力感知を隠蔽する以外の事は出来ず、階層はドームだけとなり一部侵食されてしまった影響で陥没や隆起、複数の大穴など核が望んでいない現象まで起きてしまった。


そして呪王とその分身体が私達に敗れた頃には核は限界に近い状態だったみたい。


あと少し遅れていたら、核すらも魔王の種と呪王に飲み込まれていただろう。


『マスターを得られた事で一部機能が回復しました。

核の浄化修復作業に入ります。

マスターの持つ星神の加護の影響で瘴気や魔王の影響は浄化されました』


「完全修復にはどれくらいの時間がかかるの?」


『限定的防御に存在の力の大半を消費した為、元の状態に戻るまでに最短で百年、最長で三百年前後掛かると思われます』


言われた時、私へぼんやりとした情報が流れ込んで来た。


あー、MPなどの様に少し休めば回復するような物ではなく、大きな怪我や病気みたいに治療や休息が必要なんだね。


私がマスターとなる事でアーストン迷宮が変化した時の様に、ジャンドゥーヤ迷宮も主を得る事で力を増しはするけれど、崩壊寸前にまで枯渇した状態ではすぐに完全復帰するには足りないのだろう。


ダンジョン用のポーションや回復魔法みたいな物は存在していないしね。


基本的に呪王が悪いのだとしても、こうなった原因の一つは私にもある気がしているので、何か良い解決策はないのだろうか?と核を通してイメージしてみると、幾つかの方法があった。


根本的には同じだけど、ベクトルが違う感じの嫌なものしか出てこない。


大量の魔石を与える


ドーム内に大量の生き物を連れてきて殺す(魔物でも人種でも可。レベルが高い方が効率が良い)


力ある者を人柱として捧げる


他のダンジョンの核を与える


などなど、死やそれ近いものばかりだった。


魔石はドラゴンを始めとして沢山収納しているから現実味があるけど、ポーションで言えば瀕死の人に初級回復薬をちびちび与えて回復を早めるのに似ていて、手持ちじゃ全然足りない。


基本的に迷宮は生き物に似ているらしく、魔物を生成しながら外部のものと戦わせ、その際の経験値的な何かを得ているらしい。


他にも色々と成長条件はある様だけど、血なまぐさいものが多いのはどうにかならないのだろうか?


あ、確かアンデッドなどはドレインタッチとかレベルドレインみたいな技を持っているのがいるし、闇属性の魔法にもその手のはありそうだよね。


その逆で存在の力とやらを私が分け与える事は出来ないだろうか?


完全開放によって一気にレベルアップはしたけど、正直な話サティを倒せる程度のさえあれば問題ないんだよね。


よーしよし。


私はステータスウィンドウを開いて

特殊戦闘羽衣、天術、光・空魔法、竜気操作を10に上げ、闇属性魔法も10レベルへ一気に上げる。


やっぱり闇属性はエナジードレインやレベルドレインが使えるね!


かなりのスキルポイントが残っているけど、レベルが落ちた場合消えるんだろうな。


下手に今のスキルレベルが落ちても怖いので、その辺も考慮しつつ闇魔法と天術を組み合わせる事にした。


勿論記憶を失わない様にちゃんと調整する。


まぁレベルドレインで記憶喪失になった話も聞かないから平気だろうけどね。


術式は組み終わったし、やってみますかね?!


「レベル贈与!」


まんまな呪文名を宣言すると、私と核との間にあるパイプが強く反応するのが分かる。


『マスター?一体何を?!』


驚く核に返事をしたいけど、ぶっちゃけそれどころじゃない位にスルスルと私の中から何かが失われて行くので、術を制御するのに必死でそれどころじゃ無かった。


やばっ!与える間も自分の力がどんどん流出してレベルが落ち、それに伴ってステータスも下がっていくから調節がめっちゃ難しい。


目の前にある核が徐々に輝きを増し、それに連れて私のレベルがグングンと下がっていく。


ステータスウィンドウを出してからやれば良かった!


そう後悔してもすでに遅く、これ以上続けるとレベル以外の私という存在すらも与えてしまいそうだと言う所でどうにか術式を停止させる。


「ぜぇはぁ、ヤバかった」


核の輝きも気になるけど、それ以上に私の方が不味いことになってそうなので先にステータスウィンドウを立ち上げる。


名前:サラストリー


種族:天人


年齢:320歳


レベル:1300


スキルは減っていなかったけど、ベースレベルが半分以下になってた。


勿論能力値も半分以下になってるし、余っていたスキルポイントは無くなり、面倒でろくに割り振ったことのないから2000ポイント以上余ってたステータスポイントもレベル分しか残っていない。


まぁこれくらいならサティを倒せるからいっか。


ちょっと安心しつつも急激な変化に耐えきれず、私はパタッと倒れてそのまま意識を手放してしまった。




気付くと木で作られた部屋、多分私の小屋の中のベッドで目が覚めた。


狭い部屋の中、リューネさんがベッドの横に座って私の顔を覗き込んでいる。


その横にはアルシェの顔もあった。


「アルシェ、良かった。目を覚ましてたんだね」


私がベッドの上で体を起こしつつそう言うと、アルシェは「主!」と言いつつ飛びついてきた。


「サラさん!やっと目を…良かった。みんなを呼んできますね!」


私の様子を見てリューネさんは慌てて部屋を飛び出して行った。


ワイワイとラルや魔王たち、アニスなんかも部屋へと入ってくる。


いや、待って。


この部屋狭いんですけど?


一部の面子はふよふよと天井近くまで飛び、どうにか全員が入れたけど順番に入るって考えはないのかね?


「また無茶な事をしましたね」


アニスが渋い顔で言い、


「これだから目を離せぬのだ」


とラルはムスッとしている。


「随分と無茶をしたものだよね?次からは僕らにもちゃんと相談するんだよ?」


とユグヌスクさんが苦笑交じりに話すと、


「レベルが下がり過ぎとるの。竜の島で修行再開じゃなっ!」


とヴィンドゥナガが若干嬉しそうにしている。


「お前は馬鹿なのですか?

あ、馬鹿でしたね。

病み上がりなのですから療養が先なのですよ!」


とステラが竜王に突っ込んだ。


「生きているなら問題ないだろう?

美味いものを食べればすぐに元気になるさ!」


「流石にそれは無理があると思うがの?」


とルーナとノクスもワイワイとやっている。


何となくほっこりした気分になったら、また眠くなってきた。


吸い込まれる様な強い睡魔に瞼が勝手に閉じてしまう。


「ごめん。まだ眠いや。

もう少しだけ寝るね」


私は睡魔に勝てず、どうにかそれだけ告げると再び眠りにつくのだった。

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